第41話
「とりあえずマカオでの足を手に入れよう。」
そう考えて、まず車屋へと向かった。
私は、今回車を買うにあたって条件をつけた。
「とにかく街乗りに向いていること。」である。
変にスーパーカーなんぞ買ってしまうと、音はうるさいし、
サーキットを走らせるわけでもないため性能を持て余してしまうと結論付けたのだ。
そして、やってきた車屋がこちら。
メルセデスベンツである。
結局丈夫で、乗りやすく、パッと見てラグジュアリーで、役員が乗ってても違和感がない車といえばこれである。というか、むしろこれしかない。
そう考えてメルセデスベンツにやってきた。
自分のなかで買う車はもう決まっている。
それはAMG G63ロングとAMG GTRである。
はい、そこ。
役員車としてふさわしくないとか言わない。
AMG GTRはスーパーカーだとか言わない。
GTRの競合車はポルシェ911なのでスーパーカーではなくスポーツカーだから!
店に来るなり、ディーラーさんに伝えた。
「G63ロングとAMG GT Rをください。」
ディーラーさんは最初意味がわからないという顔で私の顔を見ていたが、カジノで大勝ちしたということを伝えると、合点がいったという表情になり、すべてを飲み込んだ顔でかしこまりましたと言われた。
私としても、話が早くていいなと思っていたので、あえて深くは追求せず、マジックゴールドカードで決済した。
社用車だからいいよね。
金額はもはや見ていない。
両方装備できるものは全て装備したので、たぶん合わせて5千万円くらいだろうというのはわかった。
ディーラー曰く、2〜3週間で納車できるとのことなので、車が到着次第、ホテルに持ってきてくださいと伝えた。
買い物が終わって次にどこに行こうかと考えたが、ここ数日でめぼしいものはほとんど買ってしまったし、なにもすることがないと気づいた。
「ホテル帰るか。」
ホテルの自室に帰り、秘書に「社用車を二台買ったからホテルの駐車場を2台分貸して欲しい」と伝えると、秘書はお安い御用ですと笑顔で請け負ってくれた。
そして、秘書に、ビジネスジェットはプライベートで使っても良いのかを尋ねた。
「ほんとはいけませんけど、ボスが個人でちゃんと会社から借りるのであれば自由に乗っていただいて構いません。
ちなみに会社から借りる場合、レンタル料がかかりますが、そのレンタル料を払うのも受け取るのもボスです。」
「じゃあいいってことじゃん。」
「会社としてはなんとも…。手続きの問題なので…。」
秘書も苦笑いする。
「ちなみにどこまでいけるの?」
「基本的には上得意様と経営幹部の移動用に運用している飛行機なので、かなり大きい飛行機です。
具体的な機体名を申しますと、長距離用にボーイング747SPを二機と767-300運行しておりまして、あと他には中距離用の小さい機体を何機か。という感じですね。」
「ジャンボジェット3機とは恐れ入るね…」
ちなみに今日か明日モナコまで行きたいんだけどなんとかなる?」
できるかどうかはわからないが思い付きを口にしてみる。
「モンテカルロまでですね、確認してみます。
…………ちょうど明後日フランスのニースまでお客様をお迎えに行くみたいなので、明日コートダジュールまでならご利用できますよ。
空荷で行くのももったいない気がしますし、乗られますか?」
「それは運がいいね。是非お願いします。」
「かしこまりました。
機体は747で、さらにお一人なので相当さみしいかと思いますが、快適な空の旅を。」
「さみしいのはきついなぁ〜。でも中も手を入れてあるんでしょ?
暇はしないよね、たぶん。」
「相当手を入れてますね。
そもそも世界中のセレブをお迎えする飛行機ですので、エコノミークラスは無駄でしかありませんから。
高級ホテルのスイートルームが空を飛んでいると思って頂けたら、だいぶ想像に近いと思います。
モナコまでということですが、よろしければ通訳として同行しましょうか?」
「その辺の合理的なところはアメリカンだね。
いや、フランス語忘れないようにする意味でも行くから、あえて今回は1人で行くよ。
そもそもモナコ、英語だいぶ通じるしね。」
「フランス語も話せるのですか!?でしたら大丈夫そうですね。
モンテカルロでの武勇伝をお聞かせいただけるのを楽しみにしておきます。
モナコから帰る際も連絡をいただければ、飛行機があるかどうかお調べいたしますのでご連絡ください。
フランス便とラスベガス便、ドイツ便、イギリス便、日本便と中東便はかなり高頻度で飛んでおりますので、是非ご遠慮なくご連絡ください。」
「ありがとう。帰りの時も是非利用させてもらうよ。
大学の必修の第二外国語をフランス語にしたからね。
そこでかなりハマっちゃってフランス語検定も取っちゃったよ。しかも1級。」
「すごいですね!
私も日本人のボスの下で働くのですから日本語を勉強して少なくとも聞く話すくらいはできるようにならないとですね。
ちなみに私のフランス語聞き取れてますか?」
と秘書が試すようにフランス語で霧島に問いかけた。
伝わるかどうか試してくれているということをちゃんと感じ取り、フランス語で返す。
「ケベック訛りが強いですね。
しかもトゥルーズアクセントも混ぜてるでしょ。
確かにトゥルーズ方言はかっこいいですけど、そういう、わかるかどうか人を試すような態度はあまり好きではありません。」
霧島は北部アクセントの癖の少ないフランス語で答えた。
「すごい!
びっくりするほどアクセントがありませんね!
これは語学に関しては私の出る幕はないかもしれません。
試すようなことをして申し訳ありませんでした。」
ちなみに、フランス語において「アクセントが無い」というのはかなりの褒め言葉である。
一般的にアクセントが無いフランス語が一番綺麗なフランス語とされている。
「いや、実はどうしても中国語と韓国語が苦手で…。
あと英語もクイーンズイングリッシュは何度聞いても慣れないんだよ…。
スペイン語はなんとか日常会話くらいならなんとかなるけど、ドイツ語はもうほんとに全然わかんないんだよね…。」
「カジノ側から派遣されてる彼は英語と中国語と韓国語が堪能ですよ。
ホテル側から派遣されてる彼女も英語と中国語、あとスペイン語が堪能ですね。
ちなみに私は、英語、中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語、イタリア語は問題なく使うことができます。
スイス生まれなもので。」
スイスは国内でドイツ語圏とフランス語圏とイタリア語圏に分かれており、公用語もその3つに加えレトロマン語があるため、国民のほぼ全員がマルチリンガルである。
「才媛だねぇ。
君のその素晴らしい能力をもっと活かせるように力を合わせてこれからも頑張っていこうね。」
霧島はフランス語でそう締めくくると、秘書に明日のフライトに同乗させてもらうように頼んだ。
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