第48話

オテルドゥパリの自室に差し込む朝日によって目を覚ました。




今日も今日とてルームサービスで朝食をとる。

気持ちの良い朝だったので、今日は趣向を変えてテラスで海を見ながらの食事とした。




私はこのモナコで過ごす時間が長くなれば長くなるほど、この国を離れたくないという思いが加速するのを感じていた。




そう考えついたなら善は急げである。

移りたくないならモナコにマンションを買うのはどうだろうか?と考えるに至った。




そうと決まれば頼れる秘書に連絡だ!


ということでエマに連絡する。




「エマ、モナコに家買いたい」

この言葉を聞いたエマから長めの息が吐き出される音が聞こえた。



「その理由をお教えください。」




ここで私は思いの丈をぶつけた。








「かしこまりました。




でしたらモナコにマンションを建ててコンドミニアムにしましょう。




そのマンションの最上階のお部屋をボスの家にすればよろしいかと。」




「わかった。




じゃあ私の個人口座から出しておいてください。」




「いえ、会社の事業として行います。




部屋の購入分だけ個人口座から頂いておきます。」




「え、いいの?」




「先ほどのお話を聞くと、大きな収益が見込めそうでしたので。」




私は有能な秘書に感謝した。


「ではそれでお願いしますね。」






余談ではあるが、このモナコでのコンドミニアム事業は大当たりした。


コンドミニアムの高層フロアでは会員権システムを導入し、低層フロアではウィークリーマンションのようなホテル事業を展開することで安定的かつ大きな収益を獲得できた。


元々あったマンションを買収し、増改築をしたため、建設費用を抑えることができ、会員権の販売だけで10億ユーロを稼ぎ出し、年間の利益として8000万ユーロを生み出したた。


