第39話

ルーレットの空いている卓に座るやいなや、約100万香港ドルを全てチップに換えて、ベッド締め切りのギリギリで1つの数字に1万香港ドルを一点がけした。

迷うそぶりも見せない。

こういうのははったりが大事なのだ。




ディーラーは青ざめていたし、卓もざわついていた。




もちろん私が勝つ。


いきなり32万香港ドルを手にする。

この時点で日本円にして6400万円ほどか。


あとはもう黒赤で気ままにチップを置くだけの作業だ。


もちろん置くタイミングは間違えない。


相乗りされないようにギリギリでかける。


手持ちの半分をかけていくのがいつものスタイルなので、回を重ねる毎に手元の軍資金は1.5倍されていく。


2時間ほどで5000万香港ドルを突破した。


もちろん、霧島も全勝しているわけではない。


いきなり半分近く待ち金が減ることになることもあるが、トータルで見ると、100万香港ドルが50倍、5000万香港ドルになるまでに3時間かからなかった、ただそれだけのことだ。


今私の手元には2000万ドルチップが2枚ある。

1000万ドルチップが1枚の計3枚がある。あとは端数がちらほら。

ルーレットはここまでにしておこう。

次はどこにしようかなとディーラーを見るだけで、もう他のディーラーは青ざめてしまう。




私は稼ぎながら思った。




話を聞いて見ると、このVIPルームで、1000万2000万なら金が動くことはザラらしい。

例のカジノ好きな経営者の話だったか?

一晩で100億円スッたり儲けたりなんてこともあったとか。




カジノに入ると同時に個人情報を調べ上げ、手持ちがなくても銀行がいくらでも融資してくれる。




もちろんカジノが儲けるために。


つまり、カジノは、俺たちからむしれるだけむしりとるつもりで商売をしてる。


1億ドルやら2億ドルの端金じゃない。


10億ドル、20億ドルの話だ。


マカオ全体の収益なんかは数千億ドルにも登る。




そんなことしてるのは、裏を返せば、自分たちから取れるもんなら取ってみろよってことだろ?




だから俺がむしり取れるだけむしり取って、経済どんどん回してやるよ!




もはやまらない。

もう思考がおかしいことになったのだ。

なんかこの時はスイッチ入ってた。




私は3枚の高額チップと端数のチップを、ベッド締め切りギリギリでまた賭けた。


もちろん勝つ。

あっという間に1億だ。

日本円で20億。気持ちいい。

とうとうディーラーが交代した。


変わったディーラーが好戦的な目でこちらを見てきたので、私も好戦的に笑った。


じゃらじゃらと増えた端数チップまとめてディーラーにくれてやり、席を立った。


ディーラーは勝負しないの!?とばかりに目を白黒させていたが、バカにされたと思ったのだろう掴みかからん勢いで私の元にやってきた。




しかし聞く耳は持たない。


多少の意地悪はあったが、それ以上に流れの変化を感じ取った。

アヤがついたとでもいうのだろうか。

プレーしたいと思えなかった。

すぐに違うスタッフに警備員を呼んでもらい、そのディーラーの相手を任せた。




私の手元には5枚になった2000万ドルチップがある。

端数分の枚数が減って移動しやすくなった。



そしてルーレットの次に座ったのは昨日大勝ちしたバカラだ。

これも運のみのゲームな為、理論上勝ち続けることが可能である。

今の私には運が最大限に味方についているのだ。




あれよあれよという間に5枚のチップが50枚ほどまで膨れ上がった。

1億が10億に。通貨単位は香港ドルだ。日本円にすると200億円。



1つ1つの勝負で見れば負けることもある。


しかしトータルで見れば、気づけば手元には2000万ドルチップが山ほど溜まっていた。


そこからもどんどん張る。

チップはどんどん膨れ上がる。

賭けるレートも上がる。

途中でディーラーは何人も変わったし、ギャラリーもできていた。

ふたを開けてみるとどうだろう。

なんと1日で最高額チップ5000万香港ドルチップが9200枚

日本円にして約4600億円も稼いだ。



これに焦ったカジノ側。

流石に総支配人が出てきた。


ごめんなさい、勘弁してください、4600億も払えません。ということである。




それは当たり前だ。


なので、「1億ドルだけください。」と言っておいた。


恐る恐る「残りは?」と聞かれた私は、こう答えた。




「ここの経営権で手を打ちましょう。」




こうして私は世界最大のカジノ、ベネチアンマカオの個人筆頭株主となった。




そのあとは、ラスベガスのダニエルにも連絡し、ベネチアンマカオを所有するサンズグループ (シンガポールにマリーナベイサンズをもつあのサンズグループだ。)のお偉いさんを呼び、右往左往の大騒ぎになった。

そもそも、実際に私がカジノを経営者としてのノウハウを持っているわけではないので、現金がなければ資産でいいという意味でそう言ったということを経営者サイドにもちゃんと伝えた。




すると向こうも胸をなでおろしたようで、カジノを乗っ取られるかと思ったとのことである。




事の顛末を聞いたダニエルは大笑いしていた。


ダニエル曰く、「こんなサムライは見たことがない。」とのことである。




そして、話し合いの結果、その日をもって、私が代表を務める会社はサンズグループの中の一社となり、私はサンズグループの非常勤の取締役となった。


そして、私の会社はベネチアンマカオを所有する運びとなり、そのカジノの純利益のうち1%を役員報酬として霧島が頂くこととなり、その報酬額が4600億円を突破した時、わたし霧島は取締役を解任され、私の会社はサンズグループから切り離され、ベネチアンマカオはサンズグループの所有に戻るという契約が交わされた。




なんとなく、いろんな大人たちが右往左往し、顔色が悪くなったり元に戻ったりして、気の毒に思え、悪いことをした気持ちになったので、このベネチアンマカオの収益を上げまくって、1年でなんとかしてあげようと思った。




ちなみに、約一年後、私の様々な改革という名の思い付きを実行したベネチアンマカオは過去最高収益を叩き出し、マカオのカジノを全て吸収し、それに伴ってサンズグループも過去最高益を記録した。






余談であるが、霧島あきらはこの当時のことを


まさか、そんなことになるとはその時は思っても見なかった。


と回顧している。

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