第76話

正月行事も落ち着き、

実家でゴロゴロしながら株をいじったり、暇つぶしに外貨をいじったりしていると、あっという間に時が過ぎ、そろそろ大阪に帰る日がやってきた。


「母さん、明後日くらいに帰るから。」


「あら、そう。なんかお土産買っていく?」


「帰る前になんか買って帰るよ。」

今回私は、長い時間をかけて車で帰省している。

なので帰省ラッシュが落ち着いた頃、ゆっくりと高速道路を流して帰るつもりだ。

帰りのサービスエリアかなんかで爆買いしてやろう。


「了解。」


帰りたくない気持ちしかないが、単位を取得しなければ、進級はできるが卒業できなくなってしまうので、泣く泣く帰る。

帰れば帰ったで楽しいことはあるのだが、どうしても実家の住みやすさには負ける。

購入した新居の家具や内装の最終打ち合わせもあるので、また忙しい毎日が始まる。



ちなみに、新居の家具と内装はイタリアのB&Bに注文してある。


あまり日本では知られていないが、世界のセレブに愛されるメーカーのうちの一つで、殺しのライセンスを持ったイギリス人諜報員の上司の家の内装を手がけたメーカーだ。



たまたま映画を見ていた時に、内装や家具のデザインに一目惚れしてしまい、自ら電話をかけてお願いした。

もちろんエルメスやカッシーナといったメーカーからも営業を受けたが、逆に安直過ぎてお断りをした。

素敵なデザインではあるがなんとなく肌に合わなかったのだ。



それに加えて、家電もほとんど注文を終えている。

最初こそはなるべくあるものを持っていくつもりでいたが、部屋の大きさと持っている家具や家電のキャパシティが合わず、ほとんどの物をリサイクルショップに流した。


注文した家電の中で、1番楽しみにしているものはテレビだ。大きなテレビは基本的に受注生産なので、テレビはソニーストアで直接注文した。Z9Gシリーズの98型で、なんと4Kを超える8K。

価格は驚きの7万ドル。



やはり完全受注生産なので時間はかかるが、入居に合わせて納品してくれることになっている。

他の店でも冷蔵庫や、洗濯機、空気清浄機などなど注文するだけは注文して、料金も払った。あとは内装責任者のB&B Italiaさんのタイミングで家に搬入してもらうことになっている。


