第69話 霧島 税理士のところへ行く
日本に帰国してから少し体を休めて、家でゴロゴロしたが、
ひとみはそろそろ年末ということで、実家に帰省した。
ひとみの家に居候している分際で、自分だけひとみの家にいるのも居心地が悪い。
もちろんひとみは
「ここもあきら君の家なんだからいてもいいんだよ?
気を使わないで。」
と言ってくれたが、これは自分の気持ちの問題なのだ。
もともと正月は自分も実家に帰るが、
その前に細々した用事を片付ける必要があった。
ひとみは近くまで迎えが来るというので、車で送っていった。
私も時間を合わせて用事を済ませることにした。
まずは今の資産の確認。
そして、税金関係だ。
まずは淀屋橋の税理士事務所に向かう。
ちなみに今日のコーディネートは、ちょっとカチッとした格好で仕事したかったので、メゾンマルジェラで買ったグレーのダブル仕立てのセットアップを着た。
靴はオールデンの4562Hという編み上げブーツ。
バッグはいつものバーキン。
アウターはジルサンダーのコート。
荷物はできるだけ少なくしたかったが、印鑑やもろもろの書類関係、通帳、権利書などで少しかさばってしまった。
会社関係の必要書類はすでに税理士事務所に送ってあるので、これでも身軽な方だ。
愛車のレクサスを駆り、本町まで向かう。
年末最後の営業日には事務所に行きます
と連絡したときにもらった返事のメールで知ったが、事務所は淀屋橋から本町に最近移転したらしい。
前は小さい事務所 (小さいと言ってもそれなりに大きい。)だったが、今はとても大きいビルのワンフロアを、借りているらしい。
本町駅からごく近くの、事務所の入るかなり大きく立派なビルに着くと、ビルの利用者はどうやらビルの地下駐車場を使っても良いらしい。
利用者なので、自信を持って地下に吸い込まれる。
車を止めたら、連絡して欲しいと言われていたので、税理士さんに連絡する。
「霧島です。車止めました。」
「はい。すぐに向かいます!」
しばらく待つと、車のドアがコンコンとノックされる。
「あぁ!お久しぶりです。」
「霧島さん!お久しぶりです!」
ドアのノックの主は、お世話になっている税理士さんで、会計士さんでもある、村上利紀氏。
見た目30代そこそこのように見えるが、実際は50代の半ばという、とても若々しくフレッシュな方。
元は税務署職員で、かつてはマルサにも所属したが、縁あって税理士事務所を開業するに至ったというやり手らしい。
村上氏は私にビルを案内しながら、事務所移転に至る経緯を話す。
「霧島さんを担当させていただいてから世界が変わりました。」
「と、いうと?」
「あの時期から大きな仕事が立て続けに何本も入ってきて、おかげさまで事務所も大きくなりましたし、世界的な監査法人とも繋がりを持つことができました。」
「そうなんですね。御繁盛のようで何よりです。」
「それで、事務所にもだいぶ余裕が出てきたので移転したんです。」
「なるほど。僕も春から引っ越す先が近所なので、さらに伺いやすくなって万々歳です。」
「そういえばそうですね、あのマンションももう直ぐ竣工ですもんね。」
そんな世間話をしていると事務所に着いた。
所長である村上氏は、事務所の1番奥にある会議室に案内してくれた。
「それで、ご用件は税務関係の確認と定期連絡でしたよね?」
私が水を向けてみる。
「そうですね、定期報告の内容なのですが、
実は、所得税が相当持っていかれそうだというお話をしとこうと思いまして。」
「そりゃあれだけ稼いだらだいぶ持っていかれるでしょうね。
で、具体的にはどれくらいですか?」
ある程度覚悟はしていたが、私個人の所得も相当なことになっている。
「色々と頑張ってみたんですが…」
「おいくら?」
「サンズの事務所さんとも共同で当たらせてもらったんですけども、諸々全て込みで500億円でお釣りがくる程度には抑えられそうです…。」
「…ッく…ご、ごひゃくおくえん…」
「ちなみに、このうち、霧島さん個人にかかってくる税金は100億円程度です。」
「ひッ…ひゃく…」
あまりの高額にめまいがする。
私が経営している金時計という会社だが、事業終了月は2月。
なので法人税は4月までに払わないといけない。
法人税は会社が得た所得にかかるお金なのでかなりの額がかかってくる。
法人税の頬化にも
地方法人税、消費税、印紙税、法人住民税、法人事業税、固定資産税
などなど払わないといけないお金がとにかくたくさんある。
そのすべてが4月末日までに滞りなく支払われる必要がある。
ちなみにほぼほぼ手続きを村上事務所さんに丸投げしているため、そのお金も結構びっくりするくらいかかっている。
「なのでとりあえず大目に見て600億円程は用意しておいてください。」
「…わかりました。」
村上氏に見送られて、霧島はビルを出た。
「税金って高いなぁ…」
次に霧島が向かうのは証券会社。
自身の保有する株式の確認だ。
霧島が証券会社の自動ドアをくぐると、それに気づいた支店長が飛んできた。
