第96話 真面目?な生徒会長

「体育祭だぜ!」

「「「「ウェーーーーイ!!!」」」」

「目指すぞ優勝!」

「「「「うおおおおおお!!!」」」」


「おーいお前ら。今から体育祭の種目決めだ。そのノリは本番まで取っておけ」

「……はい」


 途端にしゅんとする男子生徒たち。大樹もそのなかに含まれている。


 四月の終盤、ゴールデンウィークを一週間後に控えた大樹たちはホームルームの時間でゴールデンウィーク明けにある体育祭の種目決めを行っていた。


 先生がそのことを発表した瞬間にクラスのノリのいい男子たちがそれに乗ったのが先ほどの件であった。




「じゃあ出たい種目に名前書いてちょうだいね」


 このクラスの委員長である皐月が黒板の前に立っている。

 百メートル走、リレー、二人三脚、ジャベリックスロー、借り人競争、障害物競走。どうやらこの六つの種目の内二種目を選んで参加するらしい。

 まあ、無難なのと面白そうなのにしようか。大樹はジャベリックスローと借り人競争に出ることにした。




「みんな何出るの!?あたしは百メートルとリレーだよ!」


 放課後の教室。大樹はいつメン四人で話をしていた。話題は出る種目について。


「さすが陸上部エース。僕は障害物と二人三脚だね。転びやすいやつには積極的に参加しないと」

「楓哉の行動理念が意味不明すぎる」

「いや、僕は受け身ができるから転ぶ人を最小限に抑えられるし」


 ほんとに意味不明。まあ前から楓哉はこんなやつだったのでもはや誰も何も言わない。


「俺はジャベリックと借り人だな」

「ジャベリックってあれだよね?短めのやり投げみたいなやつ」

「そうそう。あれなら無難かなって」


 百メートルとかリレーとかは陸上部、サッカー部が無双するだろうからその中に入り込む勇気はない。

 確かにそこそこ足は早い方だが陸上部の大樹より早い友達がレギュラーメンバーじゃないところでお察しである。


「借り人ってほんとに運が絡むからかなりいやらしいわよね」

「確かに。『背が高い人』とかなら簡単だけど流石にそれだけじゃないよな……」


 変なのが出ないことを祈るばかりである。個人的に一番ヤバいのは『苦手な人』などネガティブなイメージのある人がお題に出た時だ。そんなの連れてく側も連れてかれる側も嫌だろう。

 まあさすがにないだろう。

 あるとすればどちらかというとポジティブな感じのやつ。『親友』とか『信頼している人』とか。もしかしたら───────


「こういうのって大樹が『大切な人』を引いて佐渡さんを連れてくっていうのがテンプレ展開よね」

「皐月。さすがに体育祭運営をする生徒会もそんなことはしない……と信じたい」


 大丈夫だよね?現会長は真面目な人だっていうし。どこぞの服部会長みたいなことはないだろう。


「あー、それならあたしも借り人にして『大切な人』引いてタジュ連れていきたかったなー」

「やめてください死んでしまいます」

「あははっ、冗談冗談。前にも言ったでしょ?あたしはタジュが茜ちゃんに振られない限りはアクション起こさないって」


 タジュアカカップルが今あたしの最推しだからねー。と、美羽はカラカラ笑った。




「───────この本やっぱり良いですよね」

「ごめん茜。むずい」

「先輩……ちんぷんかんぷんっす」

「わかりました。説明し直しますね。つまり───────」


 文芸部室にて。文芸部員は未だ三人でありあまり増える気配を感じない。金髪系後輩女子である羽村曰く、『文芸部は楽しそうだけどあのカップルと同じ空間にいるのは……』みたいな人が多いらしい。


 でもさすがに空気がピリついているところよりは仲がいい方がいいだろう。というわけで後一人か二人くらいは来てほしい。でないと廃部になってしまう。


「───────ってことです。じゃあ、次は音夢ちゃんにお願いしてもいいですか?」


 茜がその本の感想をいうのをやめて羽村を指名する。


「了解っす」


 そう言って彼女はバッグからその見た目に似合わない難しげな文庫本を取り出したのだった。




「じゃあ、今から部誌関係の相談をしましょう」

「おっけ」

「了解っす」

「えっと、次の部誌は五月中旬に発行する予定です……しかし、一個大きな問題があります。端的にいうと、部費がありません」


 茜は一枚の書類を悲しそうに見つめてつぶやいた。


「お金がないので紙やホチキスの針が買えません」

「そりゃ困ったな」

「最悪私のポケットマネーから出せば余裕で賄えるのですが……」

「それは却下で。それなら俺も半分出す」


 茜だけに負担はかけられない。無論、佐渡家が代々続く薬師の家でお金持ちなのはわかっているが。それでもだ。


「大樹君にはあまり負担をかけたくないのですが……」

「あのー、電子化とか無理っすか?」


 ふと、そんな声がした。大樹と茜はその声の方向を向く。すると羽村はスマホを恐ろしい速さで操作してこちらにその画面を見せてくる。

 それは隣町にある高校の文芸部のWebサイト。


「なるほど。確かにそれならPDFファイルさえあれば部誌の掲載ができると」

「そうっす。んで、できそうっすか?」

「わかりません。これは不特定多数の人が見るインターネット上のものなので私の独断では……」



 茜の困ったような声がして、沈黙する文芸部一同。その静寂は数秒で切り裂かれた。


「話は聞かせてもらったよ、文芸部諸君」


 その途端、文芸部のドアが勢いよくバン!と開く。


「やあこんにちは。アタシは生徒会長の如月凛きさらぎりん。お困りのようなら任せてくれたまえ」


 そこにいたのは銀縁メガネを決め、ストレートの長髪がトレードマークの、低身長の女子であった。














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