第41話 確定演出キタコレ②

「!!!!!!」

「何発狂してんの?」

「!!!……あ、楓哉か」


 細い紙を崇めるように掲げている狂人に話しかけたのは親友の楓哉であった。


 クラスの半分くらいに大樹のゲーム好きは知られているので彼らも大樹をちらっと見た後自分たちの談笑に戻っていった。

 大樹は楓哉にその紙、チケットを勢いよく突き出した。


「近い近い。えーっと、『ヘルファイライブ全国ツアー』へえ、ペアチケットか。隣の県でよかったな」


 一歩下がってそれをじっと見た楓哉。


「これなんだけどさあ。二週間後、十一月二十二日なんだよ」

「なんで?」


 一般にチケット販売開始からライブの公演までは平均して半年ほどある。なのになぜ二週間前という時期なのか。原因は前日に遡る。




 いつものように大樹が帰宅すると自室の机の上に紙切れが置いてあった。その隣には付箋が貼ってあり、侑芽華の筆跡で


『誕生日プレゼント』


 大樹はカレンダーを見て嘆息した。そして早速母さんに電話をした。

 三コールほどで電話に出た母親に


「息子の誕生日くらい覚えといてくれよ」


 開口一番、速攻で文句を言った大樹に侑芽華は大きく笑い、


『その隣の紙見てないの?見てみなさいよ』


 大樹はそれをよく見ると小さく文字が書いてあった。それを気に留めずにその紙を裏返して、


「ギィアアアボドドー!!!」


 ショックで奇声を上げてしまった。


『変な奇声を上げない!』


 それは大樹がこっそりと欲しがったが侑芽華に相談する前に売り切れたヘルファイのライブツアーのチケットであった。

 というか変な奇声ってなんだろう。


『それが私からの誕生日プレゼント。ちょうどライブも誕生日の前日だから良いんじゃない?』


 どうやら侑芽華は大樹が欲しがるだろうと予想してチケット抽選に応募し、当選したので誕生日プレゼントに取っておこうと考えいたらしい。


 大樹はルンルンでそれを財布にしまおうとしたが


『あ、それペアチケットだから誰か誘って行きなさい。まあ、ヘルファイだから、ね?』




 これがことの経緯である。


「楓哉一緒に行こ」


 大樹は親友に同伴を願ったが、楓哉はスマホを取り出して表情が渋いものになる。


「ごめん。その日県大会だわ」

「あ、もうそんな時期?まあ、がんばれよ」

「もしアイツに会ったらどうする?」


 瞬間、冷気が二人を包む。


「どうするって……俺には関係ないが、もし当たったら本気で潰してくれないか?」

「りょーかい」


 そうしてすぐにその冷たさは霧散し、メガネの奥の茶色の瞳が悪戯っ子のように輝き


「佐渡さんのこと誘ったら?」

「うううう」

「お前なんか変なところで固まるよな」

「変なところかよ。好きな人をライブに誘うのは難しいんだぞ?」

「僕は君たちのせいかおかげか好きな人と文化祭を回るように手配されてたんだけどね」


 そうしてニヤリと笑みが深まる。


「ああああ!!!」

(まさか、あの時から俺の敗北は決まっていたのか!?)

「何をバカなことを考えてるのかはわからないけど」


 思考が読み取られた!?コイツまさか


「テレパシストか!?」

「そんなわけないでしょ」


 大樹と楓哉が茶番を繰り広げていると


「あ、あの……」

「おはよう佐渡さん。ごめんね」

「!?」

「おはようございます。一体、たい、草宮君は何に驚いているんですか?」


 楓哉は片手を上げて去っていった。大樹は机に突っ伏し、そして、すくっと顔を上げた後、小さい声で


「おはよう。茜」

「おはようございます。大樹君。今日は文芸部があるので忘れないでくださいね」




 文芸部という空間が大樹に特攻刺さっていると気づいたのは最近のことだ。

 好きな人と少し手狭な部屋に2人きり。それも誰も近寄らない旧校舎の隅っこ。それだけじゃない。


「……大樹君」

「……どうした」


 ジトっと目で見てくる。文芸部活動中はなんと茜が髪をどかしてピンで止めているのでその綺麗な瞳が大樹を映し出す。


「なんか今日おかしくありません?」


 おかしくもなるだろう。今から好きな人にライブのお誘いをするのだから。


 大樹は目を閉じて、ゆっくりと目を開く。混線した精神は絡まりを解き清流のように流れる。


「茜」

「どうしましたか?」

「十一月二十二日空いてる?」

「別に、空いてますが……年がら年中暇人なので!」

「あ、いや。別にそこまでは言ってない」


 ちょっとキレられてしゅんとした大樹はすぐに持ち直して、再び思考を清流に変える。


「それでさ、その日ヘルファイのライブツアーが隣の県に来るのは知ってるでしょ?」

「ええ。応募したけど当たらなくて残念です」


 来た!確定演出!


「俺ペアチケット持ってるから一緒に行かない?」

「へ、持ってるのですか?」


 大樹は財布からそれを取り出して茜に見せる。その目がキラキラと輝いているのが見えて大樹は小さく笑い


「俺は茜と行きたい」

「ふぇっ?」


 そして、茜の顔はカァッと赤くなり、彼女は白い手で両頬を押さえて、しばらくした後に


「〜〜〜〜〜!!!!!」


 髪留めのピンを勢いよく外して前髪を全部下ろした。しばらく机に突っ伏し動かなくなった後、ゆっくりと頭を上げて


「私も、大樹君と行きたいです」

 



 カウンターが きまった!

 たいじゅに999の だめーじ!

 こうかは ばつぐんだ!






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