第111話

クーダムで買い物をしたあと、3時間ちょっとくらいの時間をかけてフランクフルトに戻った。


今回はチェンテナリオも一緒に日本に戻る。


チェンテナリオは大きなサイズの車だが、なんとか頑張れば飛行機に乗る。


自動車専用パレットの積載可能サイズギリギリだったが、ミラーをたたむことでなんとか乗った時は安心した。




ダメな時は貨物機で、自分たちとは別便で送るつもりだった。






そして、チェンテナリオには荷物をほとんど乗せることができない。


前部トランクには申し訳程度の貨物スペースがあるのだが、それは本当に申し訳程度。


なので、このチェンテナリオの納車に当たって、前部トランクと同じ形ですっぽり入るサイズのスーツケースをリモワに特注した。


ポルシェケイマン方式である。






ポルシェケイマンにはメーカー純正オプションでリモワのスーツケースがある。


それを自分でやったと言うだけの話だ。






もともと持ってきていたリモワのスーツケースは赤色のサルサデラックス58Lサイズ。


このスーツケースに2人分の荷物を詰め込んできた。


しかしそんな大きさのスーツケースを積むスペースはチェンテナリオに存在しない。






しかし霧島はうろたえない。


ダイナースクラブプレミアムカードを持つ霧島はカード会社の霧島専属コンシェルジュに連絡をし、ホテルから自宅まで届けてもらうことにした。




「持っててよかった、ダイナース。」




「誰に言ってんの?」




必要な荷物だけ、新しいスーツケースに詰め込み空港に向かった。








行きは会社の飛行機で行ったが、帰りは民間の飛行機会社を使う。


もちろん席種はファーストクラスだ。




逆に霧島夫妻程になると、ファーストクラス以外の席に座ることができない。


ほぼ全ての航空会社を網羅する二大メンバーシップ両方の最上位会員であり、なおかつクレジットカードもアメックス、ダイナース、VISA、マスター全てのカードの最上位カードを保有している。


たとえエコノミーの席種を購入したとしても、自動的にビジネスクラス以上の座席にアップグレードされる。


しかし、ここ最近はコンシェルジュやエマに頼むため、自分で座席を予約することもなくなったのでよくわからないのが実情だ。






フランクフルトアムマイン空港のLuxx loungeでゆっくりとしつつ、時間まで有意義に過ごす。


隣に座るひとみの、エルメスオレンジの大きめのバーキンが輝かしい。


バーキンの取っ手にはエルメスのスカーフが巻かれている。


今回の数多くの買い物の中で、ひとみはこの大きめの、霧島のものよりも一回り小さいバーキンがいちばんのお気に入りらしい。


今回はたくさんの店を回ったが、ひとみはエルメスが大好きで、購入点数もエルメスが一番多かった。


ちなみにこの大きめのバーキンの中にシリーズで一番小さいバーキンも入っている。


そちらの小さいバーキンはエトゥープ色で、あきらも持ってきているモナコで買ったものとお揃いのカラーだ。


加えてその2つの中間サイズのバーキンも今回購入したが、そちらは自宅まで配送してもらうことにしてある。


そう、ひとみはバーキンオタクでエルメスオタクなのだ。


このオタクは筋金入りで、ひとみのママのあやめさんから受け継がれている。


あやめさんは、日本国内でもその筋では有名なエルメスコレクターで、本人のコレクションだけで美術館ができるらしい。


中にはエルメス本社でさえも所有していないものも数多くあり、時々美術館やエルメス本社にレンタルすることもあるとか。






時間になったので飛行機に搭乗する。




やはりファーストクラスは快適だ。


気づいたら羽田空港についていた。


ひとみはまだ爆睡していたので起こしてあげる。






「ひとみ。羽田着いたよ。」




「んぇあ?お?んあぁ…


ついたのね…。」




「はい、バーキン。」




「おぉ…目がさめる…。」




ひとみの新たな一面を知ったあきらだった。


ちなみにひとみはあきらもエルメスコレクターにしようと密かに活動を続けている。






羽田からはせっかくなので車で移動することにした。


空港でチェンテナリオを受け取ると、トランクにリモワをセットし、今必要のない荷物は全てトランクケースに詰め込み、身軽になる。手荷物はバーキン2つとスマホと財布だけだ。




「いざ出発!」




「おー!」




跳ね上げ式のドアを開け、車に乗り込み、エンジンをかけると、やはり周りがどよめく。






「やっぱり注目されるね。」




「そうだな。」




大きなエンジン音をマフラーから轟かせて空港を後にする。




「ちょっと東京の家見てみようか。」




「お、いいね!」




せっかくなので入籍祝いにもらった土地に建てている家を見に行くことにした。


場所は中央区浜町。


計画としては建屋の一階がガレージで、そこから車用エレベーターで地下にも自走式の駐車スペースを確保してある。地上と合わせて最大20台まで収容可能だ。


庭も広めにとってあり、都心でありながらその喧騒を忘れられるように森をイメージした作りとなる予定である。


庭と建屋の建築イメージは「和風」で作庭家と建築家に仕事を依頼してある。






空港から高速道路を使い、建設予定地へと向かう。


40分ほどで到着すると、すでに着工から数ヶ月立っているということもあり、だいぶ形にはなっている。




「おー!こんな感じか!」




「すごい!素敵だね!」




建物の複雑さと工事の複雑さから、完成にはまだ時間がかかるものの、計画通りに進んでいるというのはよくわかった。




「完成が楽しみだね!」




「うん!」






家を見ることができて満足して、銀座が近いのでお昼ご飯を食べてまた高速に乗る。




「さて、行きますか!」




「お願いします!


途中で運転代わってね?」




「言うと思った。」




やはりひとみはスーパーカー好きの自分を抑えられなかったようだ。




「いやだって世界限定20台だよ?」




「まぁそうなんだけど、これは幻のチェンテナリオだから。その20台には入ってないのよ。」




「えっ、どういうこと?」




「この車はオーダーメイドで、もともと現物がない状態で販売された車だから特別に作ってもらうことができたの。


たぶんもともとが既成の車だったらそもそも在庫がないからもらえないけど。」




「つまり?」




「厳密にいうとこの車はチェンテナリオではない。」




「えっ」




「チェンテナリオに限りなく近い、ワンオフ車ってことだね。」




「ワンオフ。」




「作者本人が作った偽物みたいな。」




「偽物。」




「だから世界に一台。」




「一台。」




あきらのその言葉を示すように、エンジンルームにはシリアルナンバー1番と霧島あきらのために作られたという言葉がイタリア語で書かれていた。


パーキングエリアで実際にそれを見たひとみは感激していた。






「すごい!


すごいすごいすごい!!!」




「でしょ?」




「うん、すごい!」


すごすぎてひとみの語彙力が低下した。






羽田空港から2時間半ほど運転したところでひとみに運転を代わる。




「すごい運転しやすいね、これ。」




「でしょ?昔のカウンタックとかF40とかと比べると断然やりやすさが違う。」




「これはハマるわ…!」




「俺もうハマってる。」




「私もこれ気に入っちゃった。」




交代してからはひとみが家までずっと運転した。






「おかえりー」


「ただいまー」


2人は誰もいない家でお互いがお互いをねぎらう。




チェンテナリオ用のスーツケースから荷物を出し、片付けをして、お腹が減っていることに気がついた。




「あ、ごはんどうする?」




「なんか食べに行くのもめんどくさいね。」




「じゃあ今日はもう出前にしようか。」




「そうしましょう。」




ウーバーイーツで気になったものをかたっぱしから頼みまくって、大画面のテレビで密林プライムを見ながらゆっくりした。


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