第2話 もしかして同族?
いや、もしかしたら偶然かもしれない。似た名前の曲も数曲存在しているのでただのミスか?
しかし、少し気になったので大樹は自分の番が回ってくるまで茜の様子を観察しているのだった。
大樹が歌い終わり、数人終わった後、おずおずとマイクを手に取った茜。大樹は少し期待しながら曲が始まるまでの数秒を待った。
直後、軽快なドラムから始まる曲を聞き、心の中でナイス!と叫んだ。
『風が止んだ。止まった歯車。たたらは壊れて、世界が消えた』
どうやら茜はこの曲を歌うつもりであっていたようで、小さい声ながらもちゃんとついていっている。そして
(今思ったけど歌声、可愛いな)
よく通る声ではないが大人しくて優しさを含んだ声だ。
「あの曲何か分からないけど、佐渡さん普通に上手いね」
隣の男子が話しかけてきて、大樹は
「そう、だな」
解散後、美羽とのデュエットで喉をやられた大樹は一人で帰ろうとする茜を見かけ、声をかけようとしたが、普段のクラスでの立場のせいか話しかけるのが気まずくなり、それで話しかけるのをやめた自分にも嫌悪感を覚えながら大樹は家に帰るのだった。
翌日、のど飴を舐めながら登校した大樹はすでに着席して文庫本を読んでいる茜に挨拶した。
彼女は軽く会釈して再び文字列に目を通し始めたが、大樹は昨日から気になっていたことを尋ねてみた。
「ヘルファイ知ってるの?」
茜はビクッと体を震わせて彼をみたが、すぐに納得顔で
「確かに昨日の曲、ヘルファイの曲でしたもんね。ところで、なぜあれがヘルファイの曲だと?」
「俺もやってるから」
「意外ですね。有名なゲームだと思ってたのに知ってる人今まで見たことがなくて。このクラスでもそうなのだと思い込んでました」
そして、茜は本を閉じ、スマホを操作してヘルファイを開けた。
「私結構やりこんでいる方だとおもうんですけどちょっと今出てるデジールペンドロンの次元層がどうしても撃破できなくて……」
大樹は目を丸くした。確かに彼女のヘルファイのやり込み度はすごいとおもう。しかし、それ以上に
(よく喋るんだな)
早口で、しかし小さな声でまくしたてる茜を見ながらそう思っていた。
「それで、もし草宮君が撃破経験あるのなら教えて……って、どうしたんですか?」
呆然としていた大樹に茜は気が付き、そして、その直後、前髪の隙間から微かに見える目が何度も瞬いて、あたふたし始めた。
「す、すみません……!こんなオタクの早口、ビックリしましたよね。では、お気になさらず……」
思わず、笑ってしまった。
「いや、良いとおもう。なんか佐渡さんって無口で失礼かもしれないけど勉強以外興味ないって思ってたんだよね。だからさ、そうやってゲームもしたりするんだって思ってさ」
そして、少し落ち着いたらしい茜に大樹はスマホを開けて
「それで、デジールペンドロンの次元層だっけ?俺は昨日この編成でやって……」
見せようとしたその瞬間
「ヤッホータジュ!」
よく通る明るい声が教室の扉の方から聞こえ、大樹は慌ててそちらを向いた。ちなみにタジュというのは大樹のあだ名で、そう呼ぶのは
「美羽か。おはよう」
「ねえねえ聞いてよタジュ。昨日のカラオケで歌えなかった曲があるから今度またいつメンでいこーよ」
一旦自分の机に色々デコレートされた鞄を置き、大樹の前の椅子に座る。
「まあ、別に良いけどさ。でもな、じきに確認試験だぞ?」
大樹たちの在籍する高校、県立
ここでは定期テスト以外にも確認テストという定期テストよりも難易度の高いテストが行われる。成績には入らない。
大樹は毎日の予習復習を欠かしていないのでテスト直前に慌てるということはあまりない。
しかし、美羽は違う。流石に赤点に追われている楓哉ほどではないが、時々補修に参加させられる程度だ。
ギクリと固まった美羽に苦笑交じりに
「ほら、皐月に教えてもらえ」
そういってちょうど席に着いた皐月の方に目線を向ける。
「えー。皐月は確かに頭良くて胸おっきくて可愛いけどさー。勉強になるとほんとに訳わからん!分からない言葉ばっかりでちんぷんかんぷんだよ」
「あら、それは悪いわね」
いつのまにか美羽の背後に回り込んでいた皐月は美羽の方に手を当て、笑みを浮かべる。
「うひゃあっ」
「でも、大樹は着いていけてるわよ?」
「そ、それはタジュが頭良いから……!」
「でも、勉強は大事よね?確かに青春を楽しむのは大事。だけど私達の本分は勉強。分かった?それに、あなたの場合やればできるんだからやりなさい」
「いやだー!」
ちょっと腕をぶんと振った美羽だが、その腕が茜の机に衝突し、ガタッと茜の机が振動する。
「きゃっ」
いっちゃ悪いが、茜の運動神経はお世辞にも良いとは言えない。
それは、普段の学校生活を見てても感じることだ。良く廊下で躓いているのを見かけるし、見た目からして何というか、弱そうだ。
そして彼女は本を読むために他の場所に意識を寄せていない。
流石にうるさいとは思っているだろうが。そんな中急に机が揺れると驚いた彼女は椅子から体勢を崩してこちらに倒れ込んでくる。
それにいち早く反応した大樹は……
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