第45話 矜持①

 スポットライトが真っ暗なステージを煌々と照らす。

 そこに居たのは四人の男女、ヘルファイの音楽を手がける音楽ユニット、『GOetiA』である。


 地獄の青き業火の名を持つゲーム、四大悪魔の名を冠した音楽ユニット。繋がりがあってなんか素晴らしい。

 ちなみに悪魔の名前を冠した彼らは荒々しいものもあれば繊細で悲しいような曲もどちらも作れる天才集団である。


 ただ、彼らはいわゆるデスボイスなるものを使わないため悪魔要素が曲の中にほとんどない、あるとすれば歌詞に込められた人の残酷さや哀れさのことだろう。


「今日は来てくれてありがと!!!じゃあ早速行くぞ!一曲目はこれだ!『Good evening』!」


 そうしてバンマスがドラムを叩き……




「凄かったですね……!」


 ライブが終わり、せっかくなので一緒に夜ご飯を食べてから帰ろうと

「ほんまそれ」

「こんなにいい曲ぞろいのヘルファイが学校で流行らないのはおかしいと思います」

「実際なんでなんだろうな」


 ソシャゲだからと忌避する人もいるだろうがみんな絶対ツミツミとかキャットスーパーウォーズとかやったことあるだろう?あれもソシャゲだろ。多分。


 それと同じなのになんで広まらないんだろう。ただ、大樹は原因を考えたがなかなか結論は出ない。


 しばらく考えていると茜が口を開く。少し恥ずかしそうに目を伏せた彼女は


「でも、ヘルファイが人気だったら大樹君と関われませんでした」

「?どういうこと?……って、そうだな」


 元々大樹達の関わりはあのカラオケの日から始まった。それまではほとんど声を聞いたことがなかったのに、カラオケで茜がヘルファイの歌を歌うことを選択して、それに大樹が気付いたからこそ今日がある。


もしヘルファイが人気なら茜は『人気の歌を歌った』ことになり大樹の関心は向かなかったであろう。


 だとすれば……と思う。


(なら、その部分だけではにも感謝しなければならないのかもな。絶対感謝したくないけど)


 ひっそりと眉を顰めた大樹に茜が気づくことはなかった。




「定番ですね」

「二回目だけどな」

「高校生になってから二回の外食の両方はこのお店ですから私にとってこのお店率は100%なのです」


 何かよくわからないことを言い出した茜は前回と同じようにナポリタンを注文して丁寧に咀嚼している。


 やってきたのはサイズリア。茜と来たのはアニマーテ以来である。ちなみに店舗は違う。

 大樹はハンバーグをナイフで切ってフォークを使って口に運ぶ。


「今日の新曲、凄かったですね」

「ああ、『Blue Flores Aestate』か。歌詞的に次の章の主題歌になりそうだよな」

「サビのところとかもし次章の主題歌なら色々作中で言及されている『原初の地』に関係しているのでしょうか」

「だとするともう終わりが見えてきたよな」

「ストーリーが完結したらどうするのでしょうか……」

「エンドコンテンツをめっちゃ充実させるか『宇宙編』みたいな感じで引き延ばすとか……」

「引き延ばしてぐだぐだになるのは勘弁願いたいですがあのクオリティで続けてちゃんと完結してもらえるならむしろやってほしいです」

「それは同感」


 漫画とかライトノベルとかでもそうだ。人気が出たら引き延ばして引き延ばしてグダグダになったものを何度も見たことがある。大樹的には区切りがついたら完結してほしいと思っている派である。引き延ばし続ける必要はない。




「飲み物取ってくる」

「では待ってますね」


 大樹は立ち上がり、ドリンクバーの前に立ち、無難にメロンソーダをコップに注ぐ。


「はー。マジで水無月強すぎるって」


 水無月という言葉に大樹はピクリと動きを止める。楓哉の苗字だ。それに、ありふれた名前ではない。

 そして、この声。背筋がゾッとした。気づけばコップを持つ手が震えていて、大樹は左手で右腕を押さえようとする。


 なんでアイツがここに?いや、あり得ない話ではないか。話を聞いているとどうやら友人と居るらしい。空手の大会の打ち上げにでもやってきたのだろう。


 気づかれるわけにはいかない。


 大樹は少し落ち着いた手でコップをつかみ、席に戻ろうと歩を踏み出す。そして、その瞬間


「あ、お前は……」

「っ」


 バッチリと目があった。どうやらソイツは大樹に気づいたらしい。先ほど驚愕に見開いた目を今度は下卑たものに変える。


「これはこれは、東海大会王者、草宮さんじゃないか。今日の県大会にはいなかったようだけどどうしたんだい?あ、もしかして市大会敗退ぃ?まっさかー。でも、あの絶望したような表情のキミなら確かにありえるなぁ」


 コイツの背は少し伸びたのか、大樹を見上げるようだがその角度は小さくなり、その角度の小ささに不安を駆り立てられた。


「久しぶりだな、俺はもう空手をやめたよ。どっかのクズのせいでな」


 苛立ちを載せて吐き捨てる。頼むからどっか行ってくれ。


「誰がクズだよ。たかが小物を壊されたくらいで人に掴み掛かろうとしといてさ」

「っ!」


 大樹は顔を大きく顰めた。息が荒くなる。


 それは、草宮大樹が破った矜持であり、大樹の心に楔を打ち込んだ原因なのだから……




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