モナコに住みたくても、モナコ国民になるとカジノができないため、住みたいが住まない中〜大富豪のニーズにピタリと当てはまったのだ。






秘書にお願いをしたことで、いつかモナコに住むことができるようになる日のことを想像しながらホテルのスパに向かった。




プールで泳いで体をほぐしたあと、マシンでの筋トレに励む。




どうやら若い男性が一人でこのホテルを利用し、スパで汗を流すのは珍しいらしく、またもやお金持ちの有閑マダム達に熱視線を送られたというのはまた別のお話。




ひとしきり汗を流したところでいつものアフタヌーンティータイムになったので、部屋に帰ってアフタヌーンティーを楽しむ。




本日の食器はジアンというメーカーらしい。


わからなさそうな顔をしていた私に、親切なホテルマンは説明をしてくれた。




ジアンはフランスの陶器ブランドで、その色彩の美しさで有名らしい。


なかでも、ジアンの代名詞とも呼ばれるのが、藍色でその色はジアンブルーと呼ばれているらしい。


特に今日使われている食器はグリマルディ家ゆかりの品らしく、モナコ公国を統治するグリマルディ家の紋章が絵付けされているとのこと。




ゆかりある品なんですね!と霧島がしきりに感心していると、ホテルマンは気を良くして、モナコ大公の歴史についても話してくれた。




現在のモナコを治めているのはアルベール2世。グリマルディ家支流アルベール家の生まれで、アルベール2世大公殿下の母君がかの有名なグレースケリーである


そして、そのアルベール家によるモナコ公国治世は7世紀にも及んでいるらしい。




詳しいですねと言うと、説明してくれた彼がオテルドゥパリの支配人らしい。




大変失礼しました。という気持ちでいっぱいだった。




支配人の話は面白く、いろんな話をしてくれた。


曰く、海洋博物館は世界最古の水族館であるとか、モナコは年間300日晴れているとか、F1モナコグランプリの時の混雑具合はモナコ人も辟易するだとか。




彼のおかげで楽しいアフタヌーンティーの時間を過ごせた。


モナコグランプリの話を聞いたあたりからうずうずしてきて、自分もちょっと走ってみようと思って、車を出した。




ドアマンにモナコグランプリのルートを教えてもらい、488ピスタで走ってみる。


走ってみたらわかるのだがこれは難コースである。

普通の速度でさえ走るのが難しいのに、ここをF1マシンで走るなんてとんでもないなというのが率直な感想だ。




何周か走ってみてホテルに帰り、ドアマンに車をお願いする。




この難コースに神経をすり減らしたので「楽しかったが疲れた」という気持ちを感じていたため、ホテルのスパでマッサージを受けることにした。


最終の受付間近だったらしいが、ギリギリで間に合ったため良し。




全身の疲れを癒してもらい、気持ち良ぎて施術用のベッドと一体化するかと思ったところで時間が来てマッサージが終了した。




なんとなく今日はカジノに行く気分になれなかったので、部屋でディナーをとることにした。


あいかわらずの素晴らしいディナーでもちろん大満足だ。




「そろそろ帰る日程を決めなければならないな」

と、ふと思い、またエマに連絡した。




「エマ、そろそろ帰ろうかと思うんだけど、飛行機ある?」



「確認しますので少々お待ちを。」

しばし待つこと数十秒。


「確認しましたが、いい便が無いです。


なので会社のカードを使って戻ってきてください。」



打てば響くようなエマの気持ちがいい反応に内心でにっこりする。



「了解。じゃあ日本に途中寄るから来週くらいに帰るね。


詳しい日にちはまたメールで。」




「かしこまりました。




もしコートダジュールまで車で行かれるのでしたら、車は空港に乗り捨てていただいて構いません。スペアキーもありますので後ほどスタッフが回収いたします。」




「はーい。」


とりあえず明日の便で日本に帰り、マカオで過ごすのに必要なものを日本に取りに帰ることにした。




航空券はホテルのコンシェルジュに連絡して15時過ぎにコートダジュール国際空港発、ロンドン・ヒースロー空港経由日本行きのファーストクラスチケットを取ってもらった。


ヒースローから羽田、羽田から伊丹の航空会社はもちろんANAだ。


ヒースローまではブリティッシュエアウェイズにした。






「明日バタバタするの嫌だな。もう荷造りしとくか。」





そうして増えすぎた荷物と、諸々のお土産をリモワとバーキンに詰め終え、荷造りを完了した。

オータクロアは手荷物で持ち込めなさそうだったのでスーツケースに入れた。

何とか入ったのでよし。




ここで大事なことを思い出した。

関税である。

私は今手持ちに多額の現金があるので、関税での申告がめんどくさいと思い、

支配人に「どうにかならないかね?」

と聞いてみた。


「ホテルが契約している銀行があるので、そこの担当者を紹介しましょう。

きっと力になってくれるはずです。」


おもむろにどこかに電話をかける支配人。


「担当者が今からくるようですがお会いになりますか?」



「ぜひ。」


ホテルにやってきたのは少数のお客さんだけを相手にする地場のプライベートバンクの担当者。もう夜だったが、少数の富裕層相手の商売をしていることもあって、営業時間なんてものはあってないようなものなんだとか。


小さい銀行とはいえ、運用額は目玉の飛び出るような金額。


「さすがに詐欺ではないよな…?」

と思わないわけもなく、担当者の話を聞きながらエマにも確認依頼を出す。


そこで担当者と話して、モンテカルロに預けていたチップと、手持ちの現金の余剰分をすべて銀行に預けて運用してもらうということで話がついた。

その額750万ユーロ以上。

12億円以上か。すっげぇ。


モンテカルロでチップを交換しているときにエマから在籍確認や信用度の確認結果が返ってきた。

結果はもちろんシロ。

預けて問題ないですとのこと。


チップの交換が済み、現金を預けた。

御担当者のお力添えで、カードはすぐに発行してくれた。

もちろんクレジット・デビット機能付きのチタンのキャッシュカードである。

初メタルカード。ずっしりしていて重い。



え?マジックゴールドもメタルカードだろって?

マジックゴールドカードはなんか違うじゃん。

斜め上すぎるよ。




「夜遅いのにありがとうございます。」


「むしろこちらこそご利用いただきありがとうございます。

会社の方も紹介していただけるなんてありがたい限りです。」


私一人で大金をどうこうするのは不安もあったので、会社も巻き込んでやった。

その甲斐あって信用度抜群ということでクレジットカード即時発行となりました。




最後は担当者とがっちり握手をして別れる。

支配人にも大きな感謝を。



「とりあえず明日の準備は完了だな。」




準備も終わり、部屋でゆっくりとしていると、コンシェルジュが部屋まで印刷したチケットを持ってきてくれた。



ありがとうと伝え、チップを支払う。

航空券の運賃は部屋付けにしといてくださいと頼むと、笑顔で了承された。




準備をした後に思うのもなんだが、日本に帰るのが少々面倒くさい。

こんなにもモナコの居心地が良すぎるとは誤算である。




まぁ日本でもちょっとゆっくりしようかなと、思いつつ風呂に入ってから眠る。




フロントには9時には朝食を持って来るがてら起こしてくださいと伝えておいた。

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