第79話 霧島 大阪に帰る。
「さぁ、帰りますかね。」
荷物をぎっしりと詰め込んだリモワを後部座席に詰め込み、入りきらなかった靴はi8の申し訳程度に拵えられたトランクに入れ、さらに持ちきれないほどのお土産を持たされた私は車に乗り込んだ。
心なしか車のレスポンスが悪くなっている気がする。
途中の電気自動車を充電できるスタンドで、電気も満タンにすると、一路大阪へ。
なかなかの長旅だが、以前はレクサスで大阪東京を走破したことを考えるとそれほど苦しくもない。
多少疲れはしたが大阪に着いてみると、ふと思い立った。
マンションの進捗状況を見に行こうと思った。
「もしもし、霧島ですけど。」
「お世話になっております霧島様!
本日はどのようなご用件で?」
「マンションの進捗見たいんですけど、中って見られますか?」
「大丈夫ですよ!ご一緒いたしますので、ぜひ!」
「じゃあ現地集合でおねがいしますね。」
「はい、かしこまりました!」
マンションの近くのコインパーキングに車を止めると貴重品だけ持ってマンションに向かう。
すると担当の営業さんが既に待っていた。
「すいません、お待たせしました。」
「いえ!私も先ほど来たばかりですので!」
「ありがとうございます。」
「一応ではあるんですけれども、ヘルメットかぶっていただいてよろしいですか?」
「あ、わかりました。」
「もう工事は終わっているんですけど、まだお部屋によっては内装ですとか天井ですとかその他諸々工事をしている部分もありますので。」
「そうなんですね〜。
入居時期はいつでしたっけ?」
「一応書面でも送付させていただきましたんですけど、正式な入居開始日は3月1日に決定いたしました。」
あと2ヶ月後か。
長かったような短かったような。
「なるほどー。」
そうこうしていると、最上階の30階についた。
このフロアは3部屋しかない。
実質的に全部屋角部屋である。
「こちらのお部屋は、霧島様からご要望がございましたように、B&Bさんの方で内装をしていただいておりまして、8〜9割完成しているとのことでした。」
「あー!いいですねぇ。」
部屋全体が黒とグレーと白でシックにまとめられており、ショールームかと思うほどだった。
リビングや玄関には絵が飾れるようになっており、ここには新造おじさんの絵を飾ろうと思う。
絵を描いて欲しいとはまだ一言も言ってないけど。
「で、そろそろ家電類も入れますと言うことなんですけど、もう届き次第入れてよろしいですか?」
「あ、はい大丈夫です。家電の方はメーカーさんとB&Bさんでやり取りしてくれてますんで。」
「はい、かしこまりました。」
部屋の作りを一通り確認して満足したあきらはマンションを出る。
「それでは、3/1から入居可能でございますが、お好きなタイミングでご連絡くだされば、お渡しする鍵を持って向かいますのでぜひご連絡くださいませ。」
「はい、ありがとうございます。」
マンションの説明を聞いた後、車に所狭しと積んである荷物を片付けにひとみの家に向かう。
「マンション出来たら、結局ひとみどうするんやろ。ほんとに一緒に住むんかな。」
出来たら一緒に住みたいけどなぁとも思いつつ、そうなったら親父さんにちゃんと挨拶しに行く必要が出てくるので足が重くなる。
ひとみの家のマンションに車を置き、部屋と車を2往復してやっと荷物を部屋に上げ終えた。
「ふぅ。飯でも買いに行くか。」
ひとみのマンションの近所の居酒屋に歩いて向かう。
前住んでいた家からもそう遠くなく、気付けば行きつけになっていた。
「お、あきら久々だな。」
「うぃす、ご無沙汰です。」
「なん飲む。」
「いつもので。」
「あいよー。」
大将の声と同時にホッピーが出てきた。
大将は何飲むと聞いておきながらその手には既にホッピーを用意していたのだ。
「つまみはなんにする?」
「いつもの適当に。」
「あいよー。」
しばらくしてから大将が持ってきたのは豚の角煮。
「お、幻の角煮!」
幻の角煮とは、大将が作る角煮のことで、滅多なことでは出回らない。
そして、美味しい。
歯が抜けるほど美味しい。
歯がなくても食べられるほど柔らかく、味が染み込んでいる。
昔はよく出していて看板メニューだったが、最近は飽きたのかごくごくたまにしか作らないので、ついた異名が幻の角煮。
「今日あたりあきら来そうな気がしてたからなぁ。作っておいたのよ。」
ふと周りを見渡すと既に何皿か出てしまっている。
「もしかして?」
「うん、これラスト一皿。」
「ありがとうございます!!!!」
この店のホッピーと角煮の組み合わせはもうなんとも言い表せないほどの最高の組み合わせ。
嬉しすぎたので写メを撮ってラインでひとみに送る。
2秒で帰ってきた。
「◯ス」
「こわ。」
「遊◯王の杏子思い出すね。」
と、ラインを見た大将が言う。
「初期の頃ね。」
「まぁひとみちゃんもうちの角煮好きだからなぁ。」
「でもひとみの角煮も美味いっすよ?」
「そりゃうちのレシピ教えてあげたからね。」
「なるほど!どうりで。」
「あきらくんを唸らせてやるー!って言ってたよ?」
もうそれが可愛すぎるんよ。
たまらんわ。
「最初出してくれたときは美味すぎて唸っちゃいましたよ」
「ほら、あの子努力家だから。」
「たしかに。影でコソコソやるくせに、表では余裕ぶってるんですよね〜。」
「カワイイじゃないの。」
「たしかに!」
ひとみの話で大盛り上がりした。
最近の話をしながら。ホッピーと芋焼酎をしこたま飲んだら芋焼酎の店のストックがなくなってしまった。
「ありゃ、もう黒霧島なくなっちゃった。」
「大将ストック買い忘れ?」
「お前が飲みすぎなんだよ。」
「あれま。」
「まぁ明日届くのは届くんだけどさ。」
「じゃあいいじゃん。」
「いっか!」
店の客も帰ってしまって後はもう大将と大将の奥さんと自分くらいしかいなかったので、店をクローズにして3人で飲み始めた。
「あきらちゃん来なかったからウチの人も寂しがってたのよー?」
「そりゃ売り上げに貢献せにゃならんですね!!」
「おうおう、もっと飲め!」
「その前にお水を一杯。」
「いいだろう。」
その後も焼酎をメインに飲み尽くした。
時々奥さんが仕込みすぎて余ったつまみを持ってきてくれるのが嬉しい。
刺身系も、足が速いということもあって、余ったのをたくさん持ってきてくれた。
不思議なことに、
どうもそのあたりから記憶がない。
気づいたら翌日の昼だった。
カウンターで寝ていたらしい。
書き置きがあった。
「あきらへ。
飲み過ぎには気をつけろよ。
鍵は店のポストに入れておくこと。
朝ごはんは冷蔵庫に作っといたので
チンしてしっかり食べろよ。」
「ありがてぇ…ありがてぇ…。」
朝ごはんは鯛茶漬けだった。
土瓶に入って「朝ごはん」と付箋をしてあった出汁をレンジでチンする。
その間に昆布締めにしてある鯛の刺身を冷蔵庫に見つけたので、それをどっさりご飯に乗せる。
そこに温まった出汁をかけてかき込む。
「うめぇ……。」
昨日の会計もしてなかったので、
感謝の気持ちを込めて、ざっくり20万ほど置いて帰った。
払い過ぎではない。多分それくらい飲んだ。
「なんか体バキバキだから銭湯行くか。」
そのまま近くにあるスーパー銭湯に行くことにした。
銭湯併設のコインランドリーで下着やら服やらを洗濯している間、自分自身も体を洗濯する。
この銭湯の中では館内着で過ごすため、頼めば風呂の間に隣のコインランドリーで洗濯しておいてくれて、ロッカーの番号を教えておけば、仕上がった状態で入れておいてくれる。
なんと便利な。
風呂で体をしっかり茹でてから、サウナで汗を流し、水風呂でキュッとした後休憩する。
これを3セット。
最後、また風呂に入り、アカスリをしてもらってマッサージもしてもらった後、ロッカールームでコーヒー牛乳を飲み体を拭き、ロッカーを開けると、既にランドリーが仕上がっていた。
「最高。」
綺麗になった服に着替えて、心機一転。
散歩がてら、まだ寒い道を歩いて家まで帰る。
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