武道大会編
第63話 武道大会に向けて
最近は昼食をいつメン+茜で食べるようになった。
「茜ちゃん今日はサンドイッチ?」
「はい」
茜は弁当箱の中からラップに包まれたそれを取り出す。
「わー、美味しそう!」
「あげませんからね」
「けちー」
「けちでもいいんです。主食は私にとっての生命線ですので」
茜は最近美羽と打ち解けてきたのか自分の意思をはっきりと告げるようになった。美羽もその変化には気がついているらしく茜と楽しそうに関わっている。
「茜さんや」
「はいなんでしょう」
「購買のアップルパイ一個と交換でどうでしょう」
どうやら美羽は茜のサンドイッチを諦めていなかったらしく交換を持ち出した。
「アップルパイ……非常に魅力的な提案ですが明らかにアップルパイの方が単価高くないですか?」
「茜ちゃんってもしかしてそういうの気にするタイプ?」
「はい。お金に関するやり取りはきちんとした方がいいと思うので」
「わお。真面目だ」
「これに関しては真面目というか茜がしっかりしてるんだと思うよ」
「大樹に同感ね」
「右に同じく」
「楓哉それ右壁」
「左に同じく」
「……左美羽だけど」
「……バカじゃん僕」
楓哉は頭を手で押さえた。美羽が「ぶーぶー」と不服を表明しているがみんな苦笑いで済ませていた。
『生徒の呼び出しです』
突然の校内放送にクラスメイトの視線がスピーカーの方に集中する。
「なんだろ」
『一年四組草宮大樹君、一年四組水無月楓哉君。至急一年担任室に来てください』
「マジで何の用なんだよ」
「まあとにかく行くしかないよね」
大樹は最後の卵焼きを口に放り込むと弁当箱を片付けて立ち上がった。クラスメイトに「何したんだ?」と笑いながら言ってくる中を通り楓哉と廊下を歩き一年担任室にたどり着いた。
作法に則り扉をノックする。
先生から許可をもらい大樹と楓哉は担任室に入った。見渡すと学年主任の先生が手招きをしており二人はそちらに足を向ける。
「座りなさい」
先生は大樹と楓哉を椅子に座らせてその後紙を取り出した。なんの紙かがわからず首を傾げる二人に先生は
「これは空手のトーナメント表だ」
そう言ってA4サイズの紙を見せてくる。参加者は三十人ほど。今年はどうやら多い方らしい。見ると真ん中の方の目立たない場所に大樹の名前があり、一回戦の相手が楓哉だった。
先生は困ったように頭を掻いた。
「水無月が異常に空手強いのは知っているからバランス調整のためにシードを導入したい。ただそうすると草宮の一回戦が無くなる。オープンになるからな。それで良いかという確認だ」
「もちろん。むしろ大樹もシードになるのは妥当ですね」
「おいっ、お前……」
大樹は慌てて楓哉を止めるが
「それはどういう意味だね?水無月」
学年主任の先生の訝しげな視線に楓哉は自信満々に
「大樹、中学校の時に空手東海優勝してます。なんなら全国ベスト4まで行ってます。色々あって今はもう大会に出てないですけど実力は僕以上ですよ」
「……ええっ!?」
いつも理知的と言われる学年主任の素っ頓狂な声がパソコンの音だけが聞こえる一年担任室に響いたのだった。
帰りのホームルーム。武道大会のトーナメント表が発表された。
「空手で水無月がシード持ちなのは分かるけどさ草宮はなんで持ってるの?」
「ああそれは実は大樹が中がっ───────」
「抽選で選ばれたらしい」
何か言おうとした楓哉を遮り大樹は適当な理由を付けておく。その質問をしてきた隣のクラスの生徒、結城は納得したように頷き、楓哉の方を向き直って
「決勝で勝負な。負けた方ファミレス勝った方に奢るってことで」
「あれ、結城そんな強いの?」
すると彼は自信ありげに胸を張り
「これでも一級なんだけど」
高校一年生にしては上位に位置する段位だろう。
「ごめんな結城。僕二段なんだ」
ただ、
その証拠に結城は目に見えてしょんぼりしている。
「じゃあ、会えるなら決勝で会おう」
楓哉がそういうと結城は目に見えてしょんぼりしながら帰っていった。
楓哉はトーナメント表を眺める。結城の名前は順当に勝ち進めば決勝で楓哉と当たることになる場所にある。
それを確認した楓哉はもう見えなくなった彼に
「結城。君多分僕と勝負できないよ」
結城の二回戦の相手が大樹であることに気がついたのであった。
「王手、詰み、ですね」
「参りました」
放課後文芸部室。大樹は武道大会で将棋に出る茜と将棋を指していた。
通算戦績二勝八敗。たった今も頭金という定番の詰まされかたをした大樹は苦笑いを浮かべた。
「茜強くない?」
「せっかく出るなら少しでも勝ちたいのでお父さんと冬休み中は将棋をしてました」
佐渡家は純和風の屋敷のような外観で、実際に一階は和室が多かったのでそこで将棋を指すのは雰囲気が出そうで楽しそうだ。そんなことを考えていると茜が再び駒を並べ始めた。
「もう一戦しましょう」
「今度こそは勝つ!」
「「お願いします」」
二十分後、龍王に串刺しにされた王将を大樹は苦笑いで見つめたのだった。
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