第47話

二日目ともなると慣れたもので、颯爽とVIPルームに向かう。




ウェイターからサロンのシャンパンを受け取り軽く口をつける。




「最近シャンパンといえば、サロンしか飲んでない気がする。」

そんなぜいたくな悩みを内心でつぶやき、右手のシャンパングラスを傾ける。

実際に一人でいるときや部屋であまりお酒を飲むこともなく、あれば飲むといった程度なので本当にそうかもしれない。





よくよく考えてみれば、ウェルカムドリンクにモエ・エ・シャンドンをもらったり、ヴーヴイエローを飲んだりはしているはず。


しかし、普段からサロンを飲み慣れた私にとってはもはや印象に残らない。

もちろんおいしくていいお酒なのは間違いないのだが。


もはや印象に残るお酒を、となると、それこそドンペリのプラチナや、クリュグなどを持ってくる他ないということになってしまう。



一人でぶつぶつしゃべってても不気味なだけなので、

昨日と同じようにハイローラー用のルーレット卓に腰かける。


両隣をゲストに挟まれるのはなんとなく嫌だったので、端っこの席に。




霧島は昨日預けておいたチップのうち20枚だけ出してもらった。

残りは70枚の預け。



その20枚を座っている座席に応じた色のチップに交換すると一息ついた。




すると隣に、上品なダークブルーのスリーピーススーツに身を包み、ややグレーがかった金髪で、ヨーロッパ人にしてはやや小さい身長の男性が座る。




やや神経質そうな笑みで、彼は私にあいさつをした。




この真夏にスリーピースのスーツを着ていることから興味を惹かれ、彼の動向に気を配ることにした。


好き勝手生きているように見える私とて他の人間が気にならないことはない。


まずいくら交換するのかと見ていたら、彼はおもむろにカジノのボーイを呼んだ。




何を伝えているのかは分からなかったが、指示を受けたボーイは銀のトレーに乗せられた大量のチップを持ってきた。


ざっと見て200枚はあった。


しかも、私が預けている5万ユーロチップよりも高額な10万ユーロチップだった。




思ったよりも高額が動きそうなことに動揺したが、逆にこの太客が壁になってくれて、少しの大勝負なら自分は目立たなそうだなと感じていた。





使いやすいように数枚の5万ユーロチップを細かくしてもらい、様子見をしつつちまちまと賭けていく。






すると、となりの上品なヨーロッパ人の方が勝つ。


勝つ。さらに勝つ。


あっという間に膨れ上がる10万ドルチップ。






「すごいですね…!」


思わず声をかけてしまった。






「たまたまですよ。ついている時はとことんついてるんです。」


彼は機嫌良さそうに話を返してくれる。


そして、彼は負けない。


数字を直接指定する掛け方はしないが、常に勝ち続ける。


みるみるうちに、数え切れないほどのチップが彼の前に積み上げられた。


すると彼は目の前に積み上げられたチップを見て満足そうに頷くと


「それじゃ。」


と言って帰っていった。




ボーイがまた銀のトレーにチップを乗せて帰っていく。


私も思わずぽかんとした顔でそれを見送ると、常連らしき男性が教えてくれた。




「彼はヨーロッパやアフリカで多数の鉱山を経営する鉱山王だよ。大きな仕事の前にはここにきて運を試すみたいだよ。


ちなみにここで大負けした日はその大きな仕事も流すらしい。」




「へぇ、そんな人がいるんですね。


確かに鉱山経営は運に左右されるところもありますからね。」






結局その日も少なく負けて、大きく勝つことを繰り返し、5万ユーロチップで預け入れたものは二日間で合計150枚の、計750万ユーロになった。日本円に直すと12億円越え。

ヤバすぎる。

と思ったがマカオの数千億円勝ちに比べればかわいいものだな。


こまごまとした端数は交換してみると2万ユーロほどになり、その中から数枚の紙幣を現金でディーラーにチップを渡す。




財布にその端数の分の現金を入れると、いよいよパンパンになってしまった。

まぁいいか。とカジノ内を探索する。

もはや今いくら持っているのかよくわかっていない。



初日は気付かなかったが、私なんて目じゃないような金額を現金で賭けている人もチラホラ見受けられる。


「もしかしてもっと勝っても良かったか?」




札束をアタッシュケースに入れてお付きの人に持たせている中東系の大富豪なんていうのも見た。




すごいなぁと思いつつ併設のバーでお任せで頼んだワインと軽食を腹に詰め込み、カジノモンテカルロ を後にした。




玄関を出ると、アストンマーチン ヴァンテージやロールスロイス ファントム、ベントレー ミュルザンヌなどあまり見かけないような車が普通にに止まっている。

フェラーリ、ランボルギーニなどなど世界の名だたる高級車がパレードのように街中を走っていた。






「モーターショウ並みの車がたくさん並んでてもはや眼福だな…。」




そんなことを思いながらオテルドゥパリの部屋に帰り、良い出会いに感謝しながら眠りについた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る