第42話

「そいえば、自己紹介まだしてもらってないけど、ひと段落ついたし、ついでだからしてもらっていい?」




「そうですね、では改めて。




エマ・マグダネルと申します。


大学はハーバードで、ホテルマネジメントを学んでいました。


趣味は旅行。チャームポイントは祖母譲りのプラチナブロンドの髪。年齢は27歳。誕生日は9月24日。


身長は168cmで体重は最近太ってきたので言いたくありません。


スリーサイズは上から94…


エマの声を途中で遮る霧島。




「最近のスイスの女性はかなりプライベートなところまで自己紹介されるんですねぇ。

そんなセクハラまがいのことをするつもりはありませんので!」




「スイス女は、思い人に彼女がいるからといって諦めるような女ではありませんので。




そもそも私浮気容認派ですし。


浮気も本気も両方に愛があればそれは純愛ですから。




モテるというのは男性として優れている証。


私は何番目でも愛してくださるのでしたらいつでも構いませんよ。」




エマはそういって、美しいプラチナブランドの長い髪をかきあげながら、霧島にウインクを投げてよこした。

浮気も本気も純愛というのは、なんとも博愛のフランス人っぽい価値観だ。

スイスはフランス語圏の地域もあり、フランス的な価値観が浸透している部分もあると聞く。




「私は浮気をするつもりはありません。」




エマの美しさに、ぐらっときたが精神力で押さえ込んだ。




「私としても、ボスがそんなにすぐ落ちちゃったら面白くありませんから。」




エマはどうやら私をからかっているようだ。

まったくもう新しい扉が開くところだった。

どこまでが本気でどこからが冗談なのか、全く分からなかったが、ひとまずは仲良くなれたので良しとした。




「ちなみにご宿泊はどちらにされるご予定ですか?」




「カジノ行きたいんだけど、おすすめある?」




「じゃあオテルドゥパリと、カジノモンテカルロですね。」




「やっぱそこだよね。予約しといてもらってもいいですか?


あとカジノモンテカルロで気をつけることは何かありますか?」




「かしこまりました。




モンテカルロはモナコ最古のカジノですから当然ドレスコードがあります。舐められない格好で行くことと相手に失礼のない格好で行くことですね。




むしろタキシードくらいフォーマルじゃないと逆に浮きます。




マカオもラスベガスもドレスコードはあってないようなものでしたが、モナコではそれが伝統として息づいています。」




これを聞いてタキシードがまだ届いていないことを悔やんだ。




「タキシード買ったんだけど、フルオーダーで作ったからまだ届いてないんだよね。」




「いつどこで買われましたか?」




「東京のブリオーニで8月の頭頃かな。」




「急がしましょう。


型紙はもうできているはずです。」




エマは自身のスマートフォンでどこかに連絡し始めた。




「オテルドゥパリのお部屋のクローゼットの中に届けておいてくれるようです。




その代わり他の注文したものは少し遅れるみたいですけどよろしいですか?」


私としては是非もない。




「それで頼みます。」


エマの電話一本で完成時間が約半分近くまで短縮されたことに驚いていた。




エマは、「それでは委細お任せください」と告げると、どこかへ去っていった。




仲良くなれたみたいだし、モンテカルロのホテルも予約できるみたいだし、明日の出発まで暇だな。




どっか行くか。




私は手持ち現金といつものセットが詰まったクラッチを持って部屋を出た。






「どこへ行こうかねぇ。」






お土産でも選ぼうかということでベネチアンマカオの中にあるアジア最大のDFSに向かった。




DFSに入るとエルメスを見つけた。






「そういえばマカオどころか、大阪でも東京でもエルメスって一回も見てなかったな。見てこ。」




このDFSは「アジア最大のDFS」ということもあり、出店している店もかなり気合を入れて並べる商品をセレクトしているらしいことがうかがえた。


エルメスもその例外ではなく、品良く、それでいて客がエルメスのことを覚えやすいようにインパクトのある商品を並べていた。




その中で私が気になったのはキーケースだ。




私はこれまで車も家も全部別々で持っていたが、最近鍵が増えすぎたため、なんとかしなければいけないなと思っていた。




そんな状況で私が見つけてしまったのが、エルメスらしいコニャックレザーの6連キーケースで、留め金にエルメスのアイコンがあしらわれているものだ。




これなら家の鍵と車の鍵全部合わせてもまだ余裕あるな。




もちろん即決でそのキーケースを購入した。

すでにかなりの金額をこの一人旅で散在しているが、モナコでもまたいっぱい買い物をしようと誓い、店を後にした。






「モナコではエルメスのメンズのバーキン買いたいな。」




そんなことを考えながら部屋に帰り、ルームサービスで和食を持ってきてもらい、それを食べながら1日を終えた。

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