「きっ霧島様ッ!!!!」
びっくりしたが、挨拶をする間も無く最上階の会議室に連れていかれた。
「ほ、本日はどのようなご用件で。」
「自分にどれくらい資産があるのかなと思って。」
支店長は胸をなでおろしたようだった。
支店長は周りに控えていた社員さんのような人に二言三言指示を出すと、自らお茶を入れてくれた。
しばらくすると、先ほどのスタッフさんが資料を持って会議室にやってきた。
違うスタッフさんもやってきた。
また違う人もやってきた。
みんな台車を持ってやってきた。
台車の上には膨大な資料が乗っていた。
「これは?」
「霧島様の株式資産の資料をまとめたものです。
これらを確認していただきたく、お手紙でも、お電話でもご自宅に送付させていただいたのですが…」
霧島は完全に忘れていた。
電話では近いうちに行くとは伝えたが、その時、何を言われたのか全く覚えていなかった。
「すいません、完全に忘れていました…」
「いえ!全く問題ありません!」
「それで結局何がいくらくらいあるんですか?」
「はい、それではご説明させていただきます。」
〜〜〜〜〜〜3時間後〜〜〜〜〜〜〜
「以上が、霧島様の現在保有されている株式資産の内訳でございます。」
「長かったし、結局よく分からなかった…」
「端的に申し上げますと、景気の上昇の波に乗り、もともと購入された株式と新たに買い足しなさいました株式の株価が急上昇を続けておりまして、株式分割や増資など様々な好要因が絡み合いまして、現在保有資産が3000億円ほどにまで膨らんでおります。
ですので霧島様個人の所得税等、株式会社金時計様の税金の関係もあり、処分する株式と保有を続ける株式とに仕分けたり、他の金融商品などはいかがでしょうかというお話でございます。」
「さ、さんぜん……」
というのも、私は暇を見て、ネットで株式を買い続けていた。
その際に最初はよく見ていくら買うのか、いくら売るのかを考えていたが、最近では直感に従ってどんどん買い増ししていたのだ。
額も、100万200万などという可愛いものではない。
10億、20億の金をどんどん投入し続けていたのだ。
バカラ並みの倍々ゲームで雪だるま式に運用額が増えていったのだ。
正直なところ自分自身で一回の投資でどれほどの金額を動かしているのか、わかっていない。
買えるだけ買い、売れるだけ売る。ただそれを繰り返していただけだ。
「とりあえず、うちの税理士さんの電話番号をお伝えしておきますので、所得税やら、税金関係はよろしくお願いします。全部丸投げしてますんで…。」
「はい、かしこまりました。」
「それで売却して利益確定する株式と保有し続ける株式の仕分けですが・・・」
~~~~~2時間後~~~~~~
「以上でお願いいたします。」
「かしこまりました。」
2時間かけて現在の株式の仕分けを行い、一応税理士さんに言われた通り
600億円の資産を現金化した。
規模でいえば5分の1である。
もちろん新たに買い足した銘柄もある。
こちらは証券口座と紐づけてある銀行口座に入金しておいた。
「あと、今のところ他の金融商品は手を出すつもりがないので、またの機会に…。」
「はい、かしこまりました。」
証券会社のお偉いさん全員にお見送りをされながら、証券会社のビルを出て、車に向かう。
次は銀行巡りだ。
前回の二の舞にならないように、何食わぬ顔をしてATMコーナーに並び、通帳に記帳を済ませ、店を飛び出す作戦だ。
しかし、店に入ったところで、すぐに支店長が出てきて、応接室に案内され、世間話をしていると、いつのまにかもっと偉い人が出てきて同席し、定期預金を是非。という流れになる。
仕方がないので上限金額で定期預金にしておいた。
最終的に、取引のある銀行5行で定期預金口座を開設することとなった。
まぁ1000万だから付き合い程度ですね。
5行すべての銀行口座をすべて合算すると
先ほど振込手続きした600億円とは別に200億円ほど入っていた。
「いつの間に増えたんだ。」
と思ったが、日々のトレーディングで利益確定したり、配当金が振り込まれたりで結構頻繁にお金の出入りがあるみたいだ。
そういえばこの前の一時帰国の時も株式売買の利益確定して、何十億か送金処理したなと思い出した。
こちらもすべての預金口座を決済用口座(利息が付かない代わりに銀行が破綻しても元本保証)に移行しておいた。
銀行が破綻することなんてそうそうあることじゃないけど念のためにね…。
銀行に来たついでに、5行で合計4000万円ほど現金を下ろしておいて
しばらくの生活費とすることにした。
さすがオータクロア。ぎりぎり4000万円を仕舞い込むが、流石にちょっと不恰好。
車のコンソールボックスにも半分くらい突っ込んでおく。
万が一の時もあるしね。
ここまでくると、税理士さんが言っていた600億円用意するというのももしかしてそんなになのでは?と思ってしまう。
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