大事なものを守るために

第127話 二人になったら二人の世界へ即帰宅

こっから完結までノンストップ!



「二人とも、早いね」

「ああ、おはよう楓哉と皐月」

「お二人とも、おはようございます」

「ええ、おはよう佐渡さん、大樹」


 駅前で談笑しながら待っていると楓哉と皐月カップルがやってきた。その手の繋ぎ方に大樹は絶句する。

 しかしその動揺を悟られないようにあくまでも平静を装う。

 そっと、茜の右手を握る左手を動かす。


 指同士を絡ませ合うように。今までの繋ぎ方よりも強い繋がりを求めるように。


 茜は一瞬びっくりしたようだが、大樹が何をしようとしているのかを理解して彼女も指先をモゾモゾと動かしはじめた。


 彼女の指と大樹の指とが完全に絡まった瞬間、なんともいえない心地よさに頬が緩んだ。

 そしてそれを皐月に見咎められた。


「あら、仲良しじゃない」

「そりゃ恋人だからな」

「でもさっきまでは普通の繋ぎ方だったわよね?」

「悪いか」

「まあ確かに私と楓哉は恋人繋ぎをしているものね。それより長い期間カップルだったのに……二人とも、奥手なのね」

「うっせ。ああ奥手だよ悪いか」

「まあ大樹はヘタレだもんね」

「(じぃーーー)」

「(じぃーーーーーーーーーー)」

「うっ、二人の視線が痛い……ねえ佐渡さん助けてくれない?」


 楓哉は茜に助けを求めたが、彼女は済ました顔で言い放つ。


「水無月君、ヘタレは良くないですよ」


 その瞬間、大樹と皐月の大笑いが早朝の空に響いたのであった。




「おー、みんな揃ってるねー。で、なんでそんなに笑ってるの?」


 寺田光希が来て、さらに数分後美羽が駆け足でやってきた。


「佐渡さん最高すぎるわね……」

「え、なになに?茜ちゃんがどうしたの」

「まあ色々あってね……」


 大樹がいまだに笑いの収まらない二人と、もはや諦めたような目をしている楓哉に変わって先ほどの話をしたところ……


 予定のバスに一本遅れたのだった。




 バスの乗り方は普通に大樹と茜、楓哉と皐月、光希と美羽が隣同士で座るという、なんとも普通な感じになった。


 バスは特になんの障害もなく進行し、すぐに海辺へとたどりついた。


 六人はそこで降りて砂浜を見つめる。


「おおー、空いてるねー」

「確かに。思ってるよりはましな感じだね」


 どちらかと言えば空いている感じの海水浴場へと向かうべく一旦男女に分かれて更衣室に入るのだった。




「二人とも筋肉すごいね……」

「ん?そうか?」

「まあ確かに空手とかで鍛えてるからね」


 光希がなんとも言えない目でこちらを見てきた。


「そういう光希もスリムじゃん」

「いやいや、僕のは脂肪も筋肉もない感じだから楓哉みたいに細マッチョじゃないんだって。当たり前のように二人ともシックスパックだし。ていうか大樹古傷みたいなの多くない!?」


 光希が大樹と楓哉を交互に見て絶叫する。


「まあ伊達に小さい時からフルコンタクト空手をやってないからね」


 ちなみにその数のほとんどは師匠か楓哉である。数こそ少ないが楓哉についている古傷も師匠と大樹のものが多い。


 傷は男の勲章、というわけではないが、自身についたこの大量の傷は自信にも繋がっている。


「よし、じゃあ行くか」


 着替え終わり、全員水着姿になった大樹たち男子三名は更衣室を抜け出したのだった。


「ん?」


 最後尾の大樹はピタリと足を止めて後ろを振り返る。


 人混みの中で一瞬何かを感じたような……


「大樹?何してるの?」

「お、ああすまん。今行く」


 少しばかり風が吹いていた。風の吹いてくる方向の空にはかなり距離があったが、分厚い雲が立ち込めていた。夕方くらいに一雨きそうだ。




 男集団で砂浜に拠点となるビーチパラソルとレジャーシートの準備をしていると、茜達がやってきた。


「みんな準備ありがとねー!」

「どーもー」


 三人はそちらに目を向ける。そして大樹の視線は、前に立つ少女達の一歩後ろで恥ずかしそうにしている少女に吸い寄せられた。


「茜。やっぱり似合ってる。可愛い」

「こ、こんな人前で言わないでください……照れちゃいます……」

「んー、でもなー。茜。これ着て」


 大樹はラッシュガードを脱いで茜に肩からかける。

 彼女はキョトンとした顔で大樹の顔を見上げたあと、視線が胴部に動き……


(ボフンッ!)


 すぐに真っ赤になった。

 身長差と体の細さが根本的に違う大樹は、彼女にラッシュガードをかけるのを手間取っていると彼女の指先がそっと大樹の腹部を撫でた。


「すっごくしっかりしてますね」


 少し、くすぐったい。それに、一回つーっと撫でた後はこちらを見上げて優しく微笑むものだから、心臓に悪い。


「茜は綺麗だよ」

「えへへ、ありがとうございます……」

「はーい! あれの迷惑にならないようにあたし達は先に海入ってよーか!」


 美羽の元気な声で、現実に引き戻された。


「あ、私できるので……」


 茜はラッシュガードを自分でそそくさと羽織ってそっぽを向いた。


「暑いかもしれないけど、ちゃんと前のチャックは閉めてくれ」

「なんでですか?」

「あんまり茜の素肌が他の人に見られたくない。俺だけに見せてほしい……って、独占欲やばいよな。ごめん」

「いえいえ。私も大樹君以外には見せたくないですので」


 そんなわけで、美羽によって一瞬現実に戻ってきたがすぐに二人の世界に帰っていった大樹と茜であった。



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