第20話 文化祭準備⑤

 どうやらまだ角材の組み上げが終わらないらしいので大樹は足早に学校に戻ってきていた。保健室で楓哉を回収しあたかも2人で行ってきましたよ感を出しておく。


 時刻としては現在午後5時半。しかし未だ完成には程遠い。


「じゃあ、俺夜使用の許可とってくるわ!」


 男子生徒がそう宣言し許可をもらって戻ってきたのが10分前。




 みんながワイワイと元気に作業に取り組む。茜もどうやら文芸部の準備が終わったらしく教室で厚紙を貼っていた。


「はい、佐渡さんこれお願い」

「(ぺこり)」


 茜は渡された厚紙とガムテープ、ダンボールを組み合わせて黙々と角材の隙間を埋めていく。


「スピーカー置いたからBluetooth繋いでおいてー」

「はーい」


 確かプラネタリウムの音源は美羽の録音だったか。映写機と同時に遠隔で起動させるらしい。




 気付けば教室の入り口付近には受付が作られており、黒板や壁は星型に切り取られた紙で彩られている。

 残りはドームだけ。




「委員長が転んでドーム壊した時はどうなるかと思ったけど結局無事に終われそうで安心!」

「ほんと!それに夜も学校に残れるっていう特別感がたまらん!」

「青春って感じだねぇ〜」


 楽しそうに作業は進む。

 気付けば小窓から覗いているのは真っ暗な夜空だった。


「さっき見てきたけどうちらしか学校残ってないぞー!!!」

「やば!独占じゃん!」


 皐月は最初の方こそ申し訳なさそうにしていたが今はもう本調子を取り戻したらしくテキパキ指示を飛ばしながら自身も教室中を忙しなく駆け回っている。


 楓哉も受付の方でなにやら作業をしている。どうやら楓哉は接客らしくいつものイケメンスマイルではなく営業用の笑顔を練習しているがそれでも女子に対しては特攻が刺さっているらしく周りの女子が使い物にならなくなっている。


 美羽はドームの中で良い感じに椅子を並べている。カップル席も作るんだ!と意気込んでいた。まあ4組分くらいは作れるスペースはあるだろう。


 大樹は厚紙を茜に渡していた。


「佐渡さんお願いね」

「了解です」


 そうして脚立に登っていく。1番上を貼り終えた後、降りてきた茜は、薄く微笑んで、


「完成しました」


 その言葉を聞き、


「ドーム完成!!!」


 大きく伝えた。


「うおおおおお!!!」

「さいこー!!!」

「椅子設置ももうすぐ終わるよー」


 大樹は脚立を2つ取り上げ、


「これどっから持ってきたか誰か知ってる?」


 呼びかける。その言葉に1人の女子生徒が、


「それ旧校舎の2階資料室から持ってきたから返してくるー」

「でも手空いてないじゃん。さらっとシート作りから逃げるなー」

「うへぇ」


 大樹は苦笑いをしながら、


「佐渡さんって文芸部だったよね?」

「はい。ちょうど旧校舎なので持っていきますね」

「いや、流石に2つは重いよ」


 というわけで案内よろしくと茜と一緒に廊下に出た。


「1つは持たせてくれないと罪悪感がすごいです」

「おっけ」


 少し小さめの脚立を茜に持たせて大樹は横に並んで歩く。


 旧校舎の渡り廊下にたどり着いたのだが、茜の様子がおかしい。


「どうしたの?」

「ナンデモナイデスダイジョウブデスサアイキマショウ」


 早口で捲し立てた茜は渡り廊下を歩き旧校舎に先に行ってしまった。

 ちょっと早足で追いかけると茜が震えている。


「大丈夫?」

「ひひゃあっ!」


 ビクン、と体を大きく震わせて振り返って、


「大樹君でしたか。驚かさないでください」


 真っ暗である。今現在大樹のスマホのライトにより明かりはあるがそれでも照らせる範囲は限られている。


「いや、驚かせてないけど。もしかして茜暗闇弱い?」

「悪いですか……暗いのが苦手な人は多いのです」

「いや別に悪いとは、ところで、ここって電気ないの?」

「あります」

「じゃあなんでつけないの?」

「つけれないんです」


 そうして茜の説明を聞いた。どうやら旧校舎の電源は旧校舎の地下一階にある電力室のブレーカーで一括統制しているらしく、そこに入るには鍵が必要だそう。


「その鍵はどこにあるの?」

「綿笠先生が持ってます」

「げ、ワタセンかよ」


 厳格な老人教諭として知られる綿笠先生は生徒の半分には猛烈に好かれ、半分には猛烈に嫌われている先生だ。

 大樹は無論嫌いな部類である。


 そんな綿笠先生に頼むというのはちょっと抵抗がある。

 しかし、


「職員室行くかあ」


 さすがに電力はあったほうがいいだろう。

 そう思った故に溢れた発言だったが、


「いえ、綿笠先生はもうお帰りになったのでここは真っ暗なままです」


 絶望したようにため息をついた。

 そうして茜はポケットからスマホを取り出しライトを点灯した。


「これで少しはマシですね……」


 大樹君のと合わせれば問題なさそうです。そういった茜は再びゆっくりと歩いていき、大樹はそれについていくのだった。


「資料室はこちらです」


 案内口調、まあ実際案内してもらっているのだが。で告げた茜は扉を開けてそのまま止まった。


「茜?」

「先に置いてくれませんか?」


 茜はドアに手を置き大樹に早く入れと催促してきたので大人しく資料室に一歩踏み入れた。


「適当に置いとくわ」


 脚立を寝かせて置くと、


「じゃあ、これもお願いします」


 茜にもう一個手渡された。


「いや、すぐそこなんだけど」

「……暗いのは怖いのです」

「……ふっ」

「あ!笑いましたね!いま、笑いましたよね!?」


 茜は大慌てで、


「じゃあ良いですよ!ドアだけ押さえておいてください!」

「ああ、おっけー」


 大樹はドアを押さえて茜が脚立を置いたのを確認して、戻ってきたところで茜を先に通して大樹も資料室から出、一緒に廊下を歩いていた。




「その、明日の事ですが」


 少し緊張したような声色だが、大樹は気にしないように返す。


「ああ、文化祭一緒に回ろう!」

「その……私ちょっと勇気を出そうと思うのです」

「勇気?」


 訝しげに聞き返す。文化祭に勇気を出す要素などあっただろうか。

 そこから茜がした行動に大樹は「無理すんなよ」とだけ伝えてもう真っ暗になった廊下を進み、教室後戻るのだった。


 ちなみにだが、茜は教室の明かりが見えるまでちょっとした物音にも反応していて見ていて楽しかった。

 風で窓が揺れる音とか自身の足音とか、


 ガタッ


「いやあああぁぁぁぁ!!!!」


 誰もいない教室の机が動いた音とか。







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