第78話 周囲を焼き尽くすほどの惚気話
「それでそのまま仲良くなったんですよ」
しばらく話していて疲れました。前髪という防御壁がないのは前まで少し怖かったです。
ですが今は安心して会話ができます。きっとそれは明るく受け入れてくれるみなさんへの信頼と私を支えてくれる大樹君への絶対の信頼がなせる業なのでしょう。
「それでそれで!いつ付き合ったの!?好きになった理由も添えて!」
「好きになった理由から言いますね」
「うんうん!」
「その、どんな時でもどっしりと構えて動じないところとか、些細なことでも私を気遣ってくれるところ。強いように見えてその内面に弱さを隠してるところとか……」
言ってて頬が熱くなってきます。それでも私は大樹君の好きなところを全部言うべく口を開きます。しかし
「ちょっとストップストップ!」
誰かに止められます。もしかして喋りすぎたのでしょうか。私は失敗を悟り
「す、すみませんでした。喋りすぎましたよね。ごめんなさい」
「いや違うよ!こっちを焼き尽くすつもり!?」
「焼き尽くす?どうしましたか?」
見ると周りの女子たちは私のように頬を染めている人ばかりです。その中の一人が
「すごい惚気話を聞かされた……こっちは十六年間彼氏なしなのに……」
そう遠い目をしながらよろけました。
大樹君の告白のことを聞かれて答えたら周りの女子たちが「セカチューじゃん!」と悲鳴をあげ、再び焼け野原になりました。
「佐渡さんってなんかとっつきにくいイメージあったけど普通の女の子なんだね」
焼け野原から最初に立ち上がった女子生徒が私に言います。彼女に私は
「私は普通の女の子ですよ?ちょっとだけ人と話すのが苦手なだけです」
自然と笑みを浮かべることができました。
そのころ男子集団
「どこまでいったんだよ!」
「だから!付き合ってから何もしてないって!まだ三日目だぞ!」
「いやいや、あの感じ佐渡さんからすでに『全部終わりましたよ』オーラ出てたって!」
「気のせいだ!俺のその記憶はない!」
「まあまあ、そこまでにしてあげなよ。大樹も人生初彼女で全部手探りなんだからさ」
楓哉が助け舟を出してくれる。『お前は彼女いたことないだろ』と言いたいのをグッと堪えた。
「楓哉、ありがとな」
「まあこのヘタレはしばらく時間をかけないと……!?」
大樹は楓哉を挑発的な目で見上げる。身長は十センチ差。大樹は平均よりは高いと自負しているがコイツは180の域に手が届こうとしている。
「ヘタレが、なんだって?こっちが散々手助けして?告白すると宣言した割には全く進展なく?挙げ句の果てには明らか本命であろうチョコをもらったのになんのアクションも起こさない。ヘタレはどっちだろうな」
「ぐはあっ!」
楓哉は崩れ落ちた。ダウンした親友を放っておいて大樹の周りを囲む男子からの質問にため息混じりに対応したのだった。
放課後。文芸部室。
「茜ちゃん……!よかった……!よかった……!」
「先輩……くるしいです」
茜は会長の背中を叩いてギブアップを宣言する。
「……はっ、すまない。私としたことが取り乱してしまった」
会長は茜を抱きしめていた腕を解く。そして会長は深呼吸してから大樹の方を向いた。
「草宮大樹くんよ。ちゃんと期待通りやってくれてありがとう。君じゃなければ茜ちゃんを取り戻すことはかなわなかったろう。元生徒会長として、そして茜ちゃんの友達として礼を言う」
そうして丁寧に頭を下げた会長に大樹は手を振る。
「いえ。俺は俺のやりたいようにやっただけですので」
「茜ちゃんを連れ戻すことがやりたいことだったのかい?」
「いや、茜をこれからも支えていきたいということです」
会長は口に弧を描き、時折肩を震わせる。そして腕時計をちらっと見てから茜の方に視線をやる。
「では、私は退出するとしよう。では続きはどうぞお二人でごゆっくり」
そうして会長は立ち去った。旧校舎の片隅には二人だけ。
「では、早速部活紹介の練習をしましょうか」
「茜なんか顔赤くない?」
「気のせいです。ちょうど私の背後に窓があって西陽がさしているのでそれが原因でしょう」
「いや……」
大樹は立ち上がって茜の顔をじっとみる。やはり赤い。そして少し涙目になっている。茜はぎゅっと目を瞑った。
「さっきの大樹君がなんて言ったのか思い出してみてください……!」
「俺なんて言った?」
大樹は何か茜が照れる発言をした記憶はない。
「さっき大樹君言いました!思い出してください!」
同じことを言われて大樹は何を言ったのか思い出してみる。そして数秒考えて
「ああ、茜のことをこれからも支えていきたいっていう話?」
茜は小さな肩を一度跳ねさせて原稿用紙で顔を隠す。
「その、そんなの、けっこん。じゃないですか……」
「確かにそうだな」
「なんでそんなに平然としてるんですか……」
大樹は少し言葉を選んで
「まだ早くても二年後の話って考えたら意外と平気」
「メンタル化け物ですか……」
茜の呆れたような声が文芸部室に響いた。
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