第63話 霧島 冬休みの旅行に行く
「突然ですが、旅行に行きます。」
「本当に突然だね。」
いきなりひとみにこう切り出したが、相変わらずの無計画さをひとみに非難された。
「で?どこいくの?」
「スキー!!!」
「あきらくんスキーできるの?」
「したことないけどなんとかなるっしょ。」
「本当に無計画だね。」
呆れたように笑うひとみの顔は相変わらず美しかった。
「どこにスキー行くの?」
「カナダ!!!」
「遠っ……」
「ここに2人分のファーストクラスの航空チケットがあるじゃろ?」
「ほう。」
「そしてここにアメックスのブラックカード専用コンシェルジュに頼んで予約をしてもらったホテルの予約確認書があるじゃろ?」
「ほう。」
「それでは出発しようか。」
「今から!?」
「そうよ、今からよ。開けといてって言ったでしょ」
「今日から一週間あけとけって、こういうことなのね…」
「それでは準備しまーす。」
手際よく用意していたリモワの80L超えのサイズのスーツケース二つを取り出し、一つをひとみに渡した。
「アウターはこの前買ったモンクレールで行こうかな。サングラスはトムフォードで…。」
「なんだかんだノリノリじゃないっすかひとみさん。」
「わかりますぅ?」
荷造りを終えた2人はレクサスLXに2人分のスーツケースを乗せ、関西国際空港へと向かった。
「そいえばどこに行くの?」
「カナダだけど?」
「いや、それは知ってる。カナダのどこ?」
「あぁ、ウィスラーだよ!」
あたかも世界中のだれもが知っているかのように行き先を告げる。
「…どこ?」
「バンクーバーの近くのスキーリゾート!」
「そうなんだね!いいとこ?」
「すっごくいいとこで、ホテルもすっごくいいホテル。」
「楽しみですね!!!」
「バンクーバー空港ついたら、ホテルの人が迎えにきてくれるからね。」
「それはいいですね。」
空港に着いた2人は駐車場に車を止めスーツケース二つをゴロゴロと引っ張りながらターミナルへと向かう。
80Lも荷物はないので、中はスカスカで結構軽い。
これが帰りにはパンパンになる。
ターミナルに着くと、プレミアムメンバー限定のチェックインカウンターに向かい荷物を預け、プレミアムクラス専用のラウンジを利用してゆっくりとしてから、飛行機に搭乗する。
ファーストクラスならカナダまで約9時間のフライトもとても快適だ。
〜〜〜〜
CAさんの機内アナウンスも終わり、しばらくすると食事が出てきた。
「ファーストクラスのコース料理って思ったより美味しいよね」
「いや、俺からすれば、思ったよりも何も、普通にうまい。」
「よく飛行機の料理って美味しくないとかいうじゃん?」
「まぁそんな話はよく聞くね。」
「でもいうほどじゃ無いよ。」
「それはファーストクラスだからだと思う。」
「なるほどぉ〜」
〜〜〜〜〜
「機内の映画って割と新しいのやってるよね。」
機内のエンターテイメントを見ながらひとみがつぶやく。
「レンタル屋さんの新作クラスなら割とやってるね。」
「それってすごいことだと思うんだ。」
「なんで?」
「だってまだ新作じゃん!座席数分レンタルしたら大変なことだよ?」
「モニター一つ一つにDVDが入ってるわけじゃないから大丈夫だぞ。」
〜〜〜〜〜〜〜
そんなやりとりを続けているとあっという間にバンクーバー 国際空港についた。
関空で飛行機に乗った時と同じように優先的に飛行機を降り、入国審査を受け、荷物を受け取り到着ゲートをくぐる。
するとすぐに黒服を着た外国人が駆け寄ってきた。
「ザフェアモントシャトー ウィスラーの者です。
ご予約の霧島様でございますか?」
「そうです。」
「ありがとうございます。
それではお荷物をお預かりさせていただきます。」
黒服のホテルマンは2人の荷物を持ち、車へと案内する。
案内された車は冬仕様のメルセデスベンツのGクラスロング。
どうやら特別に迎えに来てくれているらしい。
普通のお客さんは自分で予約するか旅行会社が手配した車に乗る。
いつの間にやら荷物をラゲージスペースに乗せたホテルマンが2人に声をかける。
「お席にはウエルカムドリンクのワインを用意してございます。
霧島様はサロンがお好きだと聞いたもので、サロンをご用意いたしました。
ひとみ様におかれましてはお酒が得意ではないということでエルセンハムを。」
ちなみにエルセンハムとは高級なミネラルウォーターであり、そのボトルが香水瓶のようにきれいなことで有名だ。
どうやら車の内部もなかなかに手が加えられており、車用の冷蔵庫も据え付けられていた。
特別仕様バンザイ。
「え、どこでそれを!?」
サロン好きということを特に公言しているわけでもないのに、知られていることに驚く私。
「さぁ、どちらだったでしょうか?」
「というかあきらくん、サロン飲むあきらくんって見たことない気がするんだけど。どこで飲んできたのかなー?」
サロン好きがバレるということは、イコール「霧島くんラスベガスで大暴れ」の黒歴史がバレているということでもある。
つまり、カジノ旅行の際に湯水のごとく金を使いラスベガス中の高級酒を飲み干した時の話が漏れているということだ。
「いやぁ、個人情報がどこから漏れたのかなぁ…。」
そこには恥ずかしげに頭をかく私と、呆れた顔で霧島を睨むひとみがいた。
2人でウェルカムドリンクを飲んでいると車はホテルに着いた。
2人が泊まる部屋はフェアモントの中でも最高クラスの部屋、フェアモントキングルームである。
車を運転してくれたスタッフとともに部屋まで向かい、部屋の中でチェックインをする。
どこまでも至れり尽くせりである。
「まず何しよっか、あきらくん。」
「とりあえずゆっくりしよう。
実はさっきくすねてきたんだ。」
私はバーキンの中に隠した、ひとみにまだ封の開いていないサロンとエルセンハムを見せた。
「悪い子!」
「だって二本あったからさ…」
「では罪滅ぼしに私にお酌しなさい。」
「ははぁ!どうかお許しを!」
「このイギリスの名水の味に免じて許そう!!!」
そんな茶番を繰り広げながら2人のカナダ1日目は更けていった。
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