第30話 ベストカップルコンテスト

 暗い中、星空を見上げる。なかなかに風流だろう。


『南側の空に赤く輝く星はさそり座α星のアンタレス……』


 美羽が星の解説をしている。大樹は確かにそんなものもあったなと聞き流そうとしたが普通にいい声なのでじっくりと聞く。

 横の茜もじっとその声に耳を傾けていた。




 自分のクラスの文化祭だからクオリティはほとんど自信なかったが演出なども全然ハイレベルだったような気がする。


 廊下で二人はこれから何をしようか話し合っていた。


「食べ物系は私はもういりませんね」

「俺も」

「じゃあどうします?」

「さあ」


 正直、何をしようか分からないのだ。大樹も茜もやりたいことが見当たらない口なので、とりあえず文化祭の雰囲気でも楽しもうと動こうとした時


「そこの2人!ちょっと良いか!」


 先輩だろう。しかし少し背の低い男子生徒が話しかけてきた。


「二人って付き合ってるよね!ならちょっと来て欲しいんだ!」

「え、あの、俺たち……」

「付き合ってませんが……」


 しかし、先輩はすごい勢いで大樹の手を引き、走り出したので茜も必死に着いていくのだった。




 連れてこられたのは体育館のステージ裏。


「ゼェ、ゼェ」


 大樹を連れてきた先輩は息を切らして倒れている。


「良かった。君たちのお陰でコンテストが開催できるよ」


 メガネをクイクイッと動かしたインテリ系の男子が大樹に話す。

 茜は途中で関係者を名乗る生徒に連れ去られた。


「あの?コンテストって?」


 疑問をぶつける。すると彼は紙を突きつけてきた。それを見た大樹は目を丸くした。


「ベストカップルコンテスト?」

「そう!あと一時間で始まるからそれまでにその裏のアンケート全部埋めて渡してね」


 そして手渡されたペンを握った大樹は困惑した頭のままアンケートを埋め始めるのだった。




『さあさあ、毎年恒例!生徒会主催秦明ベストカップルコンテスト、HBCC開幕!我こそは生徒会長、服部桐花!』

「どうして巻き込まれたのでしょう」

「まあそう見えたから仕方ない。それに強引に呼ばれたからなんか後で謝礼貰えるらしいし」


 お互いにこの状況にもう諦めている。


 ステージ裏とステージは分厚いカーテンに仕切られているから表の様子はわからないが、生徒会長の演説の後大歓声が湧き上がったのでかなりの量が押しかけていると推測できた。


『では、第一ペア!タイジュとアカネ!』


 なぜか一番を引いてしまった大樹と茜はカーテンを開けてステージに一歩踏み出した。




 拍手に出迎えられた大樹と茜だが、その視線の中に少し訝しげなものも見られる。言葉を拾ってみると茜が誰なのかということが多い。


 そりゃ見た目がこんなに変わったら分からないだろう。佐渡茜を知らない人は多いのだ。


 大樹はその視線に慣れるようにしばらく目を閉じていると生徒会長の演説が始まった。


「これから君たちには三つのチャレンジを行ってもらう」

「一つ目のチャレンジは!Do you know each other!今から君たちにはお互いのことをどれだけ知っているのか答えてもらう!正解したら一ポイント!」


 大樹の頭の中には先ほど回答した変なアンケートが。

 そして会長が大樹に問題を出した。


「ズバリ!アカネちゃんの好きな食べ物は!」


 大樹は数秒迷い、唯一記憶にあったものを答えた。




「うーん。残念」

「実際付き合ってる訳じゃないので難しかったですね」


 大樹と茜は廊下を歩きながら談笑していた。

 先ほどのHBCC。

 なんと結果は下から三番目。それも、ほとんどが最終種目で稼いだ点数だったのだ。


「最後のやつはよかったんだけどなー」


 どうやらそれで少し恥ずかしかったらしい茜は大樹の二の腕を軽く叩いた。


「デュエットなんて聞いてません」

「まあヘルファイでゴリ押してなんとかなったからいーじゃん」


 それもそうですねと微笑した茜を眺めていた。




 文化祭が終わり、解散の運びとなった一日目だが、大樹は一人校舎裏にいた。

 この場所に呼び出された。呼び出した人物はもうすぐ来る。


 砂利を踏む音がして彼女が姿を見せる。大樹はにへらと笑い


「美羽、どうだった?」


 親友の一人。美羽を迎えた。

 彼女もニコニコと笑いながら大樹の近くに歩み寄り、両手でピースを作った。


「やったぜ!」


 なぜ2人がそもそも校舎裏という人目につかないところで歓喜しているのか。

 それは数週間前、いつメンとテニスをした日の夜に遡る。





『皐月と楓哉をくっつける計画』

「全然あり」


 電話で美羽と話していた。話題は皐月と楓哉について。


 楓哉が皐月のことを好きなのは美羽も大樹も知っている。故にそれをくっつけたいと願うのは親友たるものの願いであった。


 そしてどちらからともなく提案したのが


『文化祭の出し物で何にしてもカップル要素を入れること』


 そう。全ては大樹と美羽の掌の上だったのだ(過言)。しかし、カップルシートというものを用意し、そして楓哉と皐月が必ず大樹もしくは美羽が受付をする時間にプラネタリウムを訪れるようにして、首尾よく二人をカップルシートに座らせることに成功したのだ!!!




「それで、楓哉は?」


 そう。それが大事なのだ。こちらからはお膳立てさせてもらった。それが結局どうなったのか。それが知りたい。


 すると、美羽は顔を顰めて、どこか遠くを見るような目で


「ああ、あのメガネは、ヘタレたよ」

「楓哉あんにゃろ」


 でも!と美羽は目を輝かせて


「さっき皐月たち見たんだけどね!あのね!あの皐月が楓哉の方チラチラ見てたんだよ!」


 その言葉に歓喜して飛び跳ねる大樹と美羽であった。





 私は家に帰ると緊張の糸が切れたかのようにへなへなと崩れ落ちます。

 カップルコンテスト。二百人以上の人が大樹君と私に注目していて、もし私一人なら卒倒してしまっていました。


 大樹君は無自覚だったかもしれませんが、あの時、ステージに出て怖気付いた私の右手を握って軽くギュッ、ギュと握りしめてくれました。


 びっくりして彼を見上げるといつものように楽しげに笑顔を浮かべていました。

 そのおかげで私は安心してステージの上に立つことができたのです。


 まあ、最初のクイズで大樹君が全部間違えたのはちょっと複雑ですが、私も全部間違えてしまったのでお互い様でしょう。


 私は私服に着替えてベッドに倒れ込み、抱き枕を優しく抱きしめるのでした……





 文化祭二日目、柊木美羽、動きます(`・∀・´)










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