第128話 夕闇
「ご、ごめんなさい……」
「良いって、気にすんな」
しばらく六人ではしゃいでいると、茜が足を滑らせ、一回海に沈没した。
すぐに近くにいた美羽と楓哉が引き揚げてくれたが、その時に海水を飲んでしまったらしく、気分が悪いとビーチパラソルの影で休んでいるのだった。
「大樹君も私のこと気にせずに、遊んできてくださいね」
茜がなんて事のないように言うが、大樹はそれに反論する。
「いやいや、茜といるのが一番楽しいから」
茜は少し照れたように頬を染めてプイッとそっぽを向いた。
「あ……好きです……」
急にこぼれ出たその言葉にちょっと照れながら大樹も大樹でそっぽを向いた。
失敗しました……予定ではラブコメ定番の日焼け止めを塗ってもらうやつを、してもらうつもりでしたが……
「あ……」
背中まで手が届いちゃいました。更衣室で前の方は塗っておくつもりでしたが……
仕方ないのでそのまま塗り塗り。
そんなわけで私の期待したラブコメ的展開は消え失せたのでした。
まあ、大樹君にラッシュガードを着せてもらえたのでセーフです。これもラブコメだと思います。
そしてその後皆さんでビニールボールを膨らませて水中でバレーボールのようなものをしていたのですが……
「おわわわっ!」
バシャン!
思い切り滑って転びました。すぐ近くにいた、美羽さんや水無月君に助けてもらいましたが、海水を飲んでしまったせいで気分が悪いです。
そんなわけで大樹君に介護されているわけでした。
茜が復活してまたしばらく遊んでいるとお昼ご飯の時間になった。
「はい!女子陣で作ったお弁当でーす!」
「「「おおおおおおお!!!」」」
「三人とも、静かにしなさい」
「「「はーい」」」
「なんだか皆さん可愛らしいですね」
「茜ちゃん、ダメだよこう言うのはすぐに調子乗るから」
「俺ら三人ともフィーリングで生きてるから確かにすぐに調子乗るぞ」
「胸を張って言う事なのでしょうかそれは」
茜は呆れたように呟く。
それに美羽は大笑い。皐月は苦笑いを浮かべていた。
「うまいなこれ。茜のやつだよな」
「うん。それ茜ちゃんが作ったやつだよー」
「ありがとう茜。めっちゃ美味しい」
「はい!」
「ねえねえ楓哉。私のはどれか分かるかしら?」
「えっ……」
楓哉は慌てて目の前にある巨大なお弁当箱を見る。
そして数秒考え込んだ後……
「ごめん。分からない」
「ええ。良いわよ。楓哉は私の作った料理食べた事ないものね。どっかの新婚夫婦とは違って」
「おいそれどういう意味だ」
皐月が意味ありげに大樹と茜に目線を向けてくるのでそう返す。
「大体俺たちが夫婦なんてな、互いにまだ16だぞ。なあ、あか……ね……ああダメだこれ」
そう言って大樹は茜に顔を向ける。そして諦める。
「えへへ。夫婦、ですか。えへへ……」
仄かに染まった両頬に手を当ててだらしない笑みをこぼす茜がいた。
「茜ちゃんはまんざらでもなさそうだね」
「大樹君は嫌ですか?私と夫婦になるの」
茜は寂しそうな目で大樹を見上げる。
「いや、そんなわけない。好きだし、どっちかが死ぬまで茜と一緒にいたいと思ってる」
「私も、そうですよ?できれば大樹君の最期は看取りたいと思ってます」
「いや、茜を一人にはできないから、俺の方が茜より長生きするつもりなんだけど」
「それは私もです。大樹君を一人にはできません」
「はいはい。仲がいいのは分かったから早く戻ってきなさい。そういうのは二人の時にやりなさい」
「「はい……」」
皐月には勝てないことを、この瞬間に認識した大樹と茜であった。
お昼ご飯を食べ終わって六人は再び遊び、女子人三人にやってきたナンパを男子三人で頑張って追い返し、逆ナンにやってきた大学生らしき女性たちは茜が大樹、皐月が楓哉、美羽が光希に抱きついて追い返した。
そんなわけで夕方。風が強くなってきて雲が広がってきたなと感じ、時間もちょうどいい感じなので解散しようと先に更衣室で普段着に戻った六人は片付けをしていた。この時間になると、いくら最繁期とは言え、なかなか人の姿は見えない。
「おー、綺麗な夕日」
「そうね」
片付けがひと段落してみんなで夕陽を見ていた。海に段々と沈んでいくそれを見ていると、ふと強い風が吹いた。
「うわっ」
美羽がかぶっている帽子が飛んでいき、砂浜の右端にある岩に引っかかった。
「あー、僕と大樹が取りに行くから待ってて」
「ごめんね二人とも」
楓哉と大樹は駆け足でそちらに向かう。また風が吹いたら今度こそ飛ばされてしまうであろう場所に引っかかっているそれに近づき、岩に登る。
「楓哉。肩車頼む」
「あいよ」
楓哉に肩車してもらい、いい感じの場所で腕に力を込めて飛んだ。
岩に飛び乗り、帽子を必死に掴む。そして片手を岩から外して着地。
「ナイス大樹」
「どうも。じゃあ、戻ろうか」
そう言って二人が踵を返そうとしたその瞬間……
「キャーーー!!!」
大きな悲鳴が、夕闇を切り裂いた。
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