第27話 秦明学園最強の女
人混みを縫うように歩き、なんとなく感じた嫌な予感に大樹の歩く速度は少しずつ上がっていく。
誘拐された?いや、流石に背が少し低いとはいえ茜は高校生だ。そう易々と引っかかるわけない。
じゃあ単純な迷子?それなら連絡一つくれても良いだろう。
その思考は脈略なく絡み合い、2階に上がり人通りの少ない廊下、職員室前廊下に出た時、声がした。
テンションの高い女性の声と茜の声。大樹はぴたりと立ち止まり、そちらに顔をのぞかせ
「え?」
そうして慌てて駆け出し
「行くぞ!大名行列だ!!!」
その声に困惑し立ち止まるのだった。
「先……輩……?」
私は私のことを庇ってくれた人の姿を認識します。
「やあ、茜ちゃん。久しぶりだね。部誌はもらったよ」
クールなお姉さんのような服部先輩はそのポニーテールを揺らして私を庇うように立ち、例の男性を軽く睨みます。その大きな胸を張り
「やあやあ!我こそは茜ちゃんの部活の先輩でありこの秦明学園の生徒会長!
そのあたかも武将のような挨拶をした先輩を見ながら
(ああ、この人武将オタクだった。というか、文芸部でオタク仲間ということで可愛がってもらった)
と思い出し、その挨拶を受けて頭にハテナが浮かんでそうな例の男性を眺めました。
「それにしても、規則を破る者がこの文化祭で現れるとは。生徒会長としての失態!腹を切って詫びようか!」
「先輩それはやめた方がいいです」
「ああ!ではこの男を見せしめに打首にすれば良いのか!さすがだ茜ちゃん!」
「それもやめた方がいいです」
なんでこの人は誰かを殺そうとするのでしょうか。
私は訝しげに思いながら、すぐに生徒会長の異名、『学園1の知的変態』を思い出すのでした。
休み時間になると持参した武将の旗印を掲げて廊下を闊歩し、授業中は先生に遠慮なく反抗(知的)するが、全国模試では毎度トップ十に入る超実力者。
そのおかげかせいか先輩は先生から下手に抑圧するより自由にさせた方がいいと放し飼いにされており、なぜか今は生徒会長になっている。いや、当たり前でしたか。
私が先輩のことを少し思い返していると先輩はふと振り返り、私の背中のさらに先を見るように目を細めました。
「では、私はお暇するとしよう。戦国同好会のみんなで大名行列をしなければならないからな!」
そうして先輩は堂々と立ち去り、角にさしかかり
「行くぞ!大名行列だ!」と叫んで曲がっていきました。
後に残された男性と私の両方は呆然とその立ち去った方向を眺めていたところ、後ろから声がしました。
「茜。探したぞ」
「た、大樹、君……」
そこには彼が居て、私は心の中で先輩の時よりも強い安堵を覚えたのでした。
「知り合い?」
大樹は呆然と立ちすくんでいる不思議な男性を示しながら茜に尋ねる。
というかなんで茜はさっき座り込んでいたんだろうか。
まあよく分からないがとりあえず聞いてみることにした。
「いえ、先ほどナンパされまして」
「ナンパ?」
大樹は眉間に少し皺を寄せ、その男を冷たい目で見る。
その変化した雰囲気に気づいたのか、慌てた様子で男が
「その子可愛いだろ!?こんなのナンパしない方がおかしいって!というか誰だよお前!?」
「俺はこの子の親友。確かにこの子はめっちゃ可愛いと思う。だからと言って」
大樹はその男に詰め寄り
「本人が嫌がってるのにナンパするのが普通?何を考えているんだお前は」
そして敵意を込めて睨みつける。これでも大樹は高校生であり、大樹が睨んでいる男は社会人だろう。それに身長も相手の方が少し高い。
それでも、大樹の込める圧は年齢の差も破るほどに強力で、冷や汗を流しているその男は
「くそっ!」
そう言って踵を返すが、その男はふと立ち止まる。
近づく足音。それに連動するガシャガシャという音。
曲がり角からその集団が現れる。
「わーっはははっ!降参か!流石だぞ草宮大樹くん!」
赤備えの甲冑に六文銭の旗を背中に生やした女子、服部生徒会長は腰に手を当てて胸を張った。
その後ろから二十人ほどの赤備えの集団が現れ、生徒会長の後ろにつく。
その隙間から甲冑集団より恐ろしいムキムキのスキンヘッドにサングラスの男が現れ
「お前がハタアケの風紀を乱す者カ」
その男を引っ張っていく。引っ張られながら大樹と茜に向けて
「お前ら!覚えてろよ!」
と叫んでいた。
彼は生徒指導の
コワモテで怖いと言う印象が先行するが授業や休み時間ではすごくドジで可愛らしい側面を見せる、多分秦明学園で一番人気の先生だと思う。
「ヘイ大樹!」
摩周先生は大樹にサムズアップを掲げて、
「はい?」
「キミのガールフレンド慰めてあげなヨ!」
そうして先生は去っていった。
残ったのは制服姿の男女と赤備えの集団……
どういう状況だこれ。
「やあやあ!我こそは秦明学園生徒会長、服部桐花!草宮大樹よ!そなたの大和魂!しかと受け取った!素晴らしいぞ!」
「あ、会長。先生を呼び出してくれてありがとうございます。赤備え、真田幸村ですか?」
「よく分かっておるな後輩!まあ、可愛い後輩を守るのは先輩の務めであるからな!」
豪快に笑い飛ばす桐花会長で、その姿だと説得力が違う。
そして、その笑みが生暖かなものになって
「では、我らは大名行列といこう!この二人の邪魔をしたのは我らも同じだ!すまなかった!」
そうして、立ち去る直前、大樹にしか聞こえないような小さな声で
「頼むからうちの後輩を幸せにしてあげてくれ」
何かを含んだその声に大樹はほんの少しのモヤモヤとした気持ちになり、しかしそれをおくびに出さないようにしながらガチャガチャとうるさい音を立てながら走り去る会長の背中に頷くのだった。
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