第28話
「いらっしゃいませ。どうぞ、ごゆっくりご覧になってください。
もし気になる車がございましたら、ぜひお申し付けくださいませ。」
「i8が見たいんですけど、試乗とかってできたりします?」
私はレクサスLXで乗り付けたBMWのショールームに入るなり、店員さんにそう伝えた。
店員さんも、いきなり具体的な車名を伝えたことで、「私は買う意思がある」ということを察してくれたのだろう。
「かしこまりました。
i8は、展示車にするつもりで発注したものが偶然今日の昼ごろ届きまして。
届いたばかりでまだガレージにございますのでそちらに試乗するのはどうでしょうか?」
「ぜひお願いします。」
今日、それも昼に届いた新車に乗れるとは運がいい!
そう思いつつ案内を受ける。
「かしこまりました、ありがとうございます。ではこちらへ。
案内されたガレージでi8の現物を初めて見た私は感動した。
流麗なフォルム、輝く白いボディとアクセントとして主張する青。
1つの芸術品のような車だ。
かつてあこがれたスーパーカーが漠然とした理想を体現してそこにはあった。
「それでは運転席にどうぞ。こちらはこの車の鍵です。」
渡された鍵を持ち、スタートボタンを押してエンジンをかけた。
その車の静かな咆哮に驚いた。
「思いの外静かですね。ほんとハイブリッドカーという感じで。」
「そうですね、アイドリング中などはほぼモーターの音しかしない状態に近いですね。
オーナーさんも驚かれる方多いです。」
初対面の彼女のその内装が上品なことにも驚いた。
ピュアスポーツカーとは言いつつも、BMWらしさを忘れない、気品のある内装。
しかし見せかけだけの上品さではなく、ドイツ車らしく、実用性が重視されている
「これはすごい…。」
i8 はスポーツカーであるため高速道路での高速域走行も試乗を許された。
高速走行をしてみると、市街地走行とはまた違った一面が顔を覗かせる。
低重心が故の張り付くようなコーナリング感。
そして、高速走行中の安定感。
満足していた。私は心が満たされるのを感じた。
「これいくらですか?」
店員「現在霧島様が運転しておられます、この車と全く同じもの、同じ装備ですと2093万円、限定色でしたら2298万円でございます。」
「その限定色は現物見れますか?」
「はい、フローズンブラックとプロトニックレッドでしたら両方見ることができます。
ちなみに、両方とも限定生産でして、レッドの方は日本での残り1台となっております。」
「赤にするか…。」
試乗を終え、ショールームに戻った私は、プロトニックレッドのi8を購入した。
この車ももちろん一括払いである。
納車までは約1週間とのことだ。
購入手続き中、i8の駐車場がないことを思い出し、どこかホテルの地下駐車場を借りることはできないかと、梅田周辺のホテルを調べた。
すると、ホテル日航大阪では、月極というか定期券駐車場を契約できるらしく、早速契約した。
i8の車庫証明はその月極駐車場?で取得した。
ちなみに駐車場の月々の契約料金はクレジットカードから引き落とされる。
私は、インターネット証券で株式を購入しているが、リスクの分散という観点から、運用資金が増えた時に自己名義と会社名義で複数の口座を複数の銀行に開設していた。
その際に行員に勧められるがままクレジットカードを作り、今ではメガバンク全社のクレジットカードと、ダイナースクラブという、アメリカンエクスプレスの信用度・ステータスを上回るクレジットカードを保有している。
中でも経費精算などに使用しているメガバンク発行のJCBカードについては、カード会社から「カードのステータスを上げてほしい」とのことで、ザ・クラスのカードになっており、ダイナースクラブに関しても、税理士さんの勧めと紹介もあり、プレミアムカードとなっている。
ちなみにi8は個人名義のザ・クラスで決済した。
カード集めが趣味になった私の次なる目標は、あるメガバンクでクレジットカードを作る時に、ANAマイレージカードの機能を追加したカード作った。
そのマイレージクラブのステータスをとりあえず一番上まで上げることである。
そのためにこの夏休みに長距離海外旅行に行くことを画策しているが、それはひとみには秘密である。
やっとのことで全ての手続きを終えた私は、ヒルトン大阪で1人寂しくディナーをすませると大満足で家に帰った。
家に帰ると自身の持つ株式の資産はめでたく500億円を突破していた。
「まぁ、一人だけどお祝いということで。」
今日の散財を霧島はお祝いという言葉で片付け、心の棚に上げておくことにしたようだ。
今日GUCCIで買ったバッグに、私がいつも持ち歩いている7つ道具。
車の鍵、タバコ、ライター、財布、小銭入れがわりにしているリモワで貰った小さな袋を入れた。
リモワの袋は大量にスーツケースを買ったときにお店からもらった。
そして買った服についてはクローゼットに片付け、大満足のまま眠りについた。
入りきらないものはスーツケースに入れて車に乗せておく。
i8の購入の契約を結んでからは、ひとみの帰省前にデートをしたり、
i8の限定色を買ったということを告げて、倹約するって言ったじゃん!などと怒られたり、
清水と飯会を開いたりして、納車の日を心待ちにしていた。
清水との飯会を開いた時に初めて知ったことだが、実は清水はかなりのいいとこのご子息らしい。
それを聞いた私は、だからレクサスにもそれほど動じなかったのかと1人納得した。
なんでも清水は九州ではかなり名の知れた名家出身で、一族から政治家や実業家を多数輩出しているらしい。
地元の経団連にもかなり幅を利かせており、
清水曰く、家柄は良いが育ちは悪いとのこと。
どこかで聞いたセリフだなと思いつつとりあえず聞き流していた。
そして、とうとうi8の納車の日がやってきた。
この日、私はお気に入りのグッチのバッグを持ち、電車で梅田までやってきた。
ありがたいことに大阪駅にはBMWのディーラーが7シリーズのBMWで迎えにきてくれた。
霧島は、次は7シリーズを買えということなんだろうなと、苦笑いしつつ、後部座席に乗り込むとショールームに向かった。
案内されたガレージに
そこにはi8 プロトニックレッドが佇んでいた。
まるでそこだけ別世界のようだった。
しかし、これが自分のものだとまだ実感するには至っていなかった。
レクサスに比べればかなりささやかな納車式の後、霧島はi8 に乗り込むと静かなエンジンをんを響かせ、ワクワクでショールームを後にした。
せっかくなので慣らし運転も兼ね、大阪環状線に上がり、アクセルをふかした。
静かだが、確実に加速していくi8。
その非現実感が霧島は大きく満足させた。
「こりゃやめられんな。」
私はつぶやいた。
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