第97話 やっぱり問題ありそうな生徒会長

「それで、佐渡茜クン。文芸部の部誌の電子化についての話だが、アタシとしては是非ともやってもらいたい」

「あ、ありがとうございます。ですが、なぜ?」


 茜の問いに如月会長は豪快に笑いながら答える。そうして部室に置いてある一つの棚からそれを取り出す。


 それは文芸部が時折発行している部誌であった。A4サイズの紙には表紙絵(茜が描いた)がある。

 それをひらひらと振った会長は一言。


「でかい。これだとなかなか持ち運べないんだよな。桐花パイセンに『持っていってくれ!』と泣きつかれたこともあったがいかんせん大きすぎたな」

「服部先輩と仲良かったんですね」


 茜がそう言うと如月会長は苦笑いをしながら目を細めた。


「確かに仲は良かったが、先輩曰く『ライバル』ってところ」


 その言葉の異様さに大樹と茜は凍り付いた。


「あの服部先輩のライバル……?」


 茜が絞り出すような声を発する。あのなんでもできる完璧な権化のような存在がライバルという存在。

 二人の様子に如月会長は「いやいやいや!ライバルって言っても勝てたこともなし。競ってるのもだいぶマイナーなジャンル!」と慌てたように言い訳めいたことを口にするが、もう遅い。


 そう言って会長はスマホを操作して写真アプリから一枚の写真を見せてくる。

 そこにはトロフィーを掲げる服部先輩とその隣で賞状を持つ如月会長の姿が写っていた。

 その背後にある横断幕に描かれているのは『高校生チェス大会女子部門県大会』


「あの人本当になんでもできるんですね……」


 茜の呆れたような声がポツリと漏れる。


「あの背の高い女の人は誰っすか?」


 羽村の質問に軽く答えたところ、羽村は遠い目をして


「なんすかそんなバケモン……」


 呆然と呟いた。その他の三人は無言でこくりと頷くことしかできなかった。


「こほん。それで、部誌の電子化の話だったね。お三方、少しついてきたまえ。直談判に行こうか」


 そうして文芸部室を意気揚々と出ていく如月会長の後ろ姿を眺めて大樹と茜は大きなため息をついたのだった。


(アクティブすぎるだろ……)




「おーい、入るぞじいさん」

「「「……」」」


 如月会長は校長室の扉を軽快にノックして室内に呼びかける。

 その後ろに大樹、茜、羽村は少し肩を小さくして立っていた。


「(なあ茜。校長って生徒会長に舐められる仕事なのか?)」

「(そんなことはないと思いますが、確かに服部先輩も校長先生に『ハゲ』呼ばわりしてましたね。さすがに如月会長はまだマシでしょうか)」


 大樹と茜の会話に羽村は冷や汗を流しながら


「(先輩方が恐ろしすぎるっす……)」


 そんなことをぼやいていた。


「むう、あのじいさんどこにいるんだ?」


 如月会長は小さくうめき、数歩歩いてその横の職員室の扉を強くノック。


「三年一組如月凛!校長はどこだ?」


 そう呼びかけた会長が開け放ったドアの奥にはもはや諦めたような先生たちの姿が見える。


「校長先生は今出張に出ている」


 そう答えた黒縁の眼鏡をかけた四十代ほどのイケオジ風の生徒指導の先生はそう答えたあと如月会長の方をチラリと見て、


「だから先生たちには敬語を使えと一年の時から言ってるだろ。休み時間ならまだしも職員室は私たち教師の部屋だ。そこは弁えろ」

「……わかりました。それでは失礼いたします」


 その如月会長が言い負かされた光景に大樹と茜は少しばかり安心してほっとため息をついたのであった。


(よかった。去年がおかしかっただけなんだ)


 会長がドアを弱々しく閉める。それが完全に閉まった瞬間、こちらにクルッと向き直り、ニヤッ、と笑った。


「やー、あんまりこの手段は使いたくなかったんだけどなぁ。じいさんが出張なら致し方ないか」


 そうして会長はスマホを取り出してどこかに電話をかけた。数言交わしたあと、会長はスマホの画面を横向きにして全員が映るようにした。ビデオ通話だ。

 画面の向こう側には校長先生がいかにも不機嫌そうな顔をしている。


「端的に言おうじいさん。文芸部の部誌の電子化の許可をくれ」

「理由を」


 校長はいつものようにぶっきらぼうな様子で尋ねる。

 というかこの人出張中なんだろ?なのにこのビデオ通話に出ていてもいいのか。


 そんな事は気にも止めずに会長はさも当たり前のように校長の問いに答える。


「最近のデジタル社会で紙離れが進んでいるのは知ってるだろ?小説が売れない時代。よく言ったものだ。プロが書いた物語が売れないんだ。素人の一高校生が書いたものをわざわざ紙で手に取る人はそうそういない。ただ部誌用の紙の購入とかに無駄な負担がかかる。だからスマホとパソコンで電子に流すんだよ」


 立板に水。会長の口から紡がれた非常に滑らかな論理に校長は小さく唸った。


「お前を見てると服部を思い出すよ。そっくりだな」

「桐花パイセンは師匠だからな。もちろん次期生徒会長にも受け継がれていくぞ」

「やめてくれ……アレと似たようなやつを生徒会長にしたら学校が終わる……」


 もはや可哀想なくらいに恐怖の表情を浮かべた校長は頭を抱えて、それを見た会長は大笑いをしながらビデオ通話を切ったのだった。




次回投稿予定

9月13日


次は茜ちゃんと映画館










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