第109話 霧島 ガムボール忘れてたってよ

「ねぇ、あきらくん。


そろそろ車買いに行かないの?」




唐突なひとみの疑問。




「えっ?」




「いや、車。


ガムボール?だっけ。


出るんでしょ?」




「あっ、忘れてた。」




「せっかく協賛出したんだからちゃんとやりなよ…」


ひとみの苦笑いに胸をキュンとさせつつも車を買いに行くことにした。




「じゃあ来週くらいに行こうか。」




「おっけー!」




このときひとみはまだ知らなかった。


どこに車を買いに行くのかを。


そしてその車がいくらするのかを。








そしてやってきた、来週のある日。


「なんで私たち飛行機に乗ってるのかなぁ。」




「え?車買いに行くからでしょ?」




「じゃあなんで会社の国際線用のジェット機なのかなぁ?」




「日本じゃ売ってないからだよ!」




「日本に売ってない車…。」




「そう!日本で買える車じゃ目立たないからね!」




「目立ちたいんだ…。」




「ダニエルが普通の車じゃ悪い意味で目立つからって。」




「まぁ確かにそうかもね。


結局どこに行くの?」




「とりあえずドイツかなぁ。」




「とりあえず…。」





ひとみは飛行機の中でも少しばかり仕事を片付けていた。

私はキャビアを食べながらひとみの仕事にちゃちゃを入れていた。



そんなこんなでドイツ。


向かうはニュルブルクリンクというスポーツカー開発の聖地と呼ばれるサーキット。


すでに会社を通して連絡しており、数社の自動車メーカーがハイパーカーを持ってきてくれている。


今回車を持ってきてくれたメーカーは地元ドイツからメルセデスベンツ、アポロアウトモビーリ、遠路はるばるイタリアからフェラーリ、ランボルギーニ、ブガッティ、海を挟んでイギリスからアストンマーチン、スウェーデンよりケーニグセグが、そして我らが日本からはなんとトヨタ社が参加してくれており、まるでモーターショーの様相を呈している。






自分の中での選考基準は、品が良く、音がうるさすぎない、よく目立つ、人と被らない、そして一番大事なのが長時間乗っても快適であるということである。




この点からあまりにスポーツ色が強いレースカータイプは除外。




このような審査基準で、全車同じようにニュルブルクリンクを何周か試乗させてもらった。

どの車も甲乙つけがたかったのだが最終的に


トヨタ、ランボルギーニ、アポロ、アストンマーチン、メルセデスベンツが残った。




いろんなハイパーカーを試乗させてもらって気づくことができたが、ほとんどのハイパーカーは運転がとてもしやすい。


そして乗り心地も思ったほど劣悪ではない。


そのことが余計に自分を悩ませる。



逆に、今回のコンペでメーカー側の担当者とメカニックからすれば、

まだ年若いあきらが、馬力が高いハイパフォーマンスカーを自分の手足を扱うことに驚きを隠せないでいた。




「どうだった?」




「乗れば乗るほどどれも欲しくなる。」




「そりゃ仕方ない。」




「どれにしようか…。


ひとみは隣に乗ってみてどれが良かった?」




「私はランボルギーニかなぁ…。」




「ランボルギーニいいよなぁ。


でもアポロも良かったなぁ。」




「トヨタも乗り心地良かった!


トヨタならギリギリ私でも運転できそう!」






「よし、決めた!」




「おぉ!!」




「全部買う!!」




「まじか…。」




「モータースポーツ界の復興を期待して、全部買うことにした!」




「はいはい、わかりました」


今日もひとみの苦笑いがかわいい。




今日のお買い物は


トヨタ GRスーパースポーツ 1.5億円


ランボルギーニ UNICO 2.8億円


アポロ IE 3.1億円


アストンマーチン ヴァルキリー 3.2億円


メルセデスAMG プロジェクトワン 3億円




合計 5台 13.6億円




やはり日本車はお安い!






本日購入した5台は整備メンテナンス、特別ペイントを施した上で今年の出発地点であるミコノス島に送ってもらうことにした。


ペイントやカスタムの詳細はメールやスカイプでやり取りすることとなる。






「完成楽しみだね、あきらくん!」




「うん、めっちゃ楽しみ!


今年はミコノス島からベニス、モナコ、バルセロナイビサ島、空輸で車を運んで、大阪だからね!」




「めっちゃリゾートだ!」




「そうなだよ!水着とかも持っていかないとね!」




「泳ぐ暇あるかな?」




「ないかも?」




「なんだそれ」




ニュルブルクリンクからホテルに向かう車の中で笑いあった。




「せっかくだしどっか観光行こうか。」




「いいね!どこ行く?」




「ケルン大聖堂の夜景!」




「じゃ運転手さんケルン大聖堂までお願いします。」




「そろそろ運転代わってくれよ。」


運転手からは驚きの日本の言葉が返ってきた。




「えっ!?」


ひとみが驚きすぎて目を白黒させている




ここでネタバラシ。


「実は運転手さん清水でした。」




「えぇ!?!?!?!?」




「清水もガムボール出たいって言うからドイツに連れてきたの。


時間帯の都合で来る時の便は違ったけどね。」




「もー、言ってよ清水くん!!!」




「いや、ひとみちゃん気づかないからいつ気づくかなと思って…。」




「いやほんと面白かった。」




「二人していじめないでよね!」




「「ごめんごめん。」」




「清水くんは何か車買ったの?」




「俺はフェラーリのF8トリビュートとブガッティディーボ、ケーニグセグのジェスコだよ!」




「さっきのあきらくんが選ばなかった三台じゃん。」




「その三台は清水が欲しいから持ってきた三台だったんだよ。」




「えっ、あきらくんもともと5台買うつもりだったの!?」






「えっ、あの、いや…。なっ!清水?」




「ケルン大聖堂に向かいまーす。」




「清水ぅ!!!!」




「あきらくんは今晩きっちりお話ししましょうね。友達に運転手までさせて。」




「はい…。」




3人の笑い声がロールスロイスファントム トランキリティの中にこだまする。


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