海外メーカーのおしゃれな家電にも憧れたが、修理となるとめんどくさいので、基本的に国産メーカーで揃えた。



「暇だからちょっと出かけるか。」



株取引や外国為替取引にも飽きたのでお出かけすることにした。

ネットの中でさっきまで売ったり買ったりして遊んでいた、よくわからない国の外貨で日本円を買えるだけ買って後片付けしておく。

最終的には外車が買えそうなくらいの額に膨らんだので大満足。


服を着替えて外出の準備をする。

今日は気分を変えてクラッチではなくバーキンにエルメスのベアンの財布、キーケースなどを詰め込む。

中身はほぼスカスカだ。


「母さーん!!!ちょっと出かけてくるー!!!」


家を見渡しても姿が見えなかったので叫んでおく。すると、小さな声で、ご飯までには帰ってきなさいよー。と聞こえてきた。

我が家でのご飯までにはというのは夜の7時までの時間を指す。それより遅くなる時には連絡しなければならない。

左腕のロレックスを見るとまだ12時少し前。

おせちにも飽きたのでランチも兼ねてドライブへ。

父のフェラーリも気になるが、ここで勝手に乗ってしまうと負けた気になるので、あえて自分の真っ赤なi8でドライブする。



実家は田舎なので、何もない。

コンビニはある。

ボーリングはない。

カラオケはある。

若い者が服を買うようなお店はない。

なので、少し足を伸ばして少し都会の街へ行く。

高速道路を降りて下道を走っていると、やはり目立つらしい。よく見られた。

普通の駐車場にとめていたずらされると困るので、近くのホテルの地下駐車場に止めることにする。


車を停めさせてもらうだけ停めさせてもらって、外に出る。


取り敢えず服でも見にいくかなーと思い、ショッピング街へと向かう。

いろんな店に行ったが特にピンとくる服はなかった。


しかし、なんとなく入ったブルガリで指輪に一目惚れ。すぐに買った。

セーブザチルドレンと、B.ZERO1の20周年記念モデルの2つで、合計140万弱だった。


嬉々としてB.ZERO1を指に嵌め、店を後にする。


ブルガリの小さなショッパーをもち、車を止めたホテルに向かって歩いていると、たまたまショーウィンドウの靴が目に入った。

無性に靴が欲しくなり、その店に入るとナイキだった。


ショーウィンドウに飾られていた、ナイキエアフォームポジットワンを試着させてもらった。


「あれ?もしかして霧島くん?」


「ん?」


「ほらほら!私だよ!」


詐欺かタカリの類かと思ったら小・中学生の頃同じクラスでよく宿題を見せてもらっていたマミちゃんだった。


「あ、まみまみじゃん。」


「大人になってもまみまみって言うのね…。」


あきらはマミちゃんのことをまみまみと呼ぶ (もみあげと同じイントネーション)。


「まみまみこんなところでどうしたの?」


「私靴屋さんでアルバイトなのよ。」


「へぇー、そうなのかあ。靴売れてる?」


「うん、ぼちぼちね!」


「あ、サイズ丁度やね。これ購入で。

やっぱ景気ってええんやなぁ。」


「霧島くんの買い方見ても景気がいいって実感するよ。」


「あと、あれもサイズある?」

そう行ってあきらが指差したのは、ナイキ エアヴェイパー マックス プレミアフライニット。


「同じサイズあるよ。」


「じゃあそれも。」


「ありがとうございまーす。」


最近の私としては珍しく現金で買い物を済ませた。

クレジットカードを見られて変な空気になるのが嫌だったからだ。



「あきらくんて今何してるの?」

レジから帰ってきて商品を渡す時にマミちゃんから尋ねられる。


「大学生。」


「最近の大学生て金持ちやなぁ。」


「まぁバイト戦士やからなぁ。掛け持ちしたら下手な社員よりもだいぶもらってる。」


「保険とかも引かれないしね。」


「まぁ控除とか扶養とかは色々考えんといかんけどな。」


「そうやね。今は帰省なん?」


「そうそう。もう明後日くらいには帰るけど。」


「じゃあご飯でも行かん?」


「ええよ。明日?」


「うん明日。昼がいい?夜がいい?」


「昼やな。」


「わかった!どこで待ち合わせる?」


「車で家まで迎えにいくよ。」


「やった!!ありがとう!!!」


まぁ明日の予定も埋まったし良いか。

と考えながら、靴を二箱とブルガリのショッパーを抱えてホテルに戻る。

ホテルのドアマンに車を出してくるので荷物を預かってほしいと伝えると快く預かってくれた。

歩き疲れたので、ホテルのラウンジでお茶だけ飲んで一息つく。

せっかくなので、家族へのお土産にホテルの焼き菓子詰め合わせ15個入りを10箱買った。それも預かってもらい、自分は身1つクラッチ1つで車を取りに行く。


ホテルのエントランスでドアマンさんに荷物を持ってきてもらい、車に詰め込むと車は走り出した。



家に着くと荷物が多すぎて、家まで運ぶのがめんどくさくなったので、親戚の小さい子たちをお菓子で釣って呼んで、焼き菓子などを家まで運んでもらった。


「ありがとな!ほら、ご褒美をあげよう。」


「「「わーい!」」」


あきらはその場で箱を1つ剥いて、手伝ってくれた子供達にお菓子をあげた。


「あんたなんねこれ。」


「おみやげ。あのホテルのやつよ。」


「あー、あんたあそこまで行ったんかね。」


ちなみにあのホテルの焼き菓子詰め合わせは母の大好物である。

大好物を9箱も目の前に積まれて興奮しているため広島弁が出ている。


「まぁ食後にみんなで食べようや。」


「そーじゃね!!!」


母が嬉しそうでよかった。

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