第110話
結局ドイツではロッコフォルテヴィラという、フランクフルト空港にほど近いホテルに泊まった。
清水も同じホテルで、同じフロアでしかも廊下を挟んで向かい側の部屋だ。
「毎度毎度のことながらいいホテルだね、あきらくん。」
「一応ホテルを経営する者として、世界の一流と呼ばれるホテルは経験しとかないとね。」
「うん、たしかに。」
「このホテルもすっごく綺麗だし、なんか盗めるところはないかなと思って。」
「すごく勉強熱心だね、手に持った人の頭ぐらいあるビールジョッキとテーブルの上のドイツソーセージがなければ。」
「そういうひとみさんこそソーセージ嬉しそうに頬張ってるじゃないですかー、やだー。」
「そういえば明日はもうすぐ帰っちゃうの?」
「せっかくだからちょっとお出かけしようかなと。」
「知らずに連れてこられた私の日本での予定は無視かい。」
「予定あるの?」
「ないけど。暇人だけど。なんなら会社の方もネット環境あれば世界中どこでも仕事できますけど。」
「でしょ?ちゃんとひとみの方の仕事調整してこの日程にしたんだから。」
「で、どこいくの?」
「西ベルリンまで。」
「!?!?!?!?!?
遠くない!?」
「ドイツの新幹線で5時間弱。」
「東京大阪間往復!?」
「大丈夫、車で行くから。」
「さらに地獄。」
「トランキリティで行くから新幹線よりは快適だよ。」
「まぁそうだろうけど…。」
「ちなみにドイツは高速道路早いので、新幹線より早く着きます。」
「新幹線より早いとは。」
「目標は4時間切り。」
「クソ飛ばすやん。」
「いやぁ、一度アウトバーンで飛ばしてみたかったんだよね。」
「うわぁ…。」
そんなやりとりがあって
2人が乗っているのはランボルギーニ チェンテナリオ。
「どうして私たちはチェンテナリオでアウトバーンを爆走してるのかなぁ?」
「それは清水がロールスロイスに乗ってドライブに出たからだよ?」
「そっかぁ。
じゃあどうして朝ホテルを出るときにはエントランスの前に真っ黒に黄色のアクセントがステキなチェンテナリオが止まってたのかなぁ?」
「それは昨日知り合ったランボルギーニ社の方がご厚意で貸してくださったからだよ?」
「そっかぁ。
じゃあ納車したわけじゃないんだね?」
「の、の、納車しました。」
「テメェ日本帰ったら覚えとけよ。
あきらくんのi8絶対処分するから。」
「しません!!!」
「キィー!!!」
実はこのチェンテナリオはあきらがひとみには内緒でオーダーしていた車なのだ。
外装はもちろん、内装まであきら好みにしてある。
そして、このチェンテナリオはドアが跳ね上げ式で開くのだが、運転席にあるスイッチをオンにした状態でドアを開けると、その際に地面に霧島家の家紋が投光されるという小ネタまで仕込んである。
やいのやいの言いつつも2人を乗せたチェンテナリオは西ベルリンのクーダムに向けて爆走していく。
目標は4時間を切ることだったが2時間半ほどでついた。
500キロちょっとを2時間半ほどなので、だいたい200km/hで巡航していたことになる。
「意外と近かった。」
「そうだね、あんまりスピード出してる感じでもなかった。」
「周りも相当スピード出してたからね。
でもさすがチェンテナリオ。高速域でも安定感が違う。」
「そうなんだぁ。
でも途中真っ赤なフェラーリに煽られた時は生きた心地しなかった。」
「それは仕方ない。男だから。」
ドイツのアウトバーンの推奨巡航速度は120〜130km/hとされているので、それくらいのスピードで周りに合わせて走っていたら、フェラーリ458イタリアのレース仕様車である、458チャレンジに煽られたのだ。
煽られた時は耐えたのだが、散々煽られた挙句真横に並ばれ、ぶっちぎられた。
そのとき心のリミッターが振り切れてしまった。
だってランボルギーニとフェラーリだもん。
左手につけたロレックスを一撫ですると、すぐに追いかけた。
アクセルはベタ踏みだ。
久々に床を踏み抜く勢いでアクセルを踏んだ。
こちとらチェンテナリオ。最高速リミッターなんかハナからつけてない。
猛牛チェンテナリオが吠える。
隣で息をのむ音が聞こえたが気にしない。
追う漆黒の猛牛、逃げる緋色の跳ね馬。
長い戦いだったが軍配は猛牛に上がった。
徐々に458チャレンジが減速したのだ。
そこからは付かず離れずの距離で並走していた。
あきらが給油のために近くのパーキングに入ると458チャレンジも入る。
そこで458チャレンジの運転手と会話することができた。
「やるじゃないか。」
「そちらこそ。」
458チャレンジから降りてきたのは、ドイツ人とはこちらの方を指しますと辞書に書かれてありそうなほどにドイツ人らしい男。
驚くほど高い身長にどこまであるのかわからないほどに長い足。青い目に金髪。王子様かと思った。
「ドイツ人は倹約家かと。」
「おいおい、偏見の塊じゃないか。」
「でも間違いではないでしょう。」
「違いない。」
2人は握手をしてそのまま別れた。
「いやぁ、まさかあんな漫画みたいなことになるとはね。」
「乗ってる私は生きた心地しなかったよ。」
「それは申し訳なかった。」
「帰りは気をつけてよね!」
「善処します。」
2人はチェンテナリオを近くのホテルの駐車場に預けて、西ベルリンはクーダムを散歩する。
クーダムとはドイツを代表する、高級品ブティックの集まる通りである。
「これ欲しい!」
「はいはい。」
「これも欲しい!!」
「はいはい。」
「これもこれも!!!」
「はいはいはい。」
ひとみにi8を処分されないためにも言うことはなんでも聞いた。
「余は満足じゃ。」
「ははぁ〜。」
サンローランやカルティエ、ジバンシィ、ヴァレンティノ、ブルネロクチネリ、ショパール、マルベリーなどなどほとんどの高級品店でバッグや宝飾品で合計2000万円程使った。
ちなみに全てあきらのカードで決済した。
「いっぱい使ったなぁ。」
「今なんて言った?」
「え、いや、」
「若いくせに価値わかんのかよって思った?」
「いや、そんな、」
事実似合っていた。
「ねぇ、あきらくんが納車したチェンテナリオいくらだった?」
冷や汗が流れた。
確実に怒っている。
たかだか2000万程度で使ったなどと言ってしまったばかりに。
「ねぇ、いくらだったの?」
「よ、4億円と少し…」
「私知ってるよ。
4億9500万でしょ?」
「ギクゥっ!!!!」
「人はそれを5億と言うのですよ?」
「はい。」
「で?私があなたに使わせたお金は?」
「2000万弱くらいです…。」
「おかしいなぁ!ねぇ?おかしいよなぁ!
私数えてたんだわ。
1500万くらいだよね?あなたのチェンテナリオの消費税にも満たないよ?」
「まことに申し訳ございません。」
「申し訳ないと思う?」
「思う。」
「心から?」
「心から。」
「じゃあお願いを1つ聞いて?」
「何なりと!」
「新しく買った飛行機の内装全部私にやらせてね?」
「な、な、な、な、なんでそれを!?!?!?!?」
「そりゃエマから報告きてるもん。」
「ぬかった…!!!」
あきらは仕事とプライベート兼用のジェット機を購入していたのだ。
ひとみもこの件を知った時は、あると便利だし、いいか!ということで黙認していた。
「と言うことで私がやります。」
「はい…。」
数ヶ月ほどして、忘れた頃にひとみデザインのジェット機がお披露目された。
内装は全てひとみ好みにされており、ブランドはエルメスとカッシーナの手によるものだった。
なにより驚くべきは、機体の登録名が
「ひとみちゃんジェットver.1」にされたことだった。
これによって国土交通省の登録にその名称が記載され、世界中にその名が公開されていることになる。
「恥ずかしすぎる…。」
あきらにはいい薬になったことだろう。
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