第86話 霧島 引っ越しをする。


「そういえばそろそろ引越しだね。


荷物もまとめなきゃ。」




「そうだね。いるものといらないものに分けよう。」




「いらないものはどうする?」




「清水くんに言ってみよう。」




「そうだね、あいつならなんかいいアイデアありそう。」




ひとみの家には高価なものが多くあるため、根が貧乏性のあきらと、物の価値がわかっているひとみにとっては捨てにくい。

困った時の清水というわけだ。






「っていうことなんですよ。」


「いやわからんけん。」


独特の九州訛りで、電話の向こうで返事をする清水。

「高価なものって例えば何があると?」


「うーん。ビクトリア王朝時代の家具とか、アンティークのティーセットとか。」


「高価すぎてヤバイ。」


「そーなんすよ〜」


「じゃあうち主催でオークションやろうか。」


「いいの?」


「うちは定期的に断捨離も兼ねてオークションやってるよ。半期に一度くらい。」


「次の開催はいつ?」


「明々後日。」


「間に合う?」


「ヨユーっしょ!!」


荷物出すのは俺たちなんだよ、何でお前が余裕そうなんだよと言いたいがぐっとこらえる。



「あとでトラック向かわせるから、荷物ガンガン積み込んじゃって!」


持つべきものは頭が回って気っ風が良く、金持ちの友達である。



電話を切って1時間ほどでトラックがやってきた。

トラックというより、ウイングトレーラーだった。

荷台を開けてもらい、スタッフの方に荷物を渡すだけで良いとのこと。

トレーラーに比して荷物が少ないので梱包は向こうでやってくれるらしい。


いざ積んでみると、あまりにも荷が少なすぎて寂しい。荷台がスカスカなので、ひとみが自らの実家にも電話をしてみたところ、

あやめさんが大喜びで「うちのいらないものも持っていって!!!」

と言われたので、スタッフさんに伝える。


スタッフさんも快諾してくれ、ひとみの実家にも集荷に向かった。



「あとはもう引っ越すだけだね!!」



「そうだな。もう家具も家電も入ってるらしいから、服とか食器とか待って行くだけで良いね。」



「楽しみだなぁー!!」








荷物を受け取った清水side


「な、、、なん、、これ、、、。」



「霧島様とひとみ様からのご出品と、芦屋の大殿様からのご出品です…。」



「ひとみちゃんのご実家か…。」




私たちでは活用できないからということで出品されたものが異常だった。


ルーブルやメトロポリタンといった世界の名だたる美術館に収蔵されていてもおかしくないような絵画が数百点。


中世ヨーロッパの王侯貴族が使うような家具や食器が数百点。


もうこれ以上はいらないわということで出品された宝石類が数千点。




「途中でウイングトレーラーが満杯になりましたので、近くの車両基地からもう一台持ってきましたところ、それに気づかれた大奥様がまだ積めるじゃないの!

とおっしゃられ、神戸港の近くにございます結城家の個人的な倉庫にも集荷に伺いました…。


その倉庫も、あくまでも「個人的な倉庫」とおっしゃられましたが、神戸の倉庫街の中で1番大きな倉庫でした…。




結局集荷のトレーラーは三台に…。


しかも収益金は全部霧島様にと…。」




「えぇ……。


こんな大量の高級品をどうせろと…。


しかも戦争で焼失した絵とか工芸品とかもあるやん…。」




「清水さんならちゃんと扱ってくれるはずっていうのは大殿様もおっしゃってましたがどうしましょう…。」


「俺の肩に乗せていい重さの期待じゃないんよ、それは…。」



「とはおっしゃいましても…。」



「しゃあなし。できる限りの信用できる世界中のバイヤーに連絡して結城・霧島コレクションのオークションってことでやろか。」




「清水コレクションは?」




「結城コレクションの前にはゴミ同然やろ。やるだけ恥かくわ。」




結局結城コレクションには世界中のバイヤーが集まり東京ビッグサイトで3週間貸切で行われた。


3週間の貸切とは、ビッグサイト最大のイベントである東京モーターショウを超える規模である。


しかし混乱とマスコミの介入を防ぐため、一般には伏せられていた。







~~~~~~~~~~~~~~~


霧島家の秘宝(20xx年4月1日~5月31日 東京国立近代美術館で開催)

紹介パンフレットより抜粋


~~

近年話題になっている霧島コレクション。

その第一回オークションによって得た霧島氏の収益金の合計は現金が3000億円とも4000億円とも言われている。

出品された美術品は古代ローマ時代の宝飾品や中国清朝時代の陶磁器など、

絵画についても、戦争で焼失したといわれていた絵画が多数出品された。

ジャンルを問わず、各分野の超一流品が山のように出品されたといわれている。


しかしマスコミの入場は一切許可されておらず、参加した人も不明。

明らかになった参加者も、その内容は誰一人として口を割らないので、定かではない。

そのオークションの後に開かれた各美術館の展示物から推測するしかない。


なお、霧島氏はそのオークションの副産物として、世界三大美術館の経営に携わることができる名誉会員権、世界中のバイヤーとの繋がりを得た。


このオークションにおいては、協賛でありもともとの主催者の清水家は一切の手柄を主張しなかった。

このことから業界でさらに一目置かれるようになり、世界的名家の結城家・霧島家との繋がりを強化し、昨今のゆるぎない地盤の獲得に至っている。



後日オークションの結果を聞かされた霧島家当主霧島あきら氏は目玉が飛び出しそうな顔をしていたが、世界の有名美術館の名誉会員権が1番嬉しそうだったとは清水氏(現 (株)清水 代表取締役CEO)の談。

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