第8話 霧島、運転資金を確保する。

私は8時に起床した。




大学を出かける準備をしている途中に、今日が土曜日であるということに気がついた。








土曜日か…。じゃあ中央競馬にでも勤しんでみるか。

初めての競馬だしちゃんと競馬場に行ってみるか、せっかく早起きしたんだし。

株も取引所開いてないしな。






霧島は昨日清水との食事の残りだろう、財布に入っていた7万円程を持って阪神競馬場へと向かった。

初めての経験にワクワクしつつ、はやる気持ちを抑えつつ道中を急ぐ。




競馬場に着くと、ちょうど第2レースが終わったところで、今から第3レースの投票受付時間というアナウンスが流れていた。




お、ナイスタイミングだなと思いながら、中継と、スマホの予想を見ながらどの馬にしようかと考えることにした。




とりあえず、これと思った馬を三頭選び、着順を予想する、三連単というものを買ってみた。




すると、そこそこに荒れたレースだったようで、100円が50000円ちょっと。つまり500倍。1000円分買った馬券が、いきなり50万円程になった。




「ここまでくるともはや恐ろしいな…。


次は負けておいてここぞという時に、幸運を取っておこう」




私は心の中でそう呟くと、集中せずに、適当に馬券を買い、存分に負けた。






結果、最初あった50万円程の勝ち分を40万円程まで減らし、運を酷使せずに休ませたお陰か、なんとなく運を補充できた気がしていた。

なんかやれる気がするといった感情だ。

不思議である。


結果として、私は大満足のまま阪神競馬場を後にしようとしたが、明日は東京でかなり大きなレースがあるということを知った。

周りのお客さんもなんか気合入れなきゃ!みたいなことを言っていた。





「今50あるから、このまま東京まで行って一泊してやってみるか…。」






私はフットワークが軽いところが自分の長所でもあると自覚していたが、一度考えるともうそのことしか考えられなくなるという短所も持ち合わせていた。






「明日の予定はないから行ってみるか。」

そうと決まれば善は急げである。





阪神競馬場まで来たその足で新大阪駅に向かい、そのまま東京に向かうことにした。




根が貧乏性な私は、グリーン車など畏れ多いと、指定席に座った。


自由席ではなく、指定席なのは、阪神競馬場での勝ち分で、少しでも時計を休め明日に備えて運を補充しておこうという考えに基づいている。


決して少し贅沢をしたかったわけではないはずだ。






新幹線で、行きしなに買ったちょっとした弁当を食べ、ゆっくりしていると、ホテルをまだ予約していないことに気がついた。






「ホテルも競馬場から割と離れてない方がいいから、競馬場は……。千葉じゃん…。最寄りは…JR船橋法典…どこよ…これ…。東京駅から30分か…。


じゃあ東京駅の近くのホテルにしよう。


ちょっと奮発していいホテルにしようかなー。


お、これ近いし聞いたことある。ここにしよう。」








私が選択したのは、理想郷の名前を冠する、泣く子も黙る世界展開の外資系超高級ホテル。






「1人17万か、余裕だな。」

余裕だといいつつも予約ボタンを押す我がの手は震えていた。

株式もあるから大丈夫と自分の心を落ち着かせ予約する。

予約完了。



そんなことを考えながらも、そのホテルをインターネットで予約した。


もちろん周りの人間から、頭のおかしい人のように見えていたことは言うまでもない。



東京駅に着くと時間はもう21時を回る頃だった。




改札を出て、理想郷ホテルを探しつつ10分ほど歩くとそのホテルが見えて来た。






「噂と違わぬ高級感…。ちゃんとおしゃれして来てよかった…。」

ジーパンにスニーカーだが自分がおしゃれだと思う格好なのだからそれでいいのだ。






今更ではあるが、以前の寿司屋の教訓もあり、霧島は服装には気を使っている。

少なくともいつ人に見られてもいいような恰好はしておこう。と。






本日の服装は、以前購入したKUROの黒デニムに、SHIPSで買ったお気に入りのシャツを合わせ、一応春物のジャケットも着ている。ジャケットに関しては何年か前にユナイテッドアローズで買ったもので、買った当時はかなり背伸びをしているように見えたが、今では年齢が追いつき、よく似合っていると自負している。


奇しくも、大学生御用達ブランド四天王(自分調べ)のうち、3つをコンプリートしているが、似合っているため、良しとしておこう。




ちなみに靴も、この前梅田で購入したNIKEのものである。




エントランスにはいると、その高級感に圧倒されそうになるが、グッとこらえ、堂々とチェックインに向かう。






チェックインカウンターに近づくとベルスタッフが近寄り声をかける。




「こんばんはお客様、チェックインでございますか?」




「予約していた霧島です…」




「かしこまりました、こちらへどうぞ。」




霧島は、初の高級ホテルにドキドキしつつも、滞りなくチェックイン作業を終え、部屋に案内される。


案内された部屋は、さすが高級ホテルと言わんばかりの高層階の部屋で、部屋から東京の夜景が一望できる。


喫煙者の霧島ではあるが、喫煙者の部屋は高層階にアサインされないという噂を耳にしたことがあったので、禁煙の部屋を予約した。






「こんな部屋に泊まれるのも、人助けをしたおかげかな…。中村さんには感謝しても仕切れないな。」






東京の夜景を見ながら心の中でそう思った。




とりあえずご飯食べよう、と思い直し、ホテルの中にあるレストランに向かった。



部屋を出てエレベーターを降りて、行っては見たものの

そのホテルのメインダイニングのレストランは、なんとなく敷居が高く、また、クローズの時間が迫っていたため、諦めてロビーラウンジにあるバーに向かった。




カウンター席に腰を下ろし、バーテンダーの方に食事が食べたいと話をすると、レストランと同じメニューをこちらにも持ってきてくれるということだった。

そこでも高級ホテルのホスピタリティを感じた。






ちなみに、ホテルは全面禁煙だが、バーの中は分煙という形でタバコを吸うことができる。




私のタバコはアメリカンスピリットのオーガニッグミントライトである。

愛用のZIPPOのライターで火をつけ、注文した料理を待つ。




料理に関してはもはやいうことは何もないほど美味しかった。


しかし、




「中村さんに連れて行ってもらった寿司店には及ばないな」




と、大学生のくせに大生意気なことを思いつつ食を進める。

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