間話 20万PV記念 霧島 演奏会に行く

私には可愛がっていてやまない姪っ子?がいる。

いとこの子なので、姪っ子でいいのだろうか?

とにかく親戚の子だ。

一人っ子の私にとっては妹も同然。

可愛がっていてやまない。



名前はののかという。

私はののちゃんののちゃんと呼んでいて、

ののちゃんも私のことを、あっくんあっくんと呼んでいる。

反抗期なんてぇのはどこの国の話だか。

俺とののちゃんの間にそんなものは存在しない。



ののちゃんはピアノが上手い。

もうめちゃくちゃに上手い。

俺がパトロンになるので有名な先生でもつけて、芸術家として大成させてやろうかと思うくらいに上手い。


外部出力で世界一の芸術家にさせてあげよう(ゲス顔)


まぁそんなことをするとののちゃんに嫌われるのでしないが。



そんななのちゃんから演奏会にご招待された。

なんでも、なんかのコンテストで日本一になったサックスプレーヤーの伴奏をするとか。



うちのののちゃんもピティナとかいう団体の日本一になった。

オジサンめちゃくちゃうれしくて、飛び跳ねて喜んだヨ。

ピティナがよくわかんなかったから調べてみたんだけど、めちゃくちゃすごいことらしいね。


最年少だってさ。



そんなののちゃんが伴奏。

若い才能の共演とか銘打ってやるらしい。



「ふむ。」


そのサックス日本一とやらの実力を見せてもらおうか。

うちのののちゃんを伴奏させるに値する男なのかをな!!!



会場は東京にあるでっかいホール。

KIRISHIMAホールという。


そうです。

うちが建てたホールです。

世界のオーケストラを呼べるレベルのホールを建てました。

社会貢献の一環です。

一から建てたわけじゃなくて、東京都がぶち上げたそういう計画に出資したっていう形なんですけどね。

莫大な出資をしたらネーミングライツも付いてきたぜ。


地元には一から計画したホールが進行中です。

世界最高レベルの音響を備えた、小規模ながらもいいホールだよ。



「と、いうことでやってきましたKIRISHIMAホール」


「ひゃーでっかいねぇ。」

ひとみはその大きさに圧倒されている。

目をまんまるくしててかわいい。


「今日はここの大ホールでやるからね。」


「すごそう。」


せっかくの演奏会なので私たちもちょっとおめかししている。


ひとみはがっつりドレスで!

というわけではないが、綺麗なワンピースを着ている。

阪急梅田で買っていた、サンローランのダークブルーのロングワンピースだと思う。

靴はルブタンのハイヒールかな。

トゲはついてない。


俺はマルジェラの黒のセットアップだ。

靴はパラブーツのローファー、ランスの黒。

ダークめな色合いで統一した。



会場に入ってみると、なかなか人の入りがすごい。

盛況である。


「すごいね、大ホール。ののちゃん緊張してないかな…」

ちなみにひとみはののちゃんと面識はない。



「大丈夫だよ、ピティナでも優勝したんだから。」


「確かに。いや、あきらくん、ピティナで優勝って本当にすごいことだからね!?」


「俺もひとみに言われるまで知らなかったけど、すごいよな。」



ホールの中はひそひそ声でひしめいていた。

この中にはたくさんの応援とドキドキがあって、ほんの少しだけの悔しさや嫉妬もあるのだろう。


少しだけカビ臭いような、コンクリートのような何とも言えない匂いがする。



「あ、始まるみたい。」

ビーっというアラームの音と、会場の人々に対する注意喚起がされる。

会場が暗転する。


プログラムによると、一曲目は「アディオスノニーノ」という曲らしい。


ワクワクしながら第一音を待っているとステージの明かりがつき、奏者が現れた。


こいつが俺のののちゃんを拐かした馬の骨か。

なかなかいい面構えをしてやがる。


どうやらサックス独奏らしい。



高らかに歌い上げる序奏。

この曲は失意の中になくなった父へと向けた曲らしい。

作曲者のピアソラの父ノニーノへの手向けなので、「アディオス、ノニーノ」という曲名になっている。


彼の演奏はところどころ泣きが入るというか、演奏者の心情がダイレクトに伝わってくる。

音楽のことはよくわからない俺からしても情景や風景が目に浮かぶようだ。


俺が演奏に圧倒されているとあっという間に一曲目が終わった。



「凄かったね…。」


「うん、すごかった。」


どちらからいうでもなく、何となくその言葉が2人の口から出た。


その後も演奏会は順調に聴衆の心を鷲掴みし、最高の形で終えることができた。



うちのののちゃん?

そんなんいつだって最高でしょ。


サックスの彼とののちゃんの演奏だった、

リベルタンゴは凄かった。

会場総立ちの名演だったと自信を持って言える。

いや身内贔屓とかじゃなくて。まじで。


演奏会が終わったので、ののちゃんにお疲れ様を言うために楽屋に向かう。

勝手知ったる自分の家とばかりに、裏に行く。


「ののちゃーん」


「あ!あっくんだ!!!」


今日も相変わらずののちゃんがかわいい。


「ののちゃん、こんにちは!」


「こちら私の彼女のひとみさん。」


「あ、どうも初めまして!

噂のひとみさんとお会いできて嬉しいです!」


「…っ!」

ひとみはののちゃんのかわいい妹ムーブをモロにくらってスタン状態になった!!

ちめいてきだ!


「あきらくん、ののちゃん可愛すぎるんだけど持って帰ってもいい?」


「ののちゃんは霧島家で保護します。お帰りを。」


「くっ!最近は霧島家も大きな力をつけてきたので要求を通しづらい…!」


ひとみとののちゃんは一瞬で打ち解けて仲良くなっていた。



「おっ、君は。」

俺はさっきのサックスの彼を見つけた。

どうもなんか浮かない顔をしている。



「あっ、どうも。」

返事もパッとしない。

さっきの演奏満足できなかったのだろうか。


「さっきは演奏良かったよ。お疲れ様。」


「とんでもないです。僕なんかまだまだです。」


「ということはなんだね?君はまだまだの状態でうちのののちゃんと共演したのかな?」



「いや、そんなことは…。」


「私もショービジネスの末端も末端、こっぱでしかないし、うちに演奏に来てもらうくらいの貢献しかできてないが、一部を担うものとして助言させてもらってもいいかい?」


「はい…。」



「きっと君は、人を楽しませることができる仕事に就くと思う。

サックスじゃなくたっていいし、音楽じゃなくてもいい。見たところ体格もいいし、スポーツかもしれない。」


「はい。」


「でもいずれ君が立つことになるその舞台は、どこかの誰かが立ちたかった舞台かもしれない。」


「確かに…。」


「そこに立つときに君はなんて言うんだろうね。

今日みたいに『僕なんてまだまだです。』なのかね?

それとも『まだまだ成長途中ですが、今日自分ができる最高の演奏ができました!』なのかね?」


「っ!」


「私は君に大きな期待をしているよ。

年もさほど変わらない私に言われて納得できないところもあるだろうけど。」



「そんなこと、ないです!

期待してくれてありがとうございます!!!」


何となく彼のことがほっとけなくて、私は長々と説教を垂れてしまった。

だってまだ高校生の若者がしんみりしてるなんて勿体無いじゃない。


きっと彼は大物になるだろうし、付き合いも長く続きそうな気がするな。

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