間話 週間ランキング1位獲得記念追加更新


「ひとみっていっつもマイボトルで水?飲んでるよね。」


「うん、そうだね、うちの普通のお水だよ。」


ある日のこと、ふと気になっていつもマイボトルを持ち歩き、水をたくさん飲むひとみの姿がどうも気になって、世間話程度に話をしてみた。



「そうなんだ、普通のお水なのか。」


私は意外だった。

ひとみが普通のお水を飲んでいるというのが。

それがとっても気になって。どうしてもその興味を振り払うことができなかった。



「ボトルに口つけないから一口飲ませてもらってもいい?」


「いいよ〜!はいどーぞ。」



「ありがとう!」


ゴクリ、と水を飲んだが最後。

これまで飲んできたどの水よりも美味しかった。

水は味がしないという人もいるし、どちらかというと私もその一人だった。


しかしこの水は違う。

ちゃんと味がする。

香りもする。清冽な、心も洗い流されるような清い香りがする。



「え、これどこの水!?」


「美味しいでしょう!うちの水だよ!天然水!」



「え、水道水…?」


「まさか!だからうちの水だってば。」


ひとみが言うことがよくわからない。

疑問は尽きなかったが

「見たほうが早いか。」

とひとみが言うので、授業終わりに教えてくれることになり、そわそわしながらそれを待つことにした。



「じゃ、行きましょうか。」

私が運転して、ひとみの案内に従って、高速に乗り、神戸の方までやってきてようやくついた場所は水の資料館。


「資料館?」


「そう、うちがやってるの。」


「へぇ。」



車を駐車場に置いて、エントランスをくぐると奥から出てきたのは館長。


「ひとみ様!!」


「じい!」

どうやら因縁浅からぬ様子。

聞けばひとみがまだ小さい頃の養育係を務めていた御仁らしく、今は定年を迎えたので悠々自適の館長職を頂いているとのこと。


「うちがやってるって言葉通り結城家でやってるってことか!」


「そうだよ!」



「てことはもしかして…。」



「そう!うちの普通の水なの!!」


このあと館長さんもついてくれて、じっくりと水の勉強をした。

どうやら結城家はかなりの土地持ちのおうちらしく、このあたりの山と湧水の利権をほぼ全て持っているらしい。

特に神戸の布引の水というのはかなり有名で、美味しくて、成分的に本当に"腐らない"らしい。


まだ世界の船乗りたちが、七つの海を股にかけ、世界を旅していた頃からそれは有名だったらしく、この資料館が建てられるに至った。



「てかガチお嬢様じゃん!!!」



「まぁまぁまぁ。それは置いといて。」



「置いとくんかい。」

冗談抜きでこりゃとんでもない資産家のお家の子なんだなぁと実感した。


「あきらくんのお水も用意してもらいました!」


「おぉ!」


「一応うちの関係者の人にしか配ってないお水だから他の人に売ったりしないでね?」



「もちろん!」


館長さんの合図で、スタッフさんが奥から台車でたくさんのお水を持ってきてくれた。

その数10ケース。

1ケース2Lのお水が6本入っているので全部合わせて120L。

豪快ですな。


ボトルが入った段ボールケースには

結城家の家紋らしき紋様と、縦書きの毛筆で「結城」の立派な2文字。


「ね?うちのお水。」


「うちのだけど、普通ではないかもしれないね。」


「たしかに。」

職員さんが車に積みに行ってくれるとのことなので車の鍵を預ける。


見学の最後に500mlのボトルも、ひとみの分と私の分で、よく冷えたものを館長さんがくれた。


「勉強したあとなので、きっともっと美味しく感じますよ。」



私はその場で封を開けて飲む。


「うわぁ、すっごい。

体に染み込んでいくのがわかる。」

布引の水は抗酸化作用のある成分が豊富で

体にも良い。



「今日は貴重な機会をありがとうございました。」


「とんでもないです。これからも六甲布引結城の水をよろしくお願いしますね。」


「承知いたしました。」



ひとみの飲む謎の超美味しい水の秘密がわかって私は大満足できた。


「すっごいお家なんだね、ひとみの家。」


「まぁ私がすごいわけじゃなくて、ご先祖がね。たくさん土地を持ってたっていうだけ。」



「それでもお家が続いてるっていうのがすごいよ。」


「それはたしかにそうだね。」


「これからもどうぞよろしくお願いします。」


「こちらこそこちらこそ。

またお水なくなったら言ってね、手配するから。」

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