第13話 いつメンのスペックがやばすぎた件

 ワイワイと人が集まって開会式が行われた。

 そして、開会から1時間ほどが経ち、シードである楓哉の出番が始まった。


 種目は組み手。

 やはり、強い。楓哉は東海大会に余裕で出るような実力者である。それに、油断というものを一切しないので絶不調でなければ市大会で負けることはまずない。


 一方的な蹂躙が行われる。なんとか相手方が見つけ出した起死回生の一撃もすでに読まれていたかのごとくカウンターをはめられる。




 そして、気付けば決勝戦も終わっており、楓哉は危なげなく市大会を制したのであった。


 大樹は大きく躍動する楓哉を眺めながら、自身のトラウマを想起しそうになっていた。




「3人ともありがとね!」


 楓哉が体育館から出てきたところをおめでとうと言って出迎える。


「ほんとに、楓哉は凄いわね。私は運動が苦手だから……」


 しかしこの発言が大嘘だと3人は翌日に知ることとなる。


「まあ皐月はそのおっきなおっ「美羽?」……ぐきゃあ!!!」


 美羽が皐月に頭をグリグリされているのを楓哉は苦笑しながら眺め、少し離れたところで田んぼを見ている大樹に話しかける。


「大樹もありがとね。見にきてくれて」

「……ああ」

「今度県大会があるけど……観にくる?」

「どう、しようか」


 大樹としては、親友の活躍を間近で見たい気持ちはある。だが、


「まあ、無理はしないでね」


 楓哉のその言葉に大樹はもちろんと頷いたのであった。




 帰り道、1人で住宅地を歩く中、大樹は何も着いていないリュックの紐の先を強く、強く握りしめたのだった。




 翌日、大樹はいつメンとテニスをしていた。

 この4人の中でも運動神経に特に自信のある大樹にとってこの会は楽しいものになると踏んでいた。

 確かに、めっちゃ楽しい。しかし……


「はあっ……はあっ……」

「まあ、こんなものね」


 皐月が強すぎる。4人の中で1番文化系の雰囲気を醸し出しているというのに、美羽、楓哉、大樹の3人を息切れ一つせずに完封しきった彼女には戦慄が走った。


『皐月にかっこいいところ見せるんだ!』と美羽が負けた後意気揚々とコートに入った楓哉が5分もしないうちに心を折られる様はなんというか哀れだった。


「中学に上がってからはラケット握ってないけど流石に小学生東海ベスト3の実力はなまってなかったわ」

 強すぎん?いつメン全員がスポーツで圧倒的な成績を残していることが大樹には驚きであった。


 大樹は全国、楓哉は東海最上位層に空手で上り詰め、美羽は短距離で県大会ベスト4。

 そして皐月もテニスの小学生大会東海の3位?


 やばい。それに、その中で皐月だけプラスでめっちゃ頭がいいというやばいやつである。


「なんかあたしだけ霞んでるんだけどー。みんな東海とか全国とかなのにあたしだけ県大会で止まってるんですけどー」


 美羽が頬を膨らませて不満を述べる。無論、本気ではない。目が笑っている。


「ねえタジュー。慰めてー」


 そう言って大樹の方にダッシュしてくる美羽だが、


「そういうのは俺は受け付けてないから皐月の方に行ってこい」


 美羽の手を引っ張って皐月の方に持って行った。


「いけずー」


 そう言いつつも美羽は満更でもなさそうに皐月に抱き付き、


「むふー」


 その双丘の間に顔を埋めていた。


「ひはー、やっはりさふひのはほっひいへ(いやー、やっぱり皐月のはおっきいね)」


 そのままモゾモゾと動くものだから皐月が後ろに下がろうとするがすでに美羽がホールドしているため皐月は下がれない。


「ちょ、やめなさい。ほら楓哉も大樹も見てるから……!」


 大樹は(あー、いつもの事か)と俯瞰を決め込んだが、楓哉はガン見している。そんな親友の肩をつつき、


「あんまりガン見したら皐月に嫌がられるぞ」


 楓哉はしばらくフリーズしたのち、はっとしたように視線を逸らした。




「ぅう。なあ、大樹」


 自販機で2人並んでスポーツ飲料を買っていると楓哉が懇願するように話しかけてきた。


「どうした?」


 いつもの軽そうな雰囲気はそこになく、沈んだような表情の楓哉に大樹は少し心配していた。


「なあ、皐月は僕のことどう思ってるのか、知らない?」


 大樹はあごに手を当てて少し考え込む。


「俺的には、良い友達って感じなんじゃない?」


 流石に異性としては見られていないだろう。と忌憚のない意見を伝えると楓哉は、やっぱりそうだよな、と項垂れた。

 大樹としてはこの親友の恋路を応援したいし、できることなら最大限のサポートをしたい。


 そう考えたので、


「まあ、とりあえずデートでも誘ったらどうなんだ?」


 いつものテンションで買い物でも誘えば良いだろう。そう提案した。


「デート、デートかぁ」


 どうやら真剣に検討し出したらしい親友を放っておいて大樹はテニスコートに戻るのであった。




 帰った後、美羽に電話で、


「かくかくしかじかで……」

『おっけー。任せな!』


 事情を伝えたあと、大樹は、そういえばとヘルファイを起動するのだった。

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