第40話
そして翌日の朝。
「俺、カジノ経営することになった。」
「アサイーボウル吹いた」
私はひとみに事の顛末を報告した。
カジノで爆勝ちしたこと。
それでそのカジノの経営権を獲得したこと。
そのため、自分がサンズの役員になったこと。
その話題が客を呼び、その日の売り上げは過去最高額になったということ。 (私の数千億円は除いて。)
その結果、月に何度かはマカオに行くことになったこと。
そのために関西国際空港に霧島あきら専用の飛行機、ビジネスプライベートジェットが用意されたこと。
そのプライベートジェットに乗れる人数であれば友達を何人連れて来ても良いと言われたこと。
絶対に留年しないでくれと言われたこと。
ベネチアンマカオのオーナー専用スイートが霧島あきら専用スイートに変わり、事務所兼家として使って欲しいと言われたこと。
全てを伝え終わった時、ひとみが私にこう言った。
「自分が思ってたよりだいぶことが大きくなってしまった件について。」
「それな。」
そして、2人で相談した結果、ひとみもバイトを辞め、私の秘書として、共に土日はマカオに行くことになった。
「ま、まぁ、私の見込んだ男として当然よね。」
「だとすると君にはサンズグループ全体の人事を統括してもらいたいのだが。」
見る目が確かな再々の彼女にはぜひともその手腕をふるっていただきたい。
「すいません、勘弁してください。」
こんなやりとりがあったとか、なかったとか。
ひとみに連絡し終わった後、リッツをチェックアウトした。
その時に担当してくれたのはもちろんハマーGMで、終始苦笑いだった。
チェックアウトを済ませた後はそのままベネチアンマカオに向かい、自分が住むことになる部屋に入った。
ホテルのフロントで、部屋の鍵をGMから渡されたが、そのGMも、ハマーGMと同じように、もはや苦笑いしかできない様子だった。
私はとりあえずカジノ側のGMと、ホテル側のGM、そしてベネチアンマカオの経営幹部を部屋に招き、経営会議を行った。
そこでまずは挨拶と、これからの行動指針、経営目標、変えて行くべき点などを適当に述べ、それらを各自行動に移すように告げた。
適当といえば聞こえは悪いが、ちゃんと適して当てあはまるように伝えたつもりだ。
こちらは後から聞いた話なのだが、
私の部屋に入る時の呼ばれたメンバーの顔は皆どこか霧島を下に見る、見くびったような顔つきだったが、数時間後の部屋から出てくる時の顔はなぜか神でも見て来たかのような顔だったという。
そしてなぜかその後の経営幹部たちは生き生きと行動するようになり、そのやる気に当てられた部下たちもなぜか生き生きと行動するようになり、ベネチアンマカオの収益も日を追うごとに爆上げされていった。らしい。
この時ばかりは、当の自分も首をかしげることしかできなかったが、良い方に転がりだしたのならまぁいいかと軽く考えていた。
会議で幹部たちとこれからの方向性について様々話し合ったあと、自分のことについても話し合うこととなった。
その結果、この部屋は好きに使って良いということと、出勤時間も自由にして良いとのこと。
経営側も私も何かあれば電話ですぐに連絡するということが決まった。
そして、自分にはすでにひとみという秘書がいると伝えると、じゃあ会社からも秘書を1人、そしてホテル側、カジノ側からもそれぞれ1人ずつの計3人を秘書につけてくれと言われたので、それを了解した。
また、ホテル内にはいてもいなくても良いし、自分の仕事を任せる人間を個人的に雇っても良いということが決定された。
そして各自解散したあと、会社から割り当てられた自分の秘書にとりあえず自分の仕事用のスーツを買っといて欲しいというと、秘書は、わかりましたといいどこかに連絡した。
10分もたたないうちにグッチ、ダンヒル、ラルフローレン、ブルックスブラザーズ、ブリオーニ、ゼニア、ジョルジオアルマーニ、プラダ、バレンシアガ、トムフォードの担当者がやってきて、私の体のあちこちのサイズを測り去っていった。
「今のは?」
「ボスのスーツを作りに行きました。
1ヶ月もかからずにこの部屋のウォークインクロゼットの1つはスーツで埋まると思います。
シャツやベルトも注文しておきましたので、来月あたりからは手ぶらで日本から来ていただいて結構です。
ちなみに靴はジョンロブがお好きだと伺いましたので、日本でボスが注文した靴と同じものをご用意し、それに加えて私がセレクトした靴をいくつか注文しておきました。
ジョンロブはオーダーメイドで靴を作ると、オーダー時に測ったデータから作った木型をずっと保存しておいてくれるのでありがたいですね。」
あまりの手際の良さにポカンとしていたが、気を取り直し、秘書に礼を伝え、自分は部屋を充実させるために買物に行ってくると伝えた。
秘書はかしこまりました。と言うとクレジットカードを私に渡してきた。
「このカードはボスのカードです。
マカオで使うものでしたら、こちらのカードをお使いください。
個人的なものも大丈夫です。
ボスは昨日勝った分から1億香港ドル、日本円で20億円を会社の経費にと回してくださいましたので、20億円まででしたら利用可能です。」
もはや空いた口が塞がらなかったし、よくわからないけど、しょうがないから貰えるものは貰っておこうと考え受け取った。
このとき同時に秘書の方も、
持ち出し経費20億も会社に入れるとか頭いかれてんだろと思っていたとか思ってないとか。
カードを受け取ると、そのカードの重さと質感がプラスチックとも、チタンとも異なることに気がついた。
「これ何カード?」
「サンズグループが契約しておりますプライベートバンクのクレジットカードです。
材質はマジックゴールドでできております。
ウブロの時計のあの傷がつきにくい謎金属のやつです。」
「プライベートバンク。マジックゴールド。」
もはや自分の理解の及ばないところで話が進んでるんだなと思い、そのカードをとりあえずルイヴィトンのチビ財布に突っ込んだ。
「現金持ってないんだけど、どっかある?」
とりあえずで換金した分の勝ち分の香港ドルはあくまでも私の活動資金。
万が一のために現金も用意しておいてほしいのは確かだ。
「昨日の勝ち分から、ボスが換金した1億香港ドルが奥の部屋に現金でございます。
香港ドルばかり持っていても不便だと思いましたので換金時点のレートで香港ドルが4000万香港ドル、残りを米ドルで500万ドル、ユーロで60万ユーロ、日本円2億円それぞれご用意致しております。
こちらはボスの個人のお金なのでご自由に利用していただいて構いません。
カジノ運用資金としてお借り受けする際は都度借用書を作成いたしますので霧島様からの貸付金という扱いになりました。」
私はもう考えることをやめた。
霧島はそこから40万香港ドルを抜き、フェンディのクラッチバッグに詰め込んだ。
そして部屋の鍵を忘れずに持つと、買い物に向かった。
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