第67話 反撃王

「バレたね大樹」

「ほんとによろしくないと思う」


 大樹は教室に戻り、楓哉と話していた。周りにはクラスメイトが集まってがやがや騒いでいる。


「草宮全国大会出たことあるって本当!?」

「一回だけな。運が良かっただけ」

「それでも凄いな!」

「出たことなら俺だけじゃなくて楓哉もあるぞ?」

「全国初戦敗退だけどね。大樹はベスト4」

「「「すげー!!!」」」


 男子が一斉に声を上げて、女子の目線が変化する。


「やば、草宮くんってそんなすごい人だったんだ」

「それでもあんまり鼻にかけないのって良いよね」

「うち楓哉くん派だったんだけど大樹くん良いかも」


 楓哉はその会話をしていた女子たちの方を向いて苦笑いを浮かべたあと大樹にこっそりと耳打ちをする。


「大樹には好きな人がいるからやめとけって言っとく?」

「いや、そしたらそれが誰なのかってなって茜が困るだろ」

「佐渡さんファーストなの気に入ったよ」

「お前も皐月一番のくせによう言うわ」


 大樹は口の端を小さく吊り上げ


「そろそろお昼の時間だね。ちょうど皐月も美羽もいるようだしみんなで食べようか」


 茜はいなかった。




「ここで茜ちゃんがここに桂馬を置いたら次の手で王手と飛車取りが入ったんだけどなぁ」


 パチン


「あっ!全然見れてませんでした」

「そうしたら私から飛車がなくなるから序盤からあそこまで追い込まれないと思うんだけど」


 パチン


 私は服部先輩と生徒会室で将棋を指しながらお昼を食べていました。どうやらさっきの試合の手を先輩は全て覚えているそうで『こここうしたら良かったんじゃない?』と言ったアドバイスを受けている最中です。


 それにしても強かったです。最後の方に思い切り攻め合いになったのが奇跡レベルに先輩はやばかったです。

 にしても───────と先輩は盤面に金を置き、そして私が諦めかけた局面へと戻ります。


「いやー。ここでほぼ詰みだと思ったけど一個しかなかった弱点を突かれるとは思わなかったよ」


 そして先輩はニヤリと笑顔を浮かべて


「草宮大樹くんが応援してくれたからかな?」

「……そうかもしれません」

「愛の力だねー」

「す、すす好き……なのかもしれません……」

「ちゃんと王手をかけて詰ませにいくんだよ」

「は、はい……」


 羞恥に私は前髪で顔を隠します。その様子に少し笑い声を上げた先輩は再びニヤリと口の端を歪ませて


「そうそう。武道大会が終わったら学年末試験があるだろう?それのちょっと前くらいにあるイベントを覚えてるかい?」

「そんなものありましたか?」

「ほらほら。私には縁がないイベントだよ」


 先輩に縁がないイベント?そんなものありましたっけ。なんでもフィーリングで動いている先輩はイベントごとが大好きですのでその先輩に縁がないイベント……


「バレンタインデー、ですね」

「間違ってないけど少し悔しいかな」

「安心してください。義理チョコは作ってあげますので」

「それはありがたい!ところで茜ちゃん」


 そして先輩は小さく呟くように


「ちゃんと本命は作ってあげなよ」


 パチン。私が詰んだ局面ができあがりました。




 武道大会で一番盛り上がっているのは空手だろう。全国クラスが二人も参加しているのだから。

 それを見ようと生徒は集まるし、対戦相手は全国クラスを倒そうと躍起になる。


『ただいまの試合、四対一で水無月選手の勝利!』


 準決勝を半ば蹂躙した楓哉は大樹に微笑んだ。そして口元が動くそれを読み取った大樹は


(『はやくこい』。やってやるよ)


 自信満々に笑い返したのだった。


 特に特筆すべきことがなく終わった大樹の準決勝。無事決勝に進むことができた。唯一記すべきことといえば相手のやる気が限界突破していたところだろうか。


『反撃王!お前を絶対倒す……!』


 確かに上手かったが七対二で終わったので楽だった。


「私はどっちを応援したら良いのかしら」

「ちなみに言っておくが勝つのは多分楓哉だぞ」

「あら、じゃあ私は大樹を応援するわね」

「楓哉にしてやれ。その方が楓哉も嬉しいだろ」

「なんで私の応援で楓哉が嬉しくなるのかしら?……まあ、分かってるけどね。見え見えだもの」

「流石だな皐月」


 どうやら皐月は気がついていたらしい。


「でも皐月も気になってるだろ?」

「え……ええ。こんなことを大樹に頼んで良いのか分からないけど、手伝ってくれるかしら?」

「先に言っとく。俺が皐月を手助けしなくても皐月ならなんとかできるだろ。それに俺は……」


 茜との関係を繋ぐほうが大事だと言おうとしてやめた。ここはクラスメイトが多い。聞かれたら大変だ。


 それでも───────


 いつか茜と一緒に笑えるように、そしてそれが少しでも早く訪れるように、今日の決勝戦、最強のライバル最高の親友に本気で拳を向けよう。





もうすぐ二章も終わりですかねー





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