第125話 謝罪合戦(R要素強め)
「さて、どうしますかね」
「駅舎内で野宿ってわけにはいかないもんな」
明らか不審者である。
「近くにホテルとかはありますよね?」
「あるけど……明らか未成年者だから厳しいんだよな」
一般的に未成年だけが宿泊する場合は保護者の同意書が必要となる。
「あ、スマホからの印刷でいけるのでその点は多分大丈夫です」
「りょーかい」
そんなわけで、二人はこの辺りの安く泊まれる宿泊施設を探すべくスマホを駆使するのだった。
「すみません……一部屋しか空いてないんです」
「そのラストの部屋って何円ですか?」
「お一人様あたり一泊六千円です」
「茜、どうする?」
「分かりました。未成年の方には保護者同意書をお願いしています」
「はい」
大樹と茜は先ほどコンビニでプリントしてきた書類を一枚ずつ手渡す。
それを受付の中年男性は頷きながら眺めて、微妙そうな顔をしながらそれをしまった。
「分かりました。前払いになりますので代金をお願いします」
「『RayRay』でお願いします」
「はい」
大樹は先ほど侑芽華から送金されて、二万円ほどの残高を持つスマホをかざす。
特徴的な音が鳴り響き、支払いが完了したことがわかる。
大樹は鍵を手渡され茜と一緒に部屋に向かうのだった。
鍵を差し込みドアを開く。
「まあ確かにビジネスホテルはこんな感じか」
外観通り、単純に宿泊だけを目的にした施設である。
「まあとりあえず先にお風呂入ろうか。茜、先に入ってていいよ」
「ありがとうございます。じゃあ、お先に」
そういって茜はお風呂場に向かった。
「大樹くーん!」
しばらくぼーっとしていると茜が呼ぶ声が聞こえた。大樹はベッドから立ち上がり、そのすりガラスの扉の前に立つ。
「どうしたー?」
「あのーすみません。ちょっと私のカバン取ってもらって良いですか?」
大樹は部屋の方に視線を滑らせ、部屋の隅っこに置かれている小さいカバンを見た。そちらに歩き、持ち上げて扉の前に戻る。
「持ってきたぞー」
「あ、じゃあ開けるので隙間から手渡してください」
何か返事をするより先にすりガラスの扉が浴室の方に向かって開き……
「あ」
目が合った。
「あ……」
「きゃあああぁぁあ!!!」
「誠に申し訳ありません!!!」
思わず敬語で全力謝罪し、茜のカバンを半ば投げ捨てるように脱衣所に放り込んで、扉を閉めた。
「ハァ、ほんとに……良くないって……」
半ば逃げるようにベッドに飛び込んだ大樹は頭を抱えた。
先ほど扉の向こう側にいたのは、バスタオル一枚で胴部を隠した茜だった。
それが、扉の取手を握りしめて立っていた。
少しばかり前屈みになった彼女の髪の毛は濡れていて、ほんのり火照った全身に強い色気を感じて……
「茜、好きだ」
「急に、どうしましたか?」
大樹も風呂から出て二人でしばらくのんびりいていた時のこと。大樹はそっと切り出した。
もう一つのベッドに転がりながらうつらうつらしていた茜はピクッと反応する。彼女は緩慢な動きでベッドの上に四つん這いになった。
「私も、好きですよ?」
そう言って這い寄ってくる。ベッドとベッドの隙間はおよそ三十センチ。その程度なので、茜は問題なくこちらのベッドに移ってきた。
「えへへへ……」
彼女は蕩けた笑顔をこちらに向け、そうして……
「おわっ!?」
大樹の肩に手のひらを押し当ててそのまま押し込んできた。
そうなると半ば茜に押し倒される形になる。
「大樹君……私の裸、見ましたよね?」
「……タオルで隠してあったところ以外はな」
「隠された場所、見たくないですか?」
茜は先程購入した薄手のパジャマの裾に手をかける。それをゆっくりと引き上げ、そのまま脱ぎ捨てた。
上半身は胸元しか覆われていない。
大樹は生唾をグッと飲み込み、そのまま動かなかった。
茜の両腕が背中に周り、カチッと金属が打ち合う小さな音が響いて……
「ふぁっ!!!???」
ぴしり、と静止した。少し涙目になった彼女は口をパクパクさせながら必死に言葉を紡いだ。
「わ、私は……なんてはしたないことを……」
「ん、ま、まあ、ドンマイ」
「たいじゅくん!!!」
ショックが大きすぎて少し呂律の回らなくなった茜は軽く拳を振り上げて……
「あ……」
胸を覆っていた布は彼女の拳に掴まれている。
つまり今の彼女の上半身を覆うものは存在しないというわけで……大樹は思い切り目を瞑る。
「あ、や、ちょっ……ふぇええええん!!! 見ないでぇぇぇえっ!!!」
茜の慟哭が響いた。
「貧相でごめんなさい貧相でごめんなさい貧相でごめんなさい」
「いや、一瞬しか見なかったけど全然魅力的だったよ。というか俺もめっちゃ謝らないといけないな。ごめん」
今現在、二人で互いに頭を下げ合っている。それぞれのベッドの上に上がり、土下座をし合っている。
明らか大樹の方が罪は重いはずなのだが、茜も茜でベッドにめり込むレベルで頭を下げている。
いや別に貧相とかそういうのは全く気にしないのだが、茜としては何か思うところがあったらしい。
それからしばらく二人の謝罪合戦は続くのだった。
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