第87話 

2月26日。




3月1日の入居に向けて、昼頃にあらかじめ手配していた引越し業者さんが荷物を受け取りにやってきた。



「それじゃお願いします。」


「はい。かしこまりました!」




最近は引っ越し代金を荷出しの前に払うことが多い。


時期が時期ということもあり、忙しい時期ではあるが、割高な引っ越し料金になるかと思ったが、数社相見積もりした結果、業界大手の他社より10万円以上安いところが見つかった。


安いが丁寧な仕事を期待したい。




「これ、少ないですが皆さんで。」


一人ずつにチップとアクエリアスも渡しておく。


「すいません、ありがとうございます。」






引っ越しに関しては素人が手を出してもろく、なことにならないのは分かりきったことなので、見守る。




ひとみは色々とこだわりがあるのか、わかりやすく細かく指示を出している。






やはりプロというものはすごいものでほんの数時間で荷出しが終わった。

そもそも私の家にはほとんど家具はなく、ひとみの家の家具もたかが知れているのだが。

荷受けは入居日の昼だ。




「がらんとなった部屋を見るとなんかさみしくなるね。」




新居の家電は、新しく購入した家電がほとんどなので、要らなくなった家電はあらかじめリサイクルショップに流しておいた。

いらない家具類もオークションに出した。

後から聞いた話なのだが、この時出した家具類はほとんど若手の作業員の人とかにもらわれていったらしい。

後から出した家具・絵画・工芸品がすごすぎた。



車は普段使いのレクサスLX570に絞り、ひとみのアウディR8と私のBMW i8はすでに地下駐車場に保管している。

先に地下駐の仕様を解禁してくれたのはありがたい。

R8とi8を止めに行ったとき、ちらほらとすでに車を止めている人がいたが、ポルシェやロールスロイス、フェラーリランボルギーニがちらほらと止まっており、高級マンションであることを感じた。


ちなみに駐車スペースはもともと二台付いていたが、さらに加えて二台分購入しているのでまだ一台だけなら増えても大丈夫だ。





余談なのだが、家具家電を先に処分してしまうと、生活が出来なくなるということに、家具家電類が無くなってから気づいた。

なので、大阪に帰ってきてから数日後にはまたひとみの実家に居候した。


再び帰ってきた2人を見て幸長さんもあやめさんも苦笑いしていたが、フイユモルトは大喜びだった。




フイユモルトに乗ることに慣れてから気がついたが、彼女はとても賢い。

おそらくおおよその日本語を理解している。


ある日、フイユモルトにひとみも後ろに乗せてもいいか?と聞くと

仕方ないわねぇ。というような表情をして、しゃがんでくれた。




「すごい。フイユモルトが指示を聞いてる…!」



「フイユモルトは素直で賢いし、いい子だよ。」




やはりあきらが褒めているのがわかるのだろう、フイユモルトは嬉しそうに軽快に走り始めた。




「指示に従う馬は多いけど、日本語を理解して感情を示す馬って…。」




「いい子だろ?」




「ヒヒーン」


フイユモルトも会話に参加していた。





家具出しも終わって、ひとみの実家に居候して、2月28日の夜も泊まって、いよいよ入居する日、3月1日の朝に私はフイユモルトのところにいた。




「フイユモルト、明日からまたしばらく別々だけど元気でな。」


「ヒヒーン (少し寂しくなるけど気にしていないわ。)」


「ウチにはフイユモルトが走り回れるだけの馬場がなくてな。」


「ヒヒーン (私はここの環境が気に入っているから大丈夫よ。)」


「そうか、よかったよ。」


「ヒヒーン (ちゃんとまた会いに来るのよ?)」


「もちろんだよ。フイユモルトも俺のこと忘れるなよ?」


「ヒヒーン (当たり前でしょ。次もあんたの彼女乗せてあげるからちゃんと連れてくるのよ?)」


「ありがとう、フイユモルト。」


「ヒヒーン (どういたしまして。)」




1人と1頭の不思議な会話を物陰から見ていた厩務員さんとひとみはまさかの光景に絶句していた。



「か、会話が、成立している、、、?」


「あきらくんって…何者…?」



そんなこともあってから挨拶をしてひとみの実家を辞す。

以前いただいた高級食材をまだ消化しきれていないにもかかわらず、またたくさんの高級食材をいただいて新居のマンションに向かう2人。




「あきらくん、フイユモルトと会話できるの?」



「大体フイユモルトが伝えたいことは理解できるぞ。」



「それってすごくない?」



「他の馬だとわからないからなぁ。

フイユモルトが特別賢いからだよ。」



「フイユモルトが賢いからっていうだけではないと思うんだけど…。」



「まぁ気にするな。」



「う、うん。」






新居のマンションについた。

新居の鍵はすでにもらっている。


他の入居者の都合や、引っ越し業者との兼ね合いなども含め、タワーマンションの引っ越しはマンション側の指示によって荷物の搬入など引っ越しの予定を組むことが多い。




私のマンションもその例外ではなく、入居日や引っ越しの日時や時間帯まで決められている。


入居日こそ3月1日と決まったが、割り当てられる引っ越しの時間帯が前後する可能性もあったため鍵だけは早めにもらっておいた。



引っ越し業者より一足先にマンションについた2人は荷物を開け、以前大型家具や家電を入れた際に養生してもらっておいたままの部屋に入る。






「おぉー!!!すごいいい部屋!!!!そして広い!!!!」

私は完成してから内装業者さんとの打ち合わせ等々で何度か足を運んでおり、細かい荷物を折を見て少しずつ搬入していたのでここまでではないが、やはり何度見てもうっとりする部屋に仕上がった。




6LDKにウォークインクローゼットが2つに、シューズインクローゼットが1つ。

サンルームも完備している。

結局、内装や作り替えなどオーダーメイド対応もしてもらった結果、追加料金がもう一軒分ほどかかってしまったが、この出来ならば問題無い。

むしろ安いとさえ感じる。




「まだ養生してもらったままなんだけどね。」




「それだけでもわかる品の良いインテリアと空間!」




「喜んでいただけて何よりです。」




「さすがセンスの塊!」




「いやぁそれほどでも。」




すでに電気が通っている冷蔵庫に、今日新たにもらった食材を詰めていく。


前使っていた冷蔵庫の中身も折を見て少しずつ新しい冷蔵庫に移していたし、今冷蔵庫に詰めている食材の量も相当なものだ。




しかし全くいっぱいにならない。

700L越えの外国の冷蔵庫の収容力は伊達じゃない。


あらかた荷物も詰め終わり、2人で軽くランチをしていると引っ越し業者さんが到着した。




食器類は食卓に。


本や雑誌類は書斎に。


服はウォークインクローゼットに。

ちなみにウォークインクローゼットも二つあり、使い分けられるようになっている。

とりあえずひとみのぶんと私の分で分けた。

広さは前私が済んでいた部屋くらいある。




荷物のバラシは自分でやるので、段ボール箱だけ回収してもらった。




「ありがとうございました。」




「いえ、こちらこそご利用いただきありがとうございました。」




引っ越し業者さんは最後まで気持ちの良い接客と作業をしてくれたので、できる限り今回の引っ越し業者さんをまた次も使ってあげようと思った。




引っ越し業者さんを見送ると、部屋に戻り、荷分けを開始した。




ひとみはひとみで、自分のものは自分で分けて自らの部屋に収納していく。

私も私で、服や雑誌、アクセサリーなどを自分の部屋に収納する。

寝室、ゲストルームはインテリアコーディネーターの作ったままの部屋で。


キッチンは私もひとみも使うので2人で片付ける。

備え付けの食器棚が食器で埋まっていく様子は見ていて気持ちが良い。




2人とも住む市が変わるので、ガス開栓を依頼して、開栓スタッフさんが来るまでの時間で散歩がてら大阪市役所に転入届を出し、頃よくなったので部屋に帰って立ち会いのもとガスを開栓してもらい、2人の共同生活がスタートした。




「よし、これから2人の生活がスタートだな!」




「なんか、照れるね。」




「うん。なんか変な感じ。」




「じゃあさ、あきらくん。とりあえずご飯食べよっか。」




「食べよう!」




2人は、新しいキッチンの使い勝手に感動しながら冷蔵庫の中の高級食材を使ってささやかなパーティーをした。




寝室からは大阪の綺麗な夜景が一望できて、まさに100万ドルの夜景が眼下に広がる。


最高の部屋と最高の景色に包まれた2人の夜は更けていく。

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