第77話



「おぉ、意外と美味い。」


「でしょ?お気に入りの店なの。」



いま、私は二人でお昼ご飯を食べています。

お相手はマミちゃん。

マミちゃんは小中学時代の同級生でクラスメイト。

高校からは別々だったが、それなりに仲良かった友達の一人だ。

この帰省中、地元の友達と誰一人会話していないということもあり、ありがたくお誘いを受けた。



ランチの場所はマミちゃんのお気に入りのイタリアンレストラン。

ディナー営業はいつも満席だが、ランチは意外と穴場であまり人がいない。

あと正月でまだ街に出る人が少ないので、普段よりはさらにもうちょっと空いてるらしい



「にしてもまさか霧島くんがあんな車で迎えに来るとはねぇ。」


「まぁ色々あって乗ってるんだよ。」


i8はエンジンの音がとても静かだ。

なので徐行しているとほとんど音が聞こえない。

少し驚かせてやろうと思い、マミちゃんが自分の家の前で立って待っていたので、徐行で近づき、声をかけたら腰を抜かすくらい驚いていた。


「霧島くんってお金持ちなんだね。」


「それはどうかわからんね。」

嘘である。大金持ちである。尋常ならざる大金持ちである。


「嘘だよ、身につけてるものとか見てもすぐわかる。」


バレバレである。


「まぁ今はバブルだから。」


「そういうことにしとく。」

こういう細かいところを詮索してこないところがありがたい。



マミちゃんとは昔話をたくさんした。

あいつはどこにいるとか

そいつは何をしているとか。

あいつは結婚したとか。

そいつは子供が生まれたとか。


ハタチそこそこで子持ちかぁ。

なんて思いながらマミちゃんの話を聞いていると質問された。


「霧島くんて彼女いないの?」


「いるよ。」


「そっかぁ〜。」

なんかちょっと残念そうだった。

そういう顔をされるとこちらも心苦しいものがある。

マミちゃんとは小学校からの仲。

もちろん意識したことがないかと聞かれれば、ないとは言えない。

いつも一緒にいたからこそ言えなかったこともあるのだ。

そんな相手だからこそ、仲の良い友達でありたい。


「彼女がいるからってそう邪険にするなよ。」


「当たり前でしょ。何年の付き合いだと思ってんのよ。」


「そりゃそうか。」

中学生の頃なんかはお互いに恋人がいる時もあった。それくらいの時から、あっくんと呼ばれていた名前が霧島くんに変わった。そのときはなぜか心がキュッとされている気分にもなった。


「でも、霧島くんに彼女さんいなかったらなぁ。」


「いなかったらなんなのよ。」


「別に。」

マミちゃんはそうやっていつもこちらの反応を見てからかってくることがある。

だから期待しちゃうんだよな。

今日は仕返ししてみよう。


「昔話ついでに、一つおしえてあげようか。」


「小学校の頃からずっと好きだったんだけど気づいてた?」


「え!?いや、!?え?!?あの、えっ???

いや、あの、、、?

えっ??えっ????」


面白いほど狼狽している。

「弱すぎるだろ。」


「だって…」


「でもね、それはほんと。

今は友達だけどね。」


「うん…」


「いい思い出よ。今も。だから大事な友達。」


「ありがとう。」


ここで、マミちゃんがどう思っていたのかを聞いてしまうともう後戻りできなくなる。

この仲を続けたいなら聞いてはいけない。



そろそろランチも終わりの時間だ。

マミちゃんを送って帰ろう。



「霧島くんの彼女さんってどんな人なの?」


「食いしん坊で、美人で、おしゃれ。」


「へぇ、私じゃん。」


「笑止。」


「うざ。」


「だって事実だからさぁ。惚気てるわけじゃないよ。」


「腹が立って腹が立って仕方ない。」


「ランチ代奢ってあげたんだから納めてよ。」


「くっ…これが大資本の力か…!」


「どうも、大資本家です。」


「腹立つ!!ドアミラーもいでやろうか!」


「もがれたら買うだけよ。」


「金持ちめ!」


「違う、大金持ちだ。」


「もういい…。」



このやり取りに懐かしさを感じながら、マミちゃんを家まで送ってあげた。


「ありがとね、霧島くん。」


「こちらこそ。久々に会えて嬉しかったよ。」


「また帰ってきてね。」


「もちろん。」


「ちゃんと連絡してね。」


「わかったって。

あ、今度さ、みんなでご飯いこうよ。

近々に。」


「いいけど、珍しいね。」


「そう?まみまみも大事な友達だけど、友達同士が繋がるとまた楽しいじゃん。」


「そうだね!」


「また昔みたいに集まって楽しいことやろうよ。」


「期待しないで待ってる。」


「日程決まったらまた連絡するね!」


「了解!」


「じゃまた!」


「はーい!またねー!」



マミちゃんを家に送った後家に帰ると、ニヤニヤしながら母さんがやってきた。



「お楽しみでしたね!」


「うるせぇ!」


「まぁまぁ、聞かせなさいよ。」

母はお茶の準備を始めた。





「なるほどねぇ。」


「まぁそんな感じよ。」

母にマミちゃんと会った一連の出来事を話してみた。


「まぁあんた金持ちだから何人嫁さん囲おうといいと思うけどね。」


「いやダメでしょ。石油王じゃないんだから。」


「石油王みたいなもんでしょ。」


「お国柄の違い!!」


「まぁタイミングだよね。」


「まぁそれはある。」


「いや、ひとみちゃんに言うタイミングよ。」


「いや、囲わないから!!」


「まぁいいんじゃない?

私も久々に青春ドラマ見た気分だわ。」


「うん、久々に甘酸っぱかった。」


「マミちゃん辛かったろうなぁ…」


「だからニヤニヤ笑いやめろ。」


「はいはーい」


母は笑いながら夕飯の準備に戻った。

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