60万PV記念 閑話 霧島 車を買う
テレビを見ているといいCMが流れてきた。
「これこれ。」
「あ、これが例の。」
私はひとみに最近好きなCMを見せた。
初めて見たのはユーチューブの広告で、ただシンプルな映像。
曲のタイトルもなく、CMなのに台詞もない。
車が夜道走っていて、運転手がカーステレオのスイッチを入れると、曲が流れて、首都高のライトが灯り、高速道路を流す車の全体像がわかり、最後には企業ロゴで締めるという、無駄を削ぎ落としたCMだった。
車好きなら見たらわかる。
夜の高速道路を走り抜けていくその車は丸目4灯のテールランプ。
間違いなくスカイラインだ。
衝撃だった。
初めてスカイラインを見た時を思い出した。
小さなころ、近所の街を走るR34スカイライン。
ベイサイドブルーメタリックの車体がまぶしかった。
お父さんに頼んでディーラーでカタログもらってきてもらったっけ。
このCMを初めて見たとき、速攻でディーラーに電話した。
運よくGT-R初回ロットがまだ手に入るということだったので、もちろん電話で予約した。
色はもちろんベイサイドブルーメタリック。
これはすっとノーマルで乗る予定。
もう一台、ブラックパールのnismoフルチューンも注文した。
こちらはぶん回す用。
多分自分以外にも、昔からのファンは涙を流して喜んだだろうし、昔のスカイラインを知らない世代はその感動を新しく知ることができたことを喜んだ。
後日、動画配信サイトに改めてupされたスカイラインR36のCM動画は配信から3日で2500万再生を突破した。
日本のみならず、世界中のスカイラインファンが待ち望んでいたのだろう。
「このCMって、音楽がいいね。」
「でしょう!ひとみさんに1000ポイント!」
「これってポイント貯まるとなんかある?」
「1ポイントにつき1000円分のプレゼントを差し上げます。」
「じゃ換金せずに取っておこう。貯まったらなんか買ってもーらおっと。」
「こーわ。」
「で?このCMを見せたってことは、報告があるんでしょう。」
「え?あの、うん、え?、う、あ、まぁ…。」
「買ったのね。」
「え、あ、ウン…。」
「もぉ〜。ちょっと車買いすぎじゃない?」
「2台。」
「えっ」
「2台買った…。」
「2台!?!?!?」
「青と黒。」
「青と黒!?!?!?」
「青はノーマルのいいグレードのやつで1000まんえん、黒はフルチューンのフルオプションで3500まんえん」
ほぼほぼレース仕様というか、公道を走れるレースカーみたいなもんだからね。
ちょっとあきらくん、がんばっちゃった。
「よ、よよよよよよ、よんせんごひゃ、、、」
「ひとみとお揃いが良くて…。」
「ンッハッ!!!!!」
ひとみから変な声が出た。
「お揃いダメっていうなら返してくるね…。」
「全然大丈夫!!!!!お揃い最高!!!!!」
ひとみ。ちょろいとこも好きだぞ。
「やった!!!たくさん一緒に乗ろうね!!!」
「ウン!!!!!」
そして数週間が経ち、納車の日。
東京の我が家にて今か今かと待ち望む我々。
「お、あれか。」
スカイラインGT-Rのために日産自動車がこしらえたトレーラー。
レース界隈ではトランスポーター、トランポなどと言ったりするのだが、めちゃくちゃかっこいいトレーラーがやってきた。
しかも2台。
一般家庭にトレーラー2台って大丈夫?と言う声が聞こえるが、侮るなかれ。
我霧島ぞ?
我天下の霧島ぞ?
敷地内の車止めにトレーラーの2台は難なく入るのである。
東京千代田区の一等地ではあるが、元々がかなり広い敷地で約1000坪。ビルでも建てるか?と言うほど広かった。
ここにかなり大規模な地下駐車場を完備し、あえて建物自体はそこまで大きくせず、庭を広くとったりするなどと、かなり道楽な家を建てた。
俺もひとみも車好きなので、玄関前にロータリーも完備した。
なのでトレーラー2台でも、敷地内にちゃんと入る。
「こう見ると我が家でかいね。」
「うん、でかい。」
「先祖代々の土地だから、ね?
多分取得した時は安かったんだよ。
たぶん。」
この土地は先祖代々霧島家が守り抜いた土地で、バブルの動乱でも売らずに守り切った。
その代わり、他の土地は苦しい時にほとんど売り払ってしまったが。
幸いなことに、その時売り払った土地のほとんどは買い戻しに成功した。
結城家の地主っぷりには遠く及ばないが、かなりの地主といって差し支えないだろう。
土地を買い占めすぎて、今では霧島町という町名になってしまった。
さすがに市はダメだったとは父の談。
父幸隆はひとみの父幸長さんと家についてよく話しているらしいので、そう遠くない未来、我が実家もひとみの実家のように要塞みたいになるのだろう。
トランポの運転手さんが降りてきて、今から車を出すとのこと。
ワクワクする。
トレーラーの工場の蓋ががばっと開いて、運転手さんが乗り込む。
エンジンがかかって、スカイラインの咆哮が聞こえた。
まるでGTカーかF1のような甲高いエンジン音だ。
「うおぉ…。」
「す、すごいね…。」
2人ともその後にゾクゾクしている。
わずかなアイドリングののち、バックでトレーラーのスロープから車が降りてきた。
車体は漆黒。
アルミホイルまで真っ黒だ。
しかしボディとはわずかにトーンの違いがあって、のっぺりとした黒にはなっていない。
全体的に黒のトーン違いでまとまっていて、逆に引き締まっている。
獰猛さと優雅さが両立してそこにはあった。
「これはすごいわ…。」
「ひとみ、乗りたいっしょ。」
「うん、めっちゃ。」
次はひとみのテーマカラーでもある青のスカイライン。
こちらはフルノーマルだが、純正でめちゃくちゃカッコいい。
先ほどのニスモスカイラインよりはややおとなしめなエンジン音でトランポから降りてきた。
「これはこれは…。」
「優美だね。」
先ほどのニスモスカイラインを荒々しい
女性的な美しさがある。
ボディのラインや、色、エンジン音
どことなく女性的なのだが、うちに秘めるエンジンとそのエネルギーは熱い。
まさに女武士巴御前と言ったところか。
「あきらくん、乗りたいでしょ。」
「うんめっちゃ。」
「今度サーキットで走らせてみようね。」
「約束ね。」
車の引き渡しに関する手続きが済んで、車を地下駐車場に入れた。
ハイパーカーばかりが止まっており、スカイラインは我が家では数少ない普段乗りの車に分類される。
「せっかくだし乗りに行く?」
「行く!」
私たちはニスモのフルチューンのスカイラインに乗って出かけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます