第48話 いつの時代でも爆死は付きもの
「お小遣いあげるから二人でお使い行ってきて」
「はーい」
大樹がリビングでダラダラしていると侑芽華がそう指令を伝えてきた。
「どこで何を買えばいい?」
「あー、卵が二パックと挽肉を三百gくらい」
そうして侑芽華は大樹に三枚の英世を手渡してきた。そういえばそろそろ英世ともお別れか。柴三郎になってもよろしく頼むよ千円札。
大樹は英世三人を握りしめて二階に上がり、縁の部屋のドアをノックした。
だだんだんだだん!
「パーリメーターのBGMでドアを叩くな兄さん」
直後に同じリズムで壁を叩かれ、ドアがゆっくり開き、不機嫌そうな顔の縁が目に入った。
縁は休日だからなのかいまだにパジャマ姿であり(現在午前十時)、寝癖もボサボサである。
よくこんな怠惰な女子に告白する男子が絶えないもんだな。
まあ確かに縁はそこいらを歩いている女子よりかは整った顔立ちをしている思う。
ただ、頭が良すぎるとは思う。兄から見ても妹の頭脳が恐ろしい。そのうちどっかの未解決問題でも解決するのではないかレベル。
縁は恋愛観に皐月と似たような感性を持っており、自分と頭脳でやりあえる人、以外はNGらしい。
まあ、そんな変な妹である縁だがこの具合だと出かけるのに時間がかかるだろう。
「今からサトーミッカドーに行って卵と挽肉のお使いを頼まれたから早く準備しろ」
「ちょっと待って聞いてないよそれ!」
「今さっき俺も母さんに言われたからな。ほら早く準備しろ」
「兄さん行ってきてよ」
「着いてきてくれたら縁の好きなレモンジュース二リットル入りを買ってやる」
「IQ160の最速準備、刮目せよ!」
大樹はドアを閉めるとドアの向こう側から慌ただしいドタバタとした音が聞こえてきた。
あ、絶対今転んだだろ。
どうして頭良くて運動できない人は運動に頭脳を頼るのだろう。確かにどっちもできたら御の字だが、ほとんどの場合無理だからそれ。
十分ほどリビングでスマホをつついていると縁が息を切らして階段から降りてきた。
「兄さん……!行くよ」
「ちょっとやっぱり遅かったな」
「休みの日ぐらい怠惰でいさせてくれ兄さんよ」
何はともあれお使いだ。大樹は妹と連れ立ってスーパーマーケット、サトーミッカドーに向かうのであった。
「『素数日キャンペーン!』なんじゃそりゃ」
「お母さんが言ってたけどn番目の素数の日はn%オフなんだって」
「じゃあ9%オフって普通にデカくね?」
「最近は卵が高いから素晴らしい」
買い物かごを手に取った縁はそれを小さく揺らしながら冷房の少し効いたスーパーマーケットに足を踏み入れた。
「レモンッレモンッ、ボクのレモンッ」
変な歌を歌いながら縁は挽肉を二パックカゴに放り込む。
そういえばさっきは考えなしにジュースという単語を使ったがジュースというのは果汁100%のもののみが名乗れる称号らしい。
故に普通のスーパーに売っているのは清涼飲料水と称される。まあ何も考えずにジュースでいいと思うが。
つまり言葉的には『果汁100%のジュース』は『クーポン券』や『フラダンス』、『ちゃんこ鍋』と同類のものであるといえる。
と、そんなどうでも良いことに思考を沈ませていると縁が立ち止まり、大樹も反射で急ブレーキをかける。
縁の眼前にはジュース、もとい清涼飲料水コーナーがあり、その中の『レモネード2L入り』と銘打たれたペットボトルに縁の視線は注がれていた。
「兄さん」
「レモネードな、買うぞ買うぞ」
「分かってるね」
大樹はかごにレモネードを入れた。一瞬縁の体が重みで傾くがすぐに立て直す。
かごを貰い受けようかと縁に申し出たがどうやら縁は自分で持ちたいらしく少しよろよろとしながらも確かな足取りでレジまで向かっている。
よく考えたら重さは大したことないはずだ。そんな疑問を大樹は感じたが
(まあ、運動できないのは知ってるし別に良いや)
と、納得したのだった。
帰宅しても大してするのことのない大樹は部屋でダラダラとしていた。クラスではかなり陽キャのように振る舞っている大樹だが素はインドアなのだ。
ソシャゲに勤しむことは非常に素晴らしい。大樹はスマホを開いて意識をゲームに持っていった。
数分後
「ゔゔゔゔゔぁ」
「入るよ兄さん……っ」
大樹がスマホを握りしめてベッドに倒れ伏してうめき声をあげていると縁が部屋にやってきた。
縁は倒れ伏した兄の姿に冷たい視線を向けて一言。
「死体がある」
「爆死した……」
「合ってるじゃん」
結果として爆死しているのだ。ほぼ死んだに等しいだろう。
「せっかく新ガチャのために石貯めてたのに……」
100連引いて当たらず。大樹は絶望に突っ伏した。これでもし準環境レベルが出ればまだマシだったが、100連中50連は最低保証であった。
「俺が前世で何をしたって言うんだよ……」
ソシャゲのガチャ運は時に輪廻すら関わってくる。もしかしたら前世は極悪人だったのかもしれない。
と、そんなことを考えていると
「母さんが呼んでたよ。早く降りてきてって」
大樹はゆっくりと体を起こして
「あぁ」
弱々しく呟くのだった。
作中では野口英世が千円の顔ですが現実ではもう北里柴三郎に変わったそうですね。裏面の神奈川沖浪裏が綺麗すぎた
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