第14話 文化祭準備①

「待てって!ディフラクタル回復しきってない!今食らったら……ぎゃー!」


 ヘルファイで1人で次元層を回すというバカの所業を行っていた大樹は蹂躙に遭っていた。新しく追加された現状最高難度のステージ。


「ライジングエクラトスの次元層ソロは無謀だったか……」


 第1形態はなんとか撃破できる。ただ第2形態で毎度ボコされている。


「動きが速すぎるんだよ」


 検索をかけたところ、有名配信者が実力者を集めて10回ほどチャレンジし辛勝したと出ていた。


 それをみていると、


「バフとデバフ積みまくって現環境最大火力で叩き割る感じか」

「これ一般人には無理じゃね?」


 札束でぶん殴っても勝てる気がしない。大樹は微課金であるが、ガチャ運のおかげでかなりの高火力を叩き出せるキャラは所有しているし、優秀なバフ装備も揃えている。


 それでも半分も削れない。

 オンラインの部屋に入るにも変なやつと当たったら嫌だなと思い、どうしようかと困っていたところ、スマホの上部にRIMEの通知が表示された。




 アカネ『写真を送信しました』

 アカネ『ライジングエクラトスの次元層難しすぎません?』


 大樹は乗りかかった船と早速返信をするのだった。




『通話は嫌です』


 そう断られた大樹は黙々と茜と一緒にライジングエクラトスの攻略を始めた。


 コミュニケーションは定型文でしか取れないので困ることもあるが、それでも茜の実力はかなりあるのでお互いがお互いのカバーを行うことができた。


『あともう少し』

『デバフは任せて!』


 大樹は苛烈な攻撃を掻い潜り相手に防御弱化を付与する。

 それをした大樹は今度はマップの端に行き、茜のキャラが心置きなく技を打てる様に次元層専用のギミック、『ヘルメスの楔』を起動させ、ライジングエクラトスを拘束する。


 そこに光の奔流が直撃し……




 翌日


「申し訳ありません。私の不手際で……」


 結果として、大樹と茜は敗北した。

 光の奔流、それはライジングエクラトスの体力を8割ほど持って行ったものの、その一撃に全てを賭けていたため、そこからはガス欠になり決定ができなかった。


「いや、俺も楔当てた後にもう一回デバフ掛けてたら勝ってたから責任は俺にもあると思う」


 それでも茜はちょっと落ち込んでいたので、大樹はこの話は終わりというふうに手を叩き、一つ尋ねた。そう言えば知らなかったこと。


「茜は何部なの?」


 すると、ちょっと躊躇しながら、


「文芸、部です」


 部員は私だけですが。と茜は苦笑しながら言った。

 大樹は空手を習っているとはいえ、帰宅部である。そして、


(もう少し、茜のこと知りたいな)


 恋心ではない。単純な興味。失礼かもしれないが、闇を抱えてそうな雰囲気の彼女が何を考えているのか。それが知りたかった。


 あと単純に文芸部にも興味はある。失礼だが何をしているのか謎なのだ。


「途中入部ってさ、受け付けたりしてる?」


 その言葉に茜はびっくりしたように目を見開き、(微かにしか目は見えないが)その後ぺこりと礼儀正しく頭を下げて、


「受け付けているので入部お願いします」




 段々と文化祭準備は進んでいき、映写機の購入も無事に終わった。


 そして迎えた文化祭前日。この日は一日中文化祭の準備にあたることができる日だ。

 中庭でワイワイと生徒が動き、技術部の樋口達が作業して作ってくれた角材を一旦設計図通りに配置して、釘を刺していく。


「ういしょっと」


 角材一本一本の重さは大したことないが、それを数本束ねて持ち運ぶ大樹の負担は少し大きい。


「ほい。頼んだ」

「任された」


 トンカチを振るい角材を組んでいく楓哉の横に再び角材を置く。

 ある程度までは作っておき、それを教室に運んでそこで最終的に組み上げる予定だ。

 角材の量はそこまでない。あくまで骨組み。

 大樹は今度は教室まで駆け足で移動するのだった。




「はい!ダンボール窓に貼ってって!暗幕だけじゃ遮光しきれないんだから!」


 キビキビと指示を出している皐月を横目で見ながら大樹は床に転がっている段ボールを一枚掴み、窓に駆け寄る。


 ガムテープが貼られたダンボールで窓が覆われていく。大樹は他の生徒と同じようにダンボールをきっちり隙間なく貼っていく。


 学校からの通達で1番上の小窓以外は覆っていいとのことだったので1番上は換気用に開けておき、他は全て覆うつもりらしい。


「ああ!そこ!そこに貼ったら他の場所貼らないでしょ?ちゃんと隅から貼りなさい」

「イインチョすんまそ」


 皐月に叱られた生徒はペロリと舌を出し、軽ーく謝罪したあと、大樹に、


「正直ご褒美」

「M系のやつかお前」

「いや、でも、あんな美少女に叱られるって逆になんか良くない?」

「そういうもんなのか?」


 世の中には様々な人がいるのだと実感した大樹なのであった。










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