第80話
大学の冬休みも開け、期末試験が近くなり、学内にはピリピリとしたムードが漂い始めていた。
試験が近くなると、普段見かけない人が授業を受けに来る。
受講室が学生でいっぱいになるのはもはやテスト前の風物詩だ。
「ほんと、試験前に必死こいて、ようやくやり始めるやつってなんなのよ。」
「そうだな〜。今必死になるくらいなら普段から少しずつやっとけばいいのになぁ。」
「なん?皮肉でもかましてくれよるとや?」
あきらとひとみがわざわざそんなことを言うのは、ひとみが座る席からあきらを挟んだ席で必死こいて過去問収集や成績表、提出物など内職をこなしている清水に対するからかいだ。
もともとはひとみと清水の間に接点はまるでないが、テストが近くなり、清水があきらを頼り始めたので、自然と接点が増え、今では会話するくらいには知り合いになった。
「お前相変わらず博多弁抜けんよな」
「いや、変わりよるとよ。この前も地元帰った時お前の博多弁なんか変やなっていわれたけん。」
「その違いはネイティブにしかわからないわよね、きっと。」
「そうだな。」
そういえば、清水も帰省から帰ってくる時車で帰ってきた。
なんでも免許を取ったばかりの頃におじいちゃんに拝み倒して買ってもらった車がやっと納車されたらしい。
マットブラックのメルセデスベンツC63AMGクーペブラックシリーズ。
AMGがチューンナップを施した、500馬力越えの走り屋仕様のモンスターマシンだ。
小さい車体に大排気量のエンジンを乗せた、まさにチューニングの王道を征くマシン。
しかも車のマフラーもアルミホイルも純正のものからAMG専用品に交換されており、車高も純正より低い。
厳つさしかない。
その話を聞いた時、おじいちゃんが孫に買う車じゃねぇ…と思った。
清水がとても目立つ車で大学構内に車を止めているので、あきらも気兼ねなく真っ白なレクサスを大学構内に止めるようになった。
清水は私が車を止めていれば隣に止めるし、私も清水の車の隣によく止めている。
仲良しかよ。
なお、余計に目立つが、一人で目立つよりも二人で目立つほうがまだマシである。
ひとみは、帰省から帰ってくる時に実家から真っ赤なR8を持って来はしたが、基本私と同じ車に乗って来るので大学内には止めていない。
私とひとみにとってはいつも通り、清水にとっては全くそんなことはない授業時間が終わった。
「二人はテスト大丈夫と?」
「俺は一応ちゃんと授業出てたし、出すものもきっちり出してるし、過去問も先輩からもらってるし (A以上は)カタいと思う。」
「私もちゃんと話聞いてたから、多分 (SかAは)取れると思う。」
※Sはいわゆる秀にあたり、90点以上。Aは優で80点以上90点未満。ちゃんと真面目にやらないと取るのは難しい。
「なんか、副音声聞こえた気がするっちゃけど。」
「気のせいだよ。」
「気のせいね。」
「あ、そういえば、近々に幼馴染が大阪来るんだけどよかったらみんなでご飯でも行かない?」
「お、いいね。」
「賛成!」
2人の承認も取れたので、まみまみと日程を詰めておく。
そんな毎日を過ごしていると、あっという間に試験週間になった。
試験週間とは、後期の最後の一週間のことで、その週に行われる全ての科目で期末試験が行われる週のことだ。
特に変わった設問があるわけでもなく、過去問通りの普通の問題が出た。私とひとみは難なくスルー。
清水は流石に付け焼き刃では難しかったようで、何科目かは落としたかもしれないとのこと。
「よっし、試験終了。あとは二月の残りと三月丸々休みか。」
「そうね、引っ越しもあるしそろそろ荷造りしなきゃ。」
「え、引っ越すと?」
「そうよ、あきらくん家買ったから。」
「うん、家買った。」
「いや、その金どこからでとると?」
「まぁ清水にはいつか話そうと思ってたから今日話すか。」
「そうね。」
「清水今から暇?」
「おぉ、暇やけど。」
「飯行くか。」
「わかった。」
「俺車先導するからついてきて。」
「りょ。」
大学の駐車場から車を出して、二台の車が向かったのはウェスティンホテル大阪。
地下駐車場に車を止めると少し遅れて清水が来た。
「あら、こんなかしこまった場所で?」
「まぁ個室あるからな。」
「なるほど。」
「予約取れたよー。」
「サンキュ!」
「じゃ、行きましょうか。」
3人は3階の日本料理「はなの」にむかい、予約名を告げ、個室に案内される。
個室で和食のフルコースを食べ、テストの感想や最近の話などをし、料理も終盤になり、いよいよ核心に至ろうとしていた。
「で、どしたと?」
「まぁ、色々あって、会社を経営してるのよ。何個か。」
「ほー。なるほどなぁ。」
「んで総資産がそろそろ兆の位が見える。」
ガシャーン。
清水は手に持っていた烏龍茶の入ったグラスを落とした。
その音を聞いてすぐにスタッフさんが個室に入ってきて掃除して去っていった。
「え、マジ?」
「マジもマジも大真面目よ」
「いや、ひとみちゃんはそういう冗談言うタイプやないけども。」
「いや、俺自身も本当によくわからなくて。
まぁ証拠になるかわからんけど。」
あきらは財布の中のブラックカードを何枚か見せた。
「いや、ダイナースのプレミアムも、アメックスのセンチュリオンも、JCBのザ・クラスも、VISAのインフィニットもあるやん…。」
「いや、物知りやん。」
「ダイナースのプレミアムは家族カードで俺も持ってるんよ。」
「さすが九州の王族」
「育ちは悪いっちゃけどね。」
「はぁー、ほんまなんやね。」
「うん、ほんまなんよ。」
「まぁそれなら納得やわ。」
「納得したかね。」
「うん、霧島すっげぇな。」
「案外サラッとしとるな。」
「まぁ霧島個人でそれを築いたっていうのはすごいけど、うちの周りにもすごいのおりすぎて麻痺したんかもしらん…。」
「あー、確かに。」
「清水くんちもすごいの?」
「ああ、ひとみには言ってなかったね。」
「うん。」
「清水言ってもいい?」
「まぁ自分から言うと自慢みたいで嫌やしな。
頼むわ。」
「なんか俺すごい自慢したみたいになってない?大丈夫?」
「ええけん言え!」
清水は笑いながら急かした。
「まぁ、清水の家は九州全体を牛耳る日本有数の金持ち一家なのよ。
親族には政治家やら官僚やら大企業のトップがウヨウヨ。
今のグループ企業は学校法人、中堅ゼネコン、セメント会社、石油精製会社などなどで、親族みんなで総資産いくらくらい?」
「二兆。」
「だそうです。」
「ふぁー、すごい。」
「そういうひとみも家すごいでしょ?」
「え、そうと?」
「まぁね。うちは土地持ちの家だから。不動産と建設だし。」
「どれくらい持ってるんだっけ?」
「日本の山の半分くらいかな…?」
日本は国土の7割を山野が占めている。
その7割の山野の半分といえば、日本の国土面積の三分の一超を個人の家が所有しているということである。
「あと、水も持ってるよね。」
「あ、そうそう、水源地をたくさん持ってる!」
「日本の要やん、もう。」
「水源地は大事だからね!」
「なんかひとみちゃんもう昔の大名みたいやね…。」
「大昔は結城の山を通らずに江戸に抜けることはできんって言われてたらしいよ。」
「ガチの良家のお嬢様やね…。」
「うちのお父さんもお母さんもこんな感じよ。
表に出るときだけシャキッとする!」
「あぁー、うちと似たような感じっちゃんねー。
じゃあ今でもいっぱい持っとっちゃろ?」
「いやいや、親戚で誰か死ぬと大変なんだよ…。
いくら税金対策頑張っても相続税とかえげつないし、押し付け合いだよ…。」
「ということで、清水なら話しても大丈夫かなと思って。資産家だし。」
「なるほどなぁ。
あんまりおおっぴらにしよったら前みたいな奴が沸くけんねぇ。」
「そうやね。」
「前みたいなやつってだれ?あきらくん。」
「金目当てで近づく奴よ。」
「あー。なるほど。」
「以上が私からの報告でした!」
「ありがとうございました。」
「どういたしまして。」
なぜかひとみが礼を言う。
「あ、新しい家引っ越すってことはひとみちゃんも一緒に住むと?」
「そうやね。」
「そうだよ。」
そう、話し合いの結果、ひとみも一緒に住むことでカタがついた。
それに伴って近日中に誤りがないように、親父さんに報告しに行くことになっている。
親父さんも多忙なので、日程は調整中だ。
「引っ越したら教えてや。祝い持っていくわ。」
「あ、九州の王族の祝いって期待値上がるねぇ。」
「何くれるんだろうね!?!?」
「まぁ、お楽しみに。」
「「おぉ〜!!」」
「じゃあ、我ら3人のこれからますますの活躍を祈って!」
なぜか清水が乾杯の音頭をとる。
「「「カンパーイ!」」」
「なんで清水が?」
「そうよ、そこはうちのあきらくんでしょ?」
「モンスターペアレントかよ。」
清水の声が個室に響き渡った。
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