第一章 友人編
出会い
第1話 隣の席の地味子さん
「よーし、席替えするぞ」
残暑、その言葉にざわめく夏休み明けの教室。その中で
「今までありがとな!」
そう快活に声をかけて机を持ち上げ、移動を始めた。
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(マジかよ……)
大樹は落胆を顔に出さないようにしていた。
席の場所は神席と呼ばれる窓際の一番後ろの一個隣。
誰とでもにこやかに話すことのできる大樹は誰が隣の席でも良かった。ただ、できればいつメンで固まりたかったというものはあったのだが。
そんな大樹の隣の席、真の神席を手にしたのは……
「……」
このクラスで空気と同類に扱われている少女、
今ではもはや希少種と思われるほどの分厚いメガネをかけ、少し傷んだ様子のある黒髪はボサボサ。目元はそのメガネと髪で覆い隠され、見える唇は潤いが少ない。
背筋は猫背気味。と、見た目も言っちゃ悪いが、陰キャ代表のような感じである。
体育の授業はほとんど見学、授業での交流時間であろうと茜の声を聞いたものはない。
どうやら頭は良いらしく、いつもトップ五に入っているのを上位者表で大樹は見ている。
そんな大樹はトップ三十に入るか入らないかくらいだ。
たとえクラスで空気と思われてる女子でも、絶対に関わってやる。そう意気込んだ大樹はさっそく声をかけた。
「こんにちは!佐渡さん。これからよろしく!」
彼女はビクッと華奢な体を椅子の上で震わせ、恐る恐る大樹を見たのち、ぺこり、と小さく会釈した。
(え、会釈だけ?)
その様子に面食らった大樹は、隣の席が彼女で自分は楽しめるのだろうかと不安になるのだった。
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「アハハハ。それは災難だなぁ」
放課後、いつメンでボウリングをしながら茜が全く話さないという話をする。
ココアを啜りながら快活に笑うポニテの女子は
陸上部で培われたしなやかな四肢と、それでいて起伏に富んだ体つき、そしてその人懐っこい性格は男子からの絶大な支持を得ている。
「まあ、それも良い経験になるんじゃない?お、ストライク!」
こう言ったのはいかにも頭の良さそうなメガネをかけつつも実際は赤点に常に怯えているノリと勢いで生きている男。
そして、いつメンの中でも特に仲の良い人である。
そして
「ねえねえ、何をそんな楽しそうな話をわたし抜きでするのかしら?」
クラス一の美少女と言われる彼女は
きめ細やかなその白い肌と上品な佇まい、見た目にそぐわぬ圧倒的な頭脳。それらはクラス内での彼女の立ち位置を揺るがぬものとしている。
これが大樹のいつも過ごしているグループのメンバーである。
──────────────
「さーて。昨日からデジールペンドロンの次元層始まったから回すかー」
大樹は家に帰ってやるべきことを全てこなしたのちに、スマホを開いてHell fire blue、通称ヘルファイにログインした。
このソシャゲは言ってしまえば超ストーリー重視のアクションRPGで、突如顕れ地球を蹂躙した謎の生物に抗う少年少女の物語だ。
正直、めっちゃ泣ける。人が死ぬし、彼らの生き方に何度胸を打たれたか。
それに、ストーリーの中の挿入歌も世界観を上手に表現しているものが多く、また普通に良い曲なので勉強の合間にも聞かせてもらっている。
しかし、目まぐるしく動き続ける敵キャラやそれに着いていくための操作キャラの影響で難易度はとんでもない。
しかし、大樹ほどのやり込み勢になるとストーリーは配信段階までクリアしており、超高難易度コンテンツ、次元層を周回するようになる。
これはへルファイの中で唯一オンライン協力が可能なコンテンツで、一人でクリアすることは非常に困難である。
しかし、いつメンでヘルファイを知っている人がいなかったため、知り合いとは誰とも協力ができないと言う悲しい状態に陥っている。
──────────────
数日後、教卓に立った美羽が声をかける。
「来週クラス全員でカラオケいこーよ!」
賛同多数で可決され、大樹は隣の席で帰る用意を整えている茜にたずねた。
「明日のカラオケ、行く?」
すると、ボソッと小さな声で返事が返ってくる。
「まあ、迷惑にならないのであれば」
その声は女性の割に少しばかり低く、冷淡な声であった。
茜が教室を出た頃、大樹もリュックを背負って教室を出た。
──────────────
翌週、ホームルームが終わり、美羽率いる1年3組は駅前のカラオケに集結した。
なかには美羽や皐月目当てっぽい男子もいるし、男子の中ではだいぶ美形な方に入る楓哉目当ての女子もいるだろう。
流石に四十人ほどが一部屋に収まるのは無理だったので、半分に割ることにした。
先日決めておいた部屋割り通りにカラオケルームに入る。
この部屋には美羽がおり、隣の席の無口さんこと茜もいる。
「じゃあ、うちからいくね!」
早速マイクを手に取った美羽はハツラツとした声で歌い始めた。
歌っている最中、各々思いのままに予約を入れていき、大樹も有名どころの曲を一曲入れておいた。
デンモクのありかを見ると、今ちょうど茜がおずおずと操作しており、少し気になったのでスクリーンに映る予約曲を見て
「え?」
素っ頓狂な声を大樹は上げた。
だってその曲は、ヘルファイの挿入歌だったのだから。
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