第50話 可愛い子のジャージ姿ってなんか萌えるよね
『っていうことがあってね』
「ご愁傷様としか言いようがない」
ただ話をよく聞いていると皐月は楓哉のことを意識している可能性は高いだろう。もしかしたら勝ち筋は濃厚かもしれない。
大樹の脳内演算はそう結論づけ、電話越しで嘆いている親友に
「まあ、なんだ。俺は今まで楓哉に助けられてきたからな。親友の恋路は手伝ってやるよ。相談も乗るし手助けもする」
勝ち筋が見えているからな。大樹はそう伝えた。
『嘘だろ、勝ち筋ってつまり……』
「ワンチャン付き合えるかもな」
『うぉおぁぁあぁああ!!!』
「うるさい!」
思わずスマホを耳から遠ざけた大樹だが電話越しに狂喜乱舞しているであろう親友の姿を思い浮かべて大樹も楽しくて笑みをこぼしたのだった。
美羽、皐月、その他の友達から誕生日おめでとうとの旨のRIMEが来てそれに返信したり本を読んだりしていると気づけば夕方になっていた。
大樹は侑芽華に呼び出されてリビングにやってきていた。廊下ですでに食欲をそそる匂いがしており、リビングのドアを開けるとそれを一気に感じられた。
「大樹は座ってて」
言われた大樹はダイニングにある椅子の一つに腰掛ける。
少し経つと縁も降りてきた。
そして、侑芽華がたくさんの料理を載せた皿を机に運び、
大樹のささやかな誕生日会が始まった。
夜九時、大樹は誕生日プレゼントにもらったシャーペンを早速使って勉強していた。
うん。流石に使い慣れてないからか手に馴染むといったことはないが癖で力を入れがちになってしまう大樹にとって指が当たる場所にクッション素材が使われているこのシャーペンは非常に快適であった。
そんな大樹だが現在心中はずっとモヤモヤであった。
(茜から連絡来ないかなー)
そればかりずっと考えていた。故に、集中などできはしない。先ほどから大樹の意識は時折ベッドの上で充電器に繋がれているスマホにやられていた。
そんなことを考える自分が嫌になる。付き合ってすらいないのだ。
ただ、そんなモヤモヤはすぐに打ち砕かれることとなる。
ヘルファイの石集めのため次元層を周回していたところ
「あと一個デバフ撒いたら削り切れるよな?」
大樹は連撃を仕掛けてきた相手に対して回避ボタンを連打してジャスト回避を何度も発生させる。
早いところ隙を見せてくれなければすでにかかっているバフデバフが時間切れになってしまうのだ。
そして
「取った!!!って、あ……」
相手が見せた一瞬の隙を縫ってデバフを叩き込み、一気に距離を離して必殺技を撃とうとしたところ、画面が一瞬にして切り替わる。
『RIMEオーディオ アカネ』
大樹は喜ぶべきか悲しむべきか分からなくなった。
『……もしもし』
「もしもし茜」
『あ、あの、誕生日、おめでとうございますっ……!』
「ありがとう」
『その、大樹君が生まれてきてくれてよかったです。大樹君が居てくれたおかげで私の高校生活もとても楽しいものになっていますし、なにより……』
「なにより?」
電話越しにボソボソゴニョゴニョ何かを言っているのが聞こえるが聞き取ることはできない。
数秒ほどすると茜の声が戻ってきており
『……いえ、なんでもないです。ところで大樹君』
「どうした?」
すると、茜はおずおずと、いつもよりも控えめな声色になって
『その、ビデオ通話に、できませんか……?』
『うわっ』
「そんな驚くもんか?」
『い、いえ。友達とビデオ通話なんて中学以来なので……』
「したことあったんだ」
なんというか、クールで理知的というイメージの強い茜だから基本的にメッセージと電話だけで済ませてきたのだと思った。
電話もなんか、『ええ、はい』とか『了解しました』みたいな感じの会話をしていそうな印象。実際茜はよく喋るのだが。
とはいえ、さっきの発言は茜的には何か物言いたいものだったらしく、目を少し細めて
『私だってビデオ通話くらいします。小学校と……中学校ではかなり明るい人だったんですよ?』
「そいつは失礼」
ちなみに茜の服装はジャージ。美少女のジャージ姿に可愛いと思うのは自明の真理だと思う。
よく見ると意外なことに気がついた。それは茜の胴体部分にデカデカとついている校章のようなものと
『TAKANAWA EAST』という文字。
茜はスマホを置き、しばらく視界が天井を映し出すが、数秒後ベッドに寝転がったらしい茜が映し出された。
「あれ、もしかして茜の中学って高輪東?」
『はい。そうですが』
「俺高輪中央」
『あれ、とても近かったですね』
確かによく考えたら茜の家と大樹の家は徒歩で二十分ほど。その間に駅があり、大樹の家と茜の家を結んだ半直線上に高校はある。
校区的にはかぶっている地域もあるほど近所の中学校だったと知ってびっくり。
高輪東といえば……大樹が中三の頃あんまり良くない噂を聞いた。
男子生徒数人と女子生徒数人が結託し一人の女子生徒に対して大規模ないじめを行った。
その内容は大樹にとって腹立たしいものではあったが他校だからと噂で聞き流していたものである。
当時の彼らの学年は三年生。つまり、茜と同じ学年だ。
知っているかもしれないと好奇心が湧いたが、それに踏み込むのはいささか気がひける。知ってどうするんだという話でもあるし。
それよりも……というかなんで気づかなかったんだレベルなのだが。
会議でもないビデオ通話をするのに椅子に座ったり立ったりしながら行う人間は少数だろう。
現に大樹はベッドに寝転がっているし、それは茜もそうらしい。ただ一つ違うとすればそれは……
「なあ、茜。これは疑問なんだが」
『どうしました?』
「ジャージそれ逆向きじゃないか?」
だいたいああいう校章とかって背中についているものではないのだろうか。
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