第二章 恋心編

恋心との付き合い方

第35話 確定演出キタコレ

 美羽に告白されて、それを振ってもいつメン4人の絡みは変わらなかった。


「よーし。土曜日は四人でボーリングだー」

「まじか」

「僕と大樹は厳しいね」

「あれ?道場だっけ」

「そうそう」


 美羽が遊びの提案をし、それに各々反応を返す。


「その日は私は空いてるわ。でも日曜日は無理ね」

「そんなぁ」


 どうやら今週は四人揃うことはなさそうだ。




「二人とも、ちょっと来なさい」

「「はい」」


 道場内。いつもは奥に引っ込んでいる師匠が出てきた。大樹と楓哉を呼ぶと、


「二人とも、空手についてわしが教えられることはもうない。免許皆伝じゃのう」

「ありがとうございます」

「ははー」

「そんなわしを殿様みたく扱うでない。ところで、この道場の秘密を知っておるかな?」


 大樹たちを試すようににやりと笑った師匠。


「「空手道場ではなく護身術道場だということですか?」」

「なっ」


 二人とも同じことを答えて狼狽える師匠。いや、分かるからね?護身術を学ぶ道場じゃないと空手vs剣道なんてしないからね?あと、当たったらダメとか言って十手出してくる道場ここだけでしょう?


「こほんっ。仕切り直そう。二人とも空手はもうわしが教えられる範囲を超えた。だからこれからは護身術の方を教えたいのじゃが。どうかな」

「俺は別に良いですけど」

「僕は大会で勝ちたいので少し乗れません」


 二人で意見が割れた。この道場にある門下生は大樹と楓哉を含めて二十人強。

 その中で護身術の方を習っているのは五人ほどの社会人らしき人たち。基本みんな空手をやっている。




 そんなわけで大樹は護身術を専攻することになった。電話でちゃんと母親の許可を得たので問題なしだ。


「なんでこんな鎧着せられてるんですか」

「そりゃ初心者だからね!」


 師匠の息子が剣道の装備をして大樹の前に立っている。対する大樹は戦国時代の足軽のような鎧を着ている。


「安心して、最初だから寸止め」


 安心できないけど?


「ハァァァ!」

「っ!」


 大樹はぐいっと重心をずらして縦振りになった竹刀を強引に避ける。しかしやはり謎の足軽装は動きづらく、大樹は横様に倒れる。

 それをすかさず追撃が来て、大樹は速攻で投了した。




「俺はもしかしたらとんでもないところに参加したのかもしれない」


 一応ちゃんと寸止めされて一度も竹刀を喰らっていない大樹だったが回避行動を取ると結構な確率で転んだので体の節々が痛みを訴えている。道場からの帰りにエムドでハンバーガーを食べていた。


 楓哉は軽快に笑いながらもふと落ち込んだように


「もう、ほんとに空手は辞めるんだね」

「ああ」


 そう簡単に傷は消えない。実際、空手自身に嫌悪はないものの、空手の大会はダメなのだ。あの日のことを思い出してしまうから。

 草宮大樹が、自分の矜持に背いた日だから。


「理由は分かってるだろ?」

「大樹が自分の名前をほんとに大事にしてるってことでしょ?」

「極論そうだな」


 とはいっても名前をバカにされたとかそういうのじゃない。大樹自身が今まで守ってきた信条を自身の手で破壊した。


「この話はやめよう。俺が鬱になる」

「あーはいはい。ところでさ」


 そして再び神妙な顔に。


「美羽に告られたって本当?」

「……ああ」


 楓哉はニヤリとメガネを整えて


「あんな美少女に告られても揺れないって大樹何者よ」

「なんだろうな」

「と、そういえば美羽から聞いたけど大樹好きな人がいるんだってね」


 そういえば楓哉は三日前に行われた文化祭でヘタレたがそれから皐月との距離が縮まったと自覚しており最近そのせいでキャラがおかしくなっている。


「それがどうした」

「やー。我が親友にも春が来たのかーってね」

「うるせえヘタレメガネ。せっかく美羽と共謀してプラネタリウムカップルシート座らせたってのに」

「急に酷すぎない!?て言うかあれ二人の企みだったの!?」

「当たり前だろ。周囲からの信用の厚さがえげつない美羽と、校長先生をうまく言いくるめた俺に感謝しろってレベル」

「あれ裏で校長先生も絡んでたの!?」


 まーじであれは大変だった。ちゃんとメリットを説明してその上でいろんな先生に許可を取って最後に立ちはだかったのがすっごく厳格な校長先生だったのだ。


 放課後二時間くらい説明に使ったぞまじで。

 思い出したらあの禿頭の校長に腹が立ってきたので想起はそのあたりにしておいて。


「ところで楓哉。次のテストはどうなんだ?」


 再来週から一週間、二学期期末テストが始まる。


「無理赤点詰んだ留年確定演出キタコレ」


 死んだ目。この世の全てに絶望したかのような表情の彼がいた。ゲルニカの方がまだマシな顔をしている。


「そこまで酷くはないだろ」


 赤点は知らんが留年するほどひどいはずがない。


「まあ確かにそうなんだけどね」

「ならセーフ。楓哉にはちゃんと三年で卒業してほしいからな」

「誰目線だよ」

「親友だ」

「間違いない」


 ハンバーガーを食べ終えた大樹と楓哉は会計を済ませ、互いに家に帰るのだった。




 このお話から二章がスタートします。季節的には秋の終わり〜二年生スタートの予定です。

 季節のイベントはもちろんのこと他にも書きたい内容がいっぱいあるのでお楽しみください。





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