第97話 

「おぉー!でかい!」




「な?かなりでかいだろ?」




「すっごいね!あきらくん!!」




「ほぉーこれはすごい!」




「いやぁ、立派な船やねぇ!」




これは上から、あきら、ダニエル、ひとみ、中村さん、清水のそれぞれの感想である。




何を見ての感想かと言うと、船である。




ダニエルの友人から購入した船がいよいよ大阪港に届いたのだ。


遠くアメリカでフルメンテナンスを受け、内装の手直しと船体の塗装をし直した立派な500フィートクラスのメガヨットは太陽の光を反射して自信満々に海に浮かんでいた。


これに伴って、ダニエルの船も停泊していたマイアミから長旅を経て日本の大阪にやってきた。






この大阪港では見たことない形の、どでかいクルーザーが二隻も浮かんでいるため近隣住民から第五管区大阪海上保安監部へと通報されたらしい。


ちゃんと許可は得たはずだが、通報があったため、海保の方々が様子を見にきてくれたが、個人所有ですと言うと、海保の人がどんどん人が集まってきてすごいすごい!と言いながら見物して帰っていった。




隣にはダニエルの立派なメガヨットが浮かんでいる。




この二つのメガヨットには両方ヘリポートがあり、ダニエルの船には実際にヘリが載っている。


私の船にはヘリが無い代わりに遊ぶための小型クルーザーが収納されている。

ちなみに小型クルーザーは元の持ち主がおまけでつけてくれた。






500フィートとなると全長は150メートルを超える。


そのため、一般のマリーナに停泊することができない。


したがって、今回私とダニエルの船は商業港の方に停泊させてある。






「よし。じゃあみんな、準備は大丈夫か?」




「「「「おぉー!」」」




ダニエルの掛け声で、みんなの声がこだまする。




一行はこれからこの大きな船でタヒチのリゾート島に視察に行くのだ。

そう、あくまでも視察である。


旅行気分満々だが、あくまでも対外的には視察で通っている。


しかし、今回の視察旅行で使う船はあきらの船だけ。


メンバーはあきら、ひとみ、ダニエル、ダニエルの奥さんのジェニファー、中村さん、清水の6人であるため、二隻だと多すぎるのだ。


加えて、クルーはダニエルが用意してくれた。






ダニエルの船はこれからドックに入りメンテナンスを行う。








「よし、出航だ!」




テンションが上がっているダニエルにクルーのみんなは苦笑いだったが、6人のメンバーはそれ以上にみんなテンションが上がっており




「「「おぉー!」」」




と言う掛け声を出してしまった。


出した後に何処と無く恥ずかしい気持ちになった。




ダニエル夫妻と中村さんは初船旅ではないはずなのだが、なぜかテンションが爆上がりだった。




何はともあれ大阪からタヒチまで、約1万キロの長い船旅はスタートした。


行程は大体1週間弱ほどでタヒチにつく計算らしい。






何箇所か寄港したり、太平洋の真ん中で海に映る満天の星を見たり、1日釣りをしたり、1日映画を見たりして、とてものんびりした1週間が過ぎたごろタヒチについた。




タヒチと簡単に言うが、私の購入した島は正確には、ソシエテ諸島を構成するウィンドワード諸島のうちの一つの島で、最寄りの島がタヒチ島と言うだけである。






開発途中の島で、写真で見たときはどうなることかと思ったが、今目にしている港はとても立派である。






「立派な港だな。」




「そりゃ500フィートクラスの船が何隻も停泊することを見据えとるけんが、かなり立派に作ったとよ。」




島の計画に関しては清水が総責任者だ。


日本どころか世界中の海洋土木業者を集めて、金にモノを言わせて整備したらしい。




「ホテルもかなり立派なホテルができとーけん。」




「どんなホテル?」


ひとみが目を輝かせて食いつく。


「見ればわかると。」


ちなみに、ひとみには今回の旅行はダニエルの新しいリゾートを見学に行くということを名目として話しており、島を買ったとか船を買ったとかそういうことは一切話していない。






船が港に停泊すると、とても熱烈な歓迎を受けた。


ポリネシア政府の方々や、出稼ぎに来ている他の島の人々がたくさん出迎えてくれた。






「すごい歓迎だな。」




「そりゃ現地の人たちからすれば俺たちゃ英雄よ。」


ダニエルが答える。


「なんで?」




「考えられないほどの外貨を落としてくれるからさ。」




「なるほど。」




現地の人々からの熱烈な歓迎に笑顔で応えた一行は車で出来たばかりのホテルまで向かう。


車はメルセデスベンツのストレッチリムジン。


6人乗りの特注車なので二台。


この南太平洋の島にメルセデスベンツのストレッチリムジンを持ってくるというチョイスに何処と無く違和というか馴染みを感じたあきら。




その違和感の正体はホテルに着くと解消された。






「長旅お疲れ様でした、ボス。」




「エマ。」




「はい、エマです。」




そう、この島までメルセデスベンツを運んできたのはあきらの秘書エマである。


ひとみの恋敵でもある。




「お、誰この美人。」


清水が食いつく。


「うちの秘書のエマさん。」




「バリ綺麗やん。


素敵なお嬢さんですね、今夜ディナーでも?」




口説き文句だけは一流のフランス語でエマを口説きにかかる。




それを聞いていたあきらとひとみと中村さんは大爆笑した。




「失礼な!なんで笑うとよ!」




「博多弁からのフランス語が面白すぎて。」


と、ひとみ。


「しかもフランス語めっちゃ綺麗だった。」


と、あきら。

内心ではいつも率先してピエロを演じてくれている清水に感謝をするが口には出さない。


「いや、人は見た目によらないものだね。」


と、中村さん






清水の綺麗な英語に慣れているダニエル夫妻はまだ日本語には疎くキョトンとしている。




「というか清水フランス語大丈夫やったんやね。」




「小さい頃やらされやったとよ。


それでも霧島のフランス語には敵わんけどね。」




「ほぉ!霧島くんはフランス語も!


さすがは新時代のリーダーだ!」




中村さんが褒めちぎってくれる。




「で?お返事は?」


苦笑い気味のエマに清水がフランス語で尋ねる。




「心に決めた人がおりますので。」


そう笑うエマはあきらの方をちらっと見たがあきらは気付かない。


ひとみは気づくが、正妻の余裕を感じさせる余裕の笑み。




「それは残念。」


と、さして残念がる様子も見せずに話を終える。






「それでは!!!


ホテルのお披露目でーす!!!」




チェックインだけを目的とした建物を抜けるとそこには水上コテージが広がっていた。






「やっぱりタヒチは水上コテージでしょ!」




「「「おぉー!!!」」」




みんなから歓声が上がる。




まだ完成したばかりなので建物も新しく、抜けるような青空と、透き通る海にとても映える水上コテージ群が広がっていた。






「まぁまだ、港とこのホテルしか完成してないんだけどね。」




「それでもすごい!!」




「大したもんだ。」




「これでリューも俺たちのブラザーだ!」




などなど、みんなから賞賛の言葉を受けまんざらでもない様子。




みんなにそれぞれコテージの鍵が渡されると




「じゃあ各自解散!」




という言葉とともにそれぞれがそれぞれの部屋へと散っていった。

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