第109話 実はキス魔な茜さん
「ぉはようございます……」
「茜。多分時間的には『こんにちは』が正しいぞ」
「そうですね……あ、いい匂いです……」
十二時頃、大樹がお昼ご飯(昨日のカレーの残り)を温め直していると茜が降りてきた。
どうやらまだ眠いらしく目がしょぼしょぼしている。ただ着替え+寝癖はなんとかしたようで身だしなみは整っている。
大樹はそんな彼女を抱きしめてから解放する。
「大樹君ってなんだかすごく積極的になりましたね」
「そうか?」
「はい。昨日の夜なんてすっごくきすしてきたじゃないですか」
そう言って茜は恥ずかしそうに服の襟をちょっと引っ張る。すると鎖骨あたりに数個、その白い肌には似つかわしくない赤い点があった。
「ここに三つですね、あと、ほっぺに二つ、首筋にも二つ……えへへ」
茜はその部分を大樹に見せつけながら恥ずかしそうに微笑んだ。
「こんなに大樹君のものだって主張されて嬉しいです」
その赤い点は一般にキスマークと呼ばれるもの。強く吸い付くようなキスをした時につくそれがいくつか茜についていた。
大樹は恥ずかしくなって目を逸らすが、よく考えたらキスマークの数は大樹についている方が多いという事実に気がついたのだった。
「んっ、んふっ……」
「ねえ茜。積極的すぎない?」
「良いんです、んぅっ、せっかく大樹君と二人きりの時間を過ごしているならできるだけ……」
お昼ご飯を食べ終わって二人で並んで歯磨きをしたあと、リビングに戻ったとたん茜が頬にキスをしてきた。
何度も何度も、啄むようにキスをしてくる茜の頭を撫でているととてつもなく愛しさが込み上げてきて、大樹も彼女の耳元にキスをした。
「ひゃうっ!」
可愛らしい悲鳴が上がると彼女は弾かれたようにのけぞり、そのまま仰向けに倒れ込んだ。
それを慌てて抱き寄せる。
「みみが……」
「ごめん茜耳弱かった?」
「……はい」
「やっほータジュ!」
「おお美羽おはよ」
「ねえねえ、茜ちゃんとキスしたってほんと!?」
うわあ、お目目キラッキラ……
登校してきてすぐこれである。
「茜から聞いたのか?」
「うん!一夜を共にしたって!これが普通のカップルとかならもう一線超えたとか考えるんだけどさ、キミたちならせいぜいキスかなーって」
「ご名答すぎてぐうの音も出ない」
「あははっ!」
美羽はお腹を抱えて爆笑している。
美羽の笑いのツボが心配になったところで教室から茜が出てきた。
「美羽さん。おはようございます」
「茜ちゃんおっはよー!元気!?」
「はい……美羽さん?どうしましたか?」
「むむむむむむ……」
「おい美羽、どうした?」
途端に眉を少し寄せてじっと茜の顔を眺めた美羽。
その手が徐に伸ばされた。
「茜ちゃん。襟ちょっとめくって良い?」
「だ、ダメですっ!」
「ほんの一瞬だけで良いから!先っちょだけだから!」
「っ!それはそれで卑猥です!」
茜はもちろん押しに弱い。このままだと普通に制服の襟をめくられるだろう。
大樹のつけたキスマークで一番色濃く残っているのが彼女の首筋であった。
他は消えたらしいがそれだけは消えなかったらしい。
まあ原因のほとんどは茜が帰る直前に彼女の首筋に吸い付いた大樹にあるのだが。
そんなわけで茜の襟がめくられるのはまずいのである。
とはいえ、うまく止めるための文句も何も思いつかない。だから大樹は───────
「わお、ダイタンだね!」
「こ、公衆の面前で何やってるんですか!?」
大樹は茜のことを後ろから抱きしめた。
「まあ、察しのいい美羽ならこれで全部わかるでしょう」
「うん!よく分かった!じゃ、まったねー!」
「ほんとに要件それだけだったんだ……」
廊下を歩き去る美羽の背中を二人で眺めていると腕の中で茜がもぞもぞと動いた。
大樹は腕を離して茜を解放する。
「もうっ!そういう事するのは二人っきりの時だけって言ったじゃないですか!」
茜がぺちりと大樹の肩を叩く。
「ごめんごめん。それとも茜はキスマーク晒した方が良かった?」
「そ、そんな……」
「そこのお二人さん。仲がいいのは良いことだけれど教室前でしないでもらえるかしら?数人、入りたくても入れなさそうな人が居るわ」
教室のドアから皐月が顔を出した。そして呆れ顔をしながら二人に注意する。
「あ、ああ。そうだな!」
「え、ええ!」
「んじゃ、あとは三枝よろしくー」
「はい。じゃあみんな修学旅行の班決めね。四人グループを作ってちょうだい」
皐月の号令でクラスメイトが一斉に動き出す。大樹もすぐに立ち上がり、斜め後ろを向いてそちらに歩く。
「佐渡さん!組もうよ!」
大樹が茜の方に歩いていると茜が女子に話しかけられていた。最近仲良くしているのをよく見かける茜より少し小柄な西洋風の顔立ちの少女だ。ハーフらしい。
「ええ。分かりましたリズちゃん……あ、大樹君。組みましょう」
「俺もそれ言いにきた。それで、
「その、あの……樋口クンを誘っても良いの?」
「技術部の樋口君ですか?もちろんいいですよ?大樹君も良いですよね?」
大樹はもちろんと頷き、一人でどうしようか悩んでいる様子のクラスメイトに声をかけに行った。
次回投稿
10月11日予定
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