第11話 特大級を、ぶっ込んだ!

 掃除終わり、教室のゴミを収集スペースに放るためゴミ袋を片手に持った大樹は一回り小さなゴミ袋を持った茜に話しかけていた。


「そう言えばさ、俺と佐渡さんって連絡先交換してなかったよね」「しませんよ?」


 すごく食い気味に否定され、


「それに、私と草宮君は簡単に連絡先を交換するほど親しい仲ではありませんから」


 冷たく言い放つ。

 そう追撃を受けた大樹はメンタルが大打撃を受けながら、


「いや、それくらいの仲でしょ」

反転攻勢に出る。

「どこがですか?私と草宮君は友達でもなんでもありません」

「いや、友達だよ」


 そう言って大樹はスマホを取り出し、インスクで投稿した写真を見せる。

 茜とサイズリアで食べたナポリタンの写真だ。

 その下の#タグの1つを指差す。そこには確かにリア友、と書かれていた。


「え」


 信じられない、と言うふうに声を漏らす茜。


「俺と佐渡さんは友達だからさ、RIME交換しよ」

「い、いやです。私には友達は必要ないです。それに、友達の定義はどこですか」


 動揺しながら頭を振る。ただ、


(あと一押しかな)


 そう直感した。だから、


「いや、友達でもなんでもないやつと他県までデートする?」


 特大級を、ぶっ込んだ。

 ボンッ!と擬音にするなら多少物騒になるレベルの勢いで茜は顔を真っ赤にさせた。耳しか見えないが。

 片手に持ったゴミ袋が落ちる。


「で、で、で、デートだなんて!そんなものは交際している男女がするものであり、私たちのあれはただの買い物です!デートなんてものではありません!」

「いや、一般にデートって日付を決めて男女がするものだから俺らのも十分条件は満たしてるよ」

「それなら!草宮君は浮気してます!」

「なんで?」

「あれじゃないですか!草宮君のことだから彼女の1人や2人くらいいるでしょう!」

「いや、2人いたらそれこそ浮気だけどな。それに、俺は」

 付き合った経験はない。そう伝えた。

「でも、告白はされてるじゃないですか……!」

「確かに何回もされたけどなんか誰も良い感じじゃない」

「いつも仲良く話している女の子達は?」

「良き親友」


 大樹にとっていつメンの3人に対しては同性異性関係なく、総じて良き親友であり最大の理解者である。

 確かに美羽も皐月も魅力的な少女だ。だがそこには異性としての感情は存在していない。


「じゃ、じゃあ、私は……?」


 前髪から目元が覗き、真っ赤な頬と少し潤んだ黒曜の目で大樹を見上げる茜に単純に可愛いと思い、心拍が上がった。また、一瞬茜を女子として意識しそうになった思考を冷静にさせるために一呼吸。

 そして、少し考え、結論を口にした。


「オタク友達、かな?」


 その言葉に茜はピクリと震え、目をキョロキョロとさせ、ポケットからスマホを取り出した。

 そしてずっとそれを差し出してくる。


「草宮君は、友達、ですか?」

「そうだよ、

「なら、連絡先も交換してあげないことも……って、なんで急に名前で呼んでるんですか!」


 慌てたのだろう。茜は一歩後ずさった、が。姿勢を崩して後ろに倒れこんでいく。

 その茜の手を強く握り、転ばないように支え、引っ張って元の姿勢に戻らせる。

 何かを言われる前に手を離し、


「あんまり慌てるなよ。それと、友達だから名前で呼ぶ。普通じゃないのか?」

「た、確かにそうとも取れますね……じゃあ、大樹君。連絡先、交換しましょうか」


 真っ赤ではない。しかしほんのりと朱に染まった耳から茜もだいぶ恥ずかしがっているのだろう。


 そして、茜に名前で呼ばれるのはなんというか今まで慣れてきたものが変わってこそばゆい。


 とりあえず茜のRIMEのQRコードを読み取り、『よろしく!』とパンダが言っているスタンプを送る。


『よろしくお願いします』


 と律儀に文面を送ってきた茜のアイコンはなんと初期。


「わ、悪いですか……!両親と祖父母としか繋ぐ機会がなかったんです!」

「いや、茜らしくて良いと思う」

「どこに私らしさが……いえ、もういいでしょう。ところで、今のチャイムは?」


 チャイムが鳴り響き、茜のこぼした疑問に大樹は咄嗟に時計を確認し、


「やべ、帰りのショート始まった!」

「そんな!?ど、どうしたら良いのでしょう!?」


 大樹は即座に思いついた考えを伝えた。


「茜は先帰ってて。俺がこいつら持って全力ダッシュしてくる!何か聞かれたら適当に答えといて!口裏は合わせるから」

「ちょ、ま……」


 茜が何か言う前に大樹は全力で走り去っていった。茜は大樹が消えていった廊下の曲がり角を見つめながら、1人呟く。


「ほんとに、ふしぎなひと」


 茜はゆっくりと、大樹が追いつけるように歩幅を調整し、時折振り返ったり立ち止まったりしながら歩くのだった。

 しかし、それを茜は自覚していなかった。






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