第7話 大樹、怒ります

「どこに行くかと思ったらサイズリアでしたか」


 2人はファミレスの店内で昼食をとっていた。

 2人ともナポリタンを頼んでいる。それが届くまでの間、茜と2人でヘルファイの話をしていた。


「やっぱりストーリーとか音楽最高です」

「それはマジでそう」

「なんでこのゲームがあまり認知されてないんでしょうか」

「ダウンロード数見たら結構有名な気がするんだけどね」

「意外と大人の方のほうがよくやっているのかも知れませんね」

「そうだな」




 ナポリタンが届き、2人で黙々とそれを食べ始める。


(食べ方、綺麗なんだな)


 スプーンとフォークを駆使して丁寧に小さな口へと麺の塊を運び、もぐもぐと咀嚼して静かに飲み込む。


 少し、やってみたいことがあった。初めて、というわけではなく、いつメンとの時はよくやるのだが。


 スマホを取り出した大樹に茜は眉を顰めて、


「何をするんですか?」

「え、写真とってインスクに上がる」

「何の?」

「まあまあちょっと見てて」


 大樹は左手にスマホ、右手にフォークを持ち机を撮影した。

 そしてその写真を見せる。手前には大樹の皿、奥には茜の皿が見える。


「これ、上げても良い?」


 すると写真をガン見して、


「顔は映ってないですね。私の個人情報を一切出さないのなら投稿してもらって結構です」

「よっしゃ、ありがと」


 そうして大樹はスマホをポケットにしまった。


「あれ、投稿しないんですか?」


 大樹は口の中に入れたナポリタンを飲み込み、


「いや、流石に人の前でスマホいじってSNSやるのは失礼だろ。家帰ったら上げる」

「そういうものですか」

「そういうものだからさ、まあ今はお昼を楽しもう」


 そうして2人はまたナポリタンを口に運んだ。




 駅前。大樹と茜はそろそろ帰ろうかという話をしていた。


「すみません。お花摘んできます」

「お花摘むって、ああ、オッケー。待ってるわ」


 ありがとうございます、と駆け足で立ち去っていく茜を見送った後、大樹はベンチで座って待つことにした。


 スマホをぽちぽち。楓哉から連絡がきておりそれに返信していると、


「ねえねえキミ」


 大樹は顔をあげて、大樹に話しかけてきた大学生らしき女性2人を見上げた。


「うっわ、まじのイケメンじゃん」

「ほらー、だから言ったでしょ?アタシの目に狂いはないって」


 派手そうな格好の2人を大樹は眺めて、


「ありがとうございます。ところで、何か俺に用でもありますか?」


 すると彼女らは人好きする笑顔を浮かべて、


「今からうちら最近そこに出来たカフェいくんだけどさ、一緒にお茶でもしない?」


 逆ナンか。と大樹は心の中でため息をつき、


「いえ、連れがいるので」

「じゃあその連れの子も一緒でいいからさ」


 この2人はきっと大樹の連れが男子だと思っている。

 この場合時間を稼いで茜が来るまで待つか、正直に言うべきか迷う。


 しかし、迷う時間などなかった。茜の姿が視界の端に見えた。


「お待たせしました。草宮く、ん?」

「おかえり」

「もしかして連れって女の子?」


 女子大生のうちの1人が大樹に聞いてくる。大樹は堂々と、


「ええ。そうですが」

「ほら、確かにミカの目はイケメンを見分けるのは役立つけど彼女の有無は本当に役に立ってないじゃん。イケメンは大抵モテるから彼女いるんだって!」

「か、かのっ」


 茜がどもり、その女子大生2人が、


「あれ?もしかして付き合ってないの?」


 今度は茜に詰め寄りだした。


「よく見たらこの子髪の毛ボッサボサだし、肌もちょっと荒れてるね。陰キャって感じかな。確かにイケメン君と比べたらちょっとというかだいぶ見劣りするかも」


 心無い言葉を軽く笑いながら撃ち続ける。

 そして茜は俯いてしまい、標的が今度は大樹に向く。


「だから、さ、こんな子放ってお……」


 大樹はさっと茜の手を握り、


「さっきから聞いていればあなた達人の彼女に好き勝手言ってくれますね」

「あなた達がずっと捲し立てるから言えませんでしたけど、茜は俺の彼女ですよ?」


 茜が、小声で


「草宮君?」


 と聞いてきたので、


「少し、合わせて」


 そして強くその手を握る。その手はブルブルと震えていて、頼りなかった。

 もちろん大樹と茜は付き合ってなどいない。それにお互い恋愛感情を持っていない。

 だけど、大樹にとって既に茜は友達であった。

 大樹は普段は温厚で、確かに軽口はよく言うが、基本は笑っており、人にも優しい。


 ただ、そんな大樹にも逆鱗は存在する。それは自分の価値を無条件に否定されること。


 それをされると大樹は怒る。

 そして今、大樹にとって友達である茜を否定された。


 その今の大樹の表情は完全な無であった。


「なにがこんな子、ですか。俺にとっては大切な彼女です。この子がさっきどもったのはまだ付き合って日が浅くて、慣れてないからです」

「えっと、それは……」

「それに、そもそもなんですか?あなた達俺の事をさっき俺の事をモテるとか言いましたよね?彼女も大抵いるって。じゃあなんで俺に話しかけてきたんですか?」


 そして大樹は少し口調をゆっくりにして、


「茜はいつも冷静なんですよ。頭が良くて、勉強しか見えてないように見えて、でも趣味にはすごく熱心で、でもちょっとドジなところもあって、見てて楽しいんです。それに、雰囲気は確かに暗いですけど普通に話しやすいし面白いですよ」


 そして、


「上辺だけ見て否定するようなあなた達よりも断然良い子ですよ。茜は」


 と、決然と言い放つのだった。

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