第10話 4月には
「じゃあドーム型にするとして、どうやって星を表現しましょう?」
「やっぱりここは機械使う?」
「いや、ドームの天井に穴を開けて光を当てるとか?」
「マジックとかで絵を描くのはどうでしょう!」
各々が思い思いに意見を言い合い、それを丁寧に皐月は黒板に記していき、意見が詰まったところで手をパンと叩いた。
「はーい。じゃあ、この中から良いと思うやつを選んで多数決とるわ。重視してほしいのは4箇所。見栄え、制作工程、コスト、そして期間。はい、じゃあみんな伏せて!」
そうしてクラス内での多数決が行われて、
「厳正なる投票の結果、映写機を使うことになったわ。じゃあ、それを踏まえた上で、必要な材料とその量を考えていくわよ」
ワイワイガヤガヤとその話し合いは進んでいき……
「じゃあ、大量の黒い画用紙を用意してちょうだい。あと、色んな色のビニールテープも必要だからある人は持ってきて」
基本的に大樹の放課後というのは暇である。
課題をしている時もスマホは大抵ベッドの上に放り出されている。そして、珍しくその日は電話が来た。
「誰だろ。インスクのDMとかRIMEじゃなくてわざわざ電話って」
そうしてスマホを手に取り、見ると画面には、『
『おお大樹。元気にしてるか?』
時差を考えるとフィンランドは朝だろう。しかし仕事はすでに始まっているはずで、そんな時間に電話してきたとなればかなり重要な話なのだろうと予想がついた。
「ああ、元気だよ。それで、何かあったの?」
すると、少しだけ口ごもり、
『お父さんの帰国が長くなった』
「ふーん。前からじゃん」
そんな感じで本来なら2年の単身赴任が4年続いている律基である。だいぶ重要なプロジェクトのリーダーで現場にいなければいけないのと、現地での住民との兼ね合いもあってなかなかプロジェクトが進んでいないというのは律基から聞いている。
だから別に1年のびても、「ああ、また1年伸びたのね」で済むレベルだ。
ただ、今回はそれだけではないらしい。
『分かってるとは思うが、お父さんとお母さんは相思相愛だ』
「それを自分で言うんだな」
『それで、時々会いに帰っているが、流石にもう1年伸びるとお父さんのお母さんロスが始まり仕事の能率が非常に下がってしまう』
「なるほど、だから母さんをフィンランドに呼ぶんだな」
『話が早い息子で助かるよ。お母さんの引っ越しは日本での来年度、つまり4月には侑芽華はフィンランドに渡る。まあ、それを大樹と縁には報告しておかないとなと思ったわけだ』
「縁には後で伝えておく」
『ナイス。じゃあお父さんは仕事があるからまた今度』
そうして通話は途切れた。
「今度の4月、ね」
大樹は壁にかかっているカレンダーにそのことを記入した。
「えー!!!」
夕食時、大樹がそのことを伝えると縁はびっくりして椅子から転げ落ちた。
痛みを訴えながら起き上がった妹は、ちょっと涙目になりながら、
「父さん確かに母さんのこと大好きだもんね」
「ほんとにな。帰ってくるたびにイチャイチャを見せられるから胸焼けする」
「まあそれが草宮家の風物詩みたいになってるけどね」
しばらく話しながら夕食を食べているとドアが開き侑芽華が帰ってきた。
「聞いたよ。母さん引っ越すんだってね」
「そうね。悲しいわ。あなた達の彼氏彼女が見れないまま異国の地へ行くなんて……」
「それは安心しろ。縁が4月までに作る」
「いや、兄さんが作るから安心しなよ」
「ほんと、2人ともわたしたちから良いところばっかり引き継いでるから普通に恋人できると思うんだけどなぁ」
「俺は今のところ興味がない」
「あたしも」
侑芽華はコップに注いだお茶を飲み干しながら、
「まあまあ、そう言う人こそ実際付き合ったり結婚したら溺愛するんだよねぇ、律基さんみたいに」
律基と侑芽華の交際は紆余曲折あったと言う。その詳細はあまり本人の口から語られることはないが、元がワイワイ系の律基と厳格な家系の侑芽華の交際は侑芽華の親が猛反対し、駆け落ちがあったとかなかったとか。
時折侑芽華がお酒を飲んだ時に語られるその話は所々違うのであんまり信用できない。
ただ、色々あったのは事実で、だからこそ先ほどの話ができるのだろうと大樹は感じた。
翌日、大量の黒の厚紙とビニールテープを皐月に渡し、大樹は横の席に座る楓哉と話していた。
「文化祭まであと2週間か。そう考えるとなかなか今年も早くすぎたもんだね」
「ああ、大学受験も着々と近づいてる」
「まだ1年生だけど。大樹はあれだっけ?北東大学の法学」
「そうだ。一度仙台の方に住んでみたくてな」
「ああー。僕も頭さえよければなー」
「お前は顔がめっちゃ良いからそれで差し引き0だろ」
大樹も見目は整っている方ではあるが、楓哉には敵わない。
時折街を一緒に歩いていても楓哉が芸能事務所を名乗る人から話しかけられているのに何度も遭遇した。
「でもさー。皐月がさー」
「それは頑張れ」
「うぅ。世界は残酷だぁ」
撃沈した楓哉とその肩を叩く大樹を皐月、美羽、茜の3人はそれぞれ別の理由で眺めていたのだった。
「おい楓哉。そこ佐渡さんの邪魔になってる」
「ああ、ごめん!」
「(ぺこり)」
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