第113話 この二人なんかずっとキスしてるな
そんなわけで始まりました第二回お昼寝タイム。
茜はぽわーとした顔で大樹の隣を歩いている。
階段を登り、廊下を歩き、大樹の部屋に入る。
ベッドの前に着くと茜は大樹を見上げるようにした。
茜の意図が読めず大樹はどうしたのかと尋ねる。
「私のこと、ベッドまで運んでくれませんか?」
「それってつまり?」
「横抱きです」
なるほど。大樹はこくりと頷き彼女の首と膝裏に手を回した。
そうして彼女のことを抱き上げる。
「えへへ……」
茜が緩んだ笑みを浮かべながら大樹の首筋に手を回す。
「きす、しませんか?」
「ああ分かった」
大樹は後ろから首にかかる圧力に逆らわないように首を前に倒して彼女の額に唇を触れさせる。
それを離すと茜は一瞬恍惚とした表情を浮かべたが、すぐに少し頬を膨らませた。
「そっちじゃないです」
茜は不器用に唇を尖らせる。
その主張が可愛らしくて大樹は茜をベッドに下ろすや否や彼女に覆い被さるようにして少しばかり強引に唇を奪った。
「んっ!?んぅっ!?んんっ」
上擦った艶かしい声が彼女の口から漏れる。
茜はしばらく大樹の背中を叩いていたがしばらく経つと大人しくなり、むしろ抱き止めるように両手を大樹の背中に回した。
十秒ほどそれが続いたところで大樹は唇を外した。
「っはぁ、茜……」
「大樹君……すごく激しいきすでしたね……」
大樹は彼女の上からどいて掛け布団を茜にかけて、次は自分にかけた。
茜は息を切らしたように荒い呼吸を繰り返す。そして一際大きいため息のようなものを漏らして大樹の方を向いた。
「もう一回、してください……」
縋るような目でこちらを見るその瞳に大樹は苦笑しながら首を横に振った。
「またさっきみたいなキスしたら俺は止まれる自信が無い。絶対茜を傷つける」
人より理性は強い自信のある大樹だが、大好きな人とそう何度も激しいキスをして耐えられるはずがない。
「別に、大樹君になら私はこの体を捧げても良いと思ってますよ?」
「良くないって」
茜は寂しそうに笑っている。その目の奥の光の質が、変わった。そんなことに気がついた時には、もう……
「茜!?」
「大樹君が、悪いんですからね?」
彼女に覆い被さられていた。右手首を押さえ込まれて、お腹あたりに優しく膝が置かれている。
「大丈夫です。大樹くんは止まれます。だから、きす、しましょ?」
「……ああ、分かったよ。だけど、もし俺が茜の嫌がることをしそうになったら、全力で俺の顎に頭突きしてくれ」
「急にバイオレンス……」
「まあ頑張って抑えるけどさ」
「分かりました」
茜はそう言うが早いか大樹の唇に思い切りその小さなそれを押し付けた。
そっと鼻で息を吸い込むと甘くて爽やかな香りが鼻腔をくすぐり、グッと来た衝動に大樹は右手を素早く外して、再び彼女に覆い被さる。
彼女はびっくりしたようだがすぐにそれを受け入れるように大樹の手をとって指先を絡ませてきた。
大樹の舌先が彼女の唇を割ってその中に入ろうとした時、彼女が片手を外して大樹の頬を思い切りつねった。
「づっ!?」
舌を一瞬噛んだがそれらの痛みで大樹は我に帰る。
唇を外して大きく息を吸う。エアコンの効いた冷たい空気が脳を冷やしていき、冷静になっていく思考の中、大樹はベッドから降り、思い切り頭を下げた。
「許しましょう」
「ありがとうございます」
「その代わり一つ条件があります」
「なんでしょうか」
「今からするお昼寝の時、私を抱き枕にしてください。一ヶ月前の時も、抱き心地良かったでしょう?」
「そうだな」
大樹は彼女の背中から腕を回して緩く抱きしめる。茜はその両手を優しく取って彼女の胸元に押し付けた。ほんのりと厚みを感じる柔らかさに軽く呻く。
「おやすみなさい……」
茜はそう言ってしばらく経つと規則正しい呼吸音が聞こえてきた。寝つきがすごくいい。
大樹は彼女の首筋にそっと触れるだけのキスをしてから目を閉じた。
「なかなか寝れん」
大樹が寝れない要因はすぐ目の前、なんなら腕の中にある。
茜の体温が、肌の感触が、息遣いが、匂い全てが大樹の感覚を強く刺激する。
大樹は悶々としながらもいつのまにか体の向きを変えてこちらを向いている茜を優しく抱きしめていたのであった。
「ふわぁ、おはようございます大樹君。あ、夜ご飯の準備しますね」
「おう。ありがとう」
茜は大樹の腕の拘束から離れてベッドから起き上がる。それに続いて大樹も起き上がって、二人で階段を降りたのであった。
「肉じゃがでしたよね?材料も良い感じにありますので、作れそうです」
茜は冷蔵庫から色々と食材を取り出しながら呟く。大樹は茜がどんなふうに料理をするのか気になったので邪魔にならない場所に丸椅子を持ってきてそこに座っていた。
「あの、大樹君、このキッチンの使い方を教えてくれませんか?」
「ああ、確かに分かんないよな。えっとな、まず包丁とかは───────」
そんなわけで、茜の料理が始まった。
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