第133話 夏祭りにて
「あ、あ、あの大樹君……」
「茜、ほんとに大丈夫か?」
茜の家の前で茜と話し込む。彼女は浴衣姿であって、ガッチガチに緊張していた。そして久しぶりに眼鏡をかけている。その新鮮な装いにまたしても惚れ直しそうになってしまった。
「そ、その、今日大樹君に、告白、するじゃないですか……」
「ああ、言ってたな」
「そのことを意識すると……もう……ダメです……」
茜は先程から大樹の方を見ようとしない。
それだけ緊張しているのだろう。
そんな彼女を背後からそっと抱きしめる。
「ひょえっ……」
そんな可愛らしい悲鳴をあげて体を震わせる茜だが、すぐに力を抜いて大樹に寄りかかってきた。
「大樹君……いきましょう」
「ああ、そうだな」
そんなわけで大樹は彼女を解放して、手を繋いで花火の会場に向かうのだった。
「あれって、服部先輩ですよね……」
「むしろそうあってほしい。あんな人が何人もいるわけないだろうし」
花火の会場に向かっていると見覚えのある後ろ姿があった。女性にしては高い長身、黒いストレートヘアー、そして、真っ赤な甲冑姿。
道ゆく人もびっくりして二度見や三度見をしてしまう女性がいた。
「話しかけましょう!」
「おっけ」
大樹と茜は歩くスピードをあげてその甲冑の女性に話しかけた。
「服部先輩ですよね!」
その女性は甲冑をガチャガチャ言わせながら振り返った。そこには見たことのあり過ぎる、かつて秦明学園で圧倒的な頭脳を持っていた最強の先輩がいた。
「おお、確かに私の苗字は服部だが、私を知っているのか……! 茜ちゃん!」
「服部先輩! お久しぶりです!」
「久しぶり! 元気だったかい? おう……隣にいるのは、草宮大樹くんじゃないか。一丁前に手も繋いでお熱いねぇ」
服部先輩はニヤニヤ笑いながら二人を見やる。
「祭りの中で戦国同好会のメンバーと大名行列をやるんだ。見にくるかい?」
話を聞くと百人ほどメンバーがいるらしく、先輩は先頭らしい。
「いえ……すみません……多分見にいけないですね」
少し残念そうに先輩に告げた。先輩は少し悲しそうな顔をした後再びにやけ笑いを浮かべて、茜にそっと耳打ちした。
「ちゃんと告白するんだよ、茜ちゃん」
「き、気づいてたんですか?」
「見たら違和感強かったからね」
先輩は綺麗なウインクをして去って行きました。
「なんか相変わらずだったな、あの人」
「そそそそうですね!」
せっかく少しマシになってきたのに先輩のせいで、また意識しちゃいます。
告白する文面はもう考えてあります……
大樹君は受け入れてくれるはずですが、もしいうことがひど過ぎたら流石に引かれると思ったので、推敲に推敲を重ねました。
告白する時間は、帰り道。私の家に着く直前の予定です。
私は気合いを入れ直しました。
「ふんす!」
「え、茜?どうした急に」
空手の「押忍」みたいな動きをして気合いか何かを入れたらしい茜が可愛かった。そんな茜の手を握る。彼女はこちらを見上げて照れたように頷いた。
「行きましょう、大樹君」
夜の熱気に二人は歩き出した。
いかにもお祭りなBGMがスピーカーから流れている。そんな中を浴衣姿の二人は手を繋いで歩き続ける。傍から見れば完全にカップルである彼らは実のところカップルではない。
それに気がつくものはいなかった。それだけ、この二人から出る雰囲気が明らかに恋人であったからであろう。
「あ、でっかい綿菓子です! 二人で食べましょう!」
「おっけ。俺が奢る」
「いえいえ、私が食べたいものですのでここは私が」
「いや俺が」
「いや私が」
「「……」」
「半分ずつで良いか」
「ええ、そうですね」
二人は手を繋いだまま綿菓子の屋台に向かったのだった。
夏祭りはついに最も盛り上がる時間、つまり花火大会の時間になった──────────────
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