第92話 四人で海辺へデート
電車を降り、しばらく海に向かって歩き続ける。すると見えてきた。見慣れた二つの人影。大樹は彼らに声をかける。
「二人とも、おはよう」
縁と御影煌は振り返った。そして大樹を見て、その後に御影煌は茜の方を見て、ペコリと頭を下げた。
「初めまして。大樹さんの妹さんと付き合っている御影煌です。佐渡茜さんですよね?」
「はい。大樹君の彼女の佐渡茜です。よろしくお願いします」
かなり礼儀正しい二人なのでお互いにぺこりぺこりと頭を下げている。
茜は縁の方を向いた。
「久しぶりですね。縁ちゃん」
「茜さんだ!髪切ったんだね!可愛いよ!」
「ありがとうございます。そう言う縁ちゃんも可愛いですよ。その服凄くいいですね」
その言葉に御影煌がピクリと反応する。そして絶望したように「あああ……」と声を漏らした。
「どうしたの?煌くん」
「御影さん、どうしましたか?」
「御影。分かるぞ俺は」
「大樹さん、いえ、大樹兄さん……!」
「兄さんどういうこと?」
「まあまあ、よし弟よ。頑張れ。俺と茜は先に海でも見てくる」
大樹は茜を手招きした。すると彼女は訝しげな顔をしながらも大樹についてきたのだった。
「どういうことですか?なんでさっき御影さんが落ち込んでたのでしょう」
茜は理解ができていないようで大樹に聞いてくる。大樹は少し笑って答えた。
「デートの時の彼女の服装を一番に褒めるのは彼氏って相場が決まってるんだよ」
「ほお。あ、なるほど。ですので私が御影さんより先に縁ちゃんの服装を褒めたからそのことに気がついた御影さんが落ち込んだわけですね」
「理解が早くて助かる」
「じゃあ御影さんには少し申し訳ないことをしてしまいましたね」
そう言って上品に笑う茜の姿はとても楽しそうで、綺麗だった。
「……もう一回、言ってくれませんか」
「なにを?」
大樹は何も言った記憶はないのだが……すると茜は照れたような笑みを浮かべた。
「私の今日の服装、どうですか?」
なるほど。確かに駅で待ち合わせをした時に感想は伝えたが、それを『もう一回』か。
大樹はじっと茜を見て、服装、髪型、表情をチェックする。
「うん、すごく可愛い」
「ありがとうございます」
頬をほのかに朱色に染めた彼女はぺこりと頭を下げたのだった。
それを近くで見守る誰かさん視点
「ボク達がああなるのはまだ遠そうだね」
「何を目指してるんだよ……」
「高校生は三百円、中学生は二百円となります」
受付の人に代金を伝えられた大樹は財布から千円札を取り出した。それをみた御影煌も四百円を取り出す。大樹は彼にこくりと頷く。
「あ、大樹君、別にいいですよ」
「まあ三百円くらい奢られとけ」
御影煌は大樹を尊敬の眼差しで見てから大樹にその四百円を渡した。大樹はそれを財布にしまって千円札を受付の人に渡す。
それと引き換えに四枚のチケットを受け取り全員に配る。
四人で小道を歩くと目の前に高さは二十メートルくらいだろうか。崖の一番高まった部分に白塗りの灯台が。
狭い入り口に入るとかなり急な階段。それを登り切ると外に出た。顔に感じる強烈な潮風。髪が吹かれるのを感じる。左手で髪の毛を押さえながら茜の方を向く。
彼女は階段の前で肩で息をしていた。
「ハァ、ハァ。階段きついです……」
「茜さんどいてー」
その後ろから縁の声がする。
「! 縁ちゃん、ごめんなさいすぐどきます!」
茜が横に動き、その奥から縁と御影煌が出てきた。二人とも平然としているところから見ると茜の体力はこの四人の中で一番低いことになる。
「その体力でバレンタインの日学校から逃げれたんだ」
学校から駅まで大樹が全力で走って二十分ほど。色々障害はあったとはいえあの時の茜はかなりの速さだったと予想できる。
「その、あの時は必死だったので……」
茜は俯きがちにそう零したのに大樹は軽く笑う。
「まあ良いんじゃない?別に茜に体力がなかったからなんだってところでもあるしさ」
「でも運動できる彼女の方が良いでしょう?大樹君と仲のいい女の子って運動神経の良い子多いじゃないですか」
「確かに多いな」
美羽や皐月はその最たる例だろう。
「でもまあ高校上がって最初に話した人が楓哉で、その楓哉と仲が良かったのが皐月と美羽で、って感じだな」
まあ美羽とは入試の日に関わりがあったのだが。
「私は高校上がって最初に話したのが服部先輩でしたね。甲冑姿だったので最初はヤバい人に目をつけられたと思ってびっくりしました」
茜は小さく微笑み、大樹と入学当初の思い出を語り合うのだった。
その頃のある二人
「ねえ、今の高校生ってこんなカップル多いの?ボク勝手にギャルっぽい子しかいないと思ってたんだけど」
「縁、すっごく同感。あんな静かにイチャつけるんだね